大自在(9月16日)急激な円安

 幕末の1856(安政3)年、下田に着任した米国初代駐日総領事タウンゼント・ハリスには、通商条約締結の前に片付けるべき任務があった。日米和親条約(54年)に基づく水や燃料の補給にも必要な通貨問題である。
 下田協約(57年)で日米貨幣の交換レートが定まった。日本側はメキシコドル銀貨(洋銀)1枚と、4枚で小判(1両)の価値がある天保一分銀とを1対1でと求めたが、ハリスは重さを基準とする「同種同量原則」に沿い、洋銀1枚と一分銀3枚の交換を主張した。
 幕府が受け入れてしまったため、洋銀4枚(4ドル)が小判3枚(3両)と“両安ドル高”に。日米修好通商条約が58年に締結されると、外国商人は洋銀と交換した一分銀3枚を金貨3分にして国外に持ち出した。国際レートで金を銀に替えると、元手の洋銀1枚は洋銀3枚に。
 通商条約は外国通貨の日本での使用と日本通貨の移出を制限せず、これが繰り返されて金貨が流出し経済は混乱した。ハリスもかなり稼いだらしい。伊東市に住んだ作家の故佐藤雅美氏のハリス評は、通説と異なり辛辣[しんらつ]だ(「幕末の通貨危機」)。
 今、外国為替市場は刻一刻上下する変動相場である。このところ円安が急激に進み、一時1ドル=145円に迫り、介入が取り沙汰された。
 輸入原材料やエネルギーの値上がりなど円安の影響は大きいが、転機の芽もある。昨年1兆円を超えた農林水産物・食品輸出額は、目標「2025年に2兆円」のハードルが下がる。茶は輸出重点品目の一つ。開国当時のように光が当たるといい。

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