事業存廃に関わる問題 台風15号被害 全線復旧めど立たず 鈴木肇・大井川鉄道社長【聞きたい】

 9月の台風15号により大きな被害を受け、現在も本線の運休が続く。12月の金谷-家山間の運転再開と「きかんしゃトーマス号」運転に向け復旧工事を急ぐが、全線開通のめどは立っていない。新型コロナウイルスの影響による観光事業の落ち込みに続く災害で、長期的な影響が懸念される。

鈴木肇社長
鈴木肇社長

 被害状況と復旧のめどは。
 「本線で20カ所、井川線で26カ所と過去にない大きな被害を受けた。井川線は22日に全線開通したが、本線は採石場跡地からの大量の土砂で埋まった神尾-福用間をはじめ、影響が大きい。収入が絶たれる中、まずは全線にこだわらず鉄道を動かすことが最優先だ。家山駅までのトーマス号運転は以前も経験していて、十分収入が見込める。千頭までの開通も急ぎたいが、本来行ってきた自力での対応は難しく公的支援を求めたい」
 年間70万人前後で推移してきた旅客数は新型コロナの影響で半減した。
 「全国からの観光旅客受け入れによる収入で地域輸送の赤字を補塡(ほてん)しているため、大きな打撃となった。2020、21年度と赤字が続いて体力が落ちている中、紅葉シーズンを失うのは痛手。鉄道インフラの維持更新が企業単体では難しくなり、鉄道事業の存廃に関わる問題として捉えている」
 どのような支援が必要か。
 「全国のローカル鉄道では急速にバス路線化が進んでいる。地域輸送だけを考えれば大鉄もバスで代替可能だが、大井川流域の観光面で鉄道は不可欠だ。一方、観光事業に対する公的支援の仕組みはなく、災害前から続く問題が顕在化した。国や県、市町など関係機関と連携し、抜本的な対策につなげたい」
 25年の創立100周年に向けたプロジェクトへの影響は。
 「蒸気機関車(SL)C56形135号機の動態化など、全事業を予定通り進めたい。11月30日まで実施中のクラウドファンディングでは、支援とともに災害復旧に向けたメッセージを大勢の方からいただいている。環境は厳しいが、将来にわたって鉄道を残すという夢は捨てていない」

 すずき・はじめ 1986年入社。取締役管理部長、専務取締役などを経て2017年10月から代表取締役社長。静岡市出身。60歳。

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