求められる取水源議論 布沢川ダム建設中止 結論出ぬまま利水放置【検証 清水区断水㊥】

 静岡市清水区吉原の山中に、渡りきった先が行き止まりの工事用橋梁(きょうりょう)がある。今は富士山の眺望スポットとして交流サイト(SNS)で人気を集めるこの橋。かつて同区の生活貯水池として整備が進められた「布沢川ダム」の建設予定地に延びるはずだった。2011年に進捗(しんちょく)率37%だったダムは、当時の民主党政権が掲げた「コンクリートから人へ」の流れの中で、県内で唯一中止となった。

布沢川ダム旧建設予定地
布沢川ダム旧建設予定地
北部ルートの中間地点にある柏尾配水池。奥に清水港が見える=19日、静岡市清水区柏尾(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・小糸恵介)
北部ルートの中間地点にある柏尾配水池。奥に清水港が見える=19日、静岡市清水区柏尾(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・小糸恵介)
布沢川ダム旧建設予定地
北部ルートの中間地点にある柏尾配水池。奥に清水港が見える=19日、静岡市清水区柏尾(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から、写真部・小糸恵介)

 「水道事業者である市において、本検討結果も踏まえつつ、さらに検討して決定する」―。建設中止を決定後の12年12月に県が公表した「検証に係る検討報告書」。最終161ページの「中止に伴う事後措置」にはそう記載がある。ダムに代わる利水代替案探しは、いわば脱ダムの“宿題”となっていた。
 報告書では1985年の渇水の経験から、安倍川水系から清水区に送る「北部ルート」「南部ルート」を加味しても不足する約11万立方メートルについて、ダム建設を含めた6案を示し最善策を議論。治水・利水両面の「総合的な評価」の結果、建設中止となった布沢川ダム。利水対策ではなおも最後まで「ダム案が最も優れている」とされた。
 一方、この6案の中の2案は富士川水系の水を恒久水源とするプランだった。今回の断水時にも興津川沿いの谷津浄水場に「緊急融通」された同水系の水の利活用は、ダムに代わる案として当時、特に重点的にコストや実現性を議論したことがうかがえる。
 静岡市の水道行政はその後どのような経過をたどったのか。
 上下水道局は報告書の提示から4年後、国への水道事業変更許可申請で「将来的な人口減少により水は余る」と需給を変更。布沢川ダムに代わる案の検討は行わなかった。
 ただ、今回の断水を経た今月6日の市議会企業消防委員会で、榊原光男上下水道局次長は「いろいろな取水源を確保できるように研究する」と述べ、軌道修正した。ちぐはぐな対応に局内からも困惑の声が漏れる。
 名古屋大減災連携研究センターの平山修久准教授(災害環境工学)は「防災や危機管理の基本は見たくないことをきちんと見ること。富士川水系での水利権調整には費用、人、時間がかかり、水道料金に跳ね返るが、この備えを市民が余剰と捉えるか余裕と考えるか。清水区の断水を契機に市は開かれた議論を始めてほしい」と述べた。

 北部ルート・南部ルート 天候に左右されやすい興津川の表流水に水源を頼るため渇水に悩まされていた旧清水市と、旧静岡市が2003年4月に行った合併を機に計画された。06年度に南部ルートが運用開始、柏尾配水池など北部ルートの整備は20年1月に完成した。両ルート合計で安倍川の伏流水由来の飲用水を平均1万2千立方メートル送ることができる。

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