いつまでマスク? 新型コロナの常識アップデート【NEXT特捜隊】

 新型コロナウイルスの流行第7波(静岡県内第8波)に見舞われていますが、死亡率や重症化率は季節性インフルエンザ並みに下がっています。長引くマスク生活を、皆さんはどう感じていますか?
 静岡新聞社「NEXT特捜隊」が7月9〜17日に実施したアンケート「3度目の夏、マスクどうしてますか?」には、441人から多様な意見が寄せられました。
 私たちは現状をどう理解し、行動すればいいのでしょう。感染症医、環境教育に携わるNPO代表、憲法学者、内科医を交え、マスクと感染対策を、今改めて考えます。

▼感染症医・矢野邦夫さん「重症化しにくい風邪と認識を」
▼環境教育NPO法人理事長・山本由加さん「他人の行動に寛容でいたい」
▼憲法学者・根本猛さん「交流や体験も大切な権利」
▼緩和ケアに取り組む内科医・岩井一也さん「過剰な対策は国民性も一因」
▼音声配信=コロナ禍3回目の夏 いつまでマスク? NEXT特捜隊記者トーク


 ※アンケートは統計に基づく調査ではありません。回答者属性は こちら
 アンケートは7月9〜17日、インターネットで実施しました。ちょうど流行の波が始まろうとしていた時期でした。

 
 

 「マスク着用について、最も近いのは」を尋ねると、「場に応じて感染リスクを自ら判断し、着脱している」が78.2%に上りました。
 国や県は5月、屋外では相手と2メートル以上の距離があれば、あるいは会話がなければ「マスク不要」との考え方を示しましたが、それに「従っている」としたのは10.4%でした。
 「その他」と答えた25人のうち、自宅にいる時や1人でいる時以外は「常時着けている」が14人、基本的に「しない」が2人でした。

 
 

 「今、マスクを着ける一番の理由」については、半数以上が「新型コロナの感染を防ぎたいから」と答えました。「あらゆる感染症を防ぎたいから」を含めると、71.9%を占めます。
 一方、「皆が着けているから、周りの目が気になるから」「着用が推奨されているから」という「外的要因」を選んだ人は、合わせて21.5%。
 「その他」とした13人の中には、「トラブルを防ぐため」(自営業52歳女性)、「公共の場での仕方ないマナーだから」(会社員67歳男性)、「周りの人を不安にさせないため」(団体職員36歳女性)などの意見がありました。

 
 

 着用について困っていることを尋ねた設問(複数回答)では、86.2%が「暑い、息苦しい」と答えました。
 意思疎通のしづらさや不快感に困っている人も、それぞれ半数近くいます。16.8%は「子の発達に影響しないか不安」を選びました。「特にない」は5.7%でした。
 「その他」を選んだ12人のうち4人は、マスクのゴムが当たり「耳が痛い」と訴えました。「剣道はマスクとフェースシールドが義務付けられていて辛い」(会社員44歳女性)との記述もありました。

 
 

 新型コロナ収束後もマスクを着け続けたいかを問うと、それぞれ「どちらかと言えば」を含め、「思う」は41.3%、「思わない」は58.7%でした。
 「思う」と答えた会社役員37歳女性は「喘息や花粉症がある。マスク生活は症状の安定に効果があり、今後も着用したい」といいます。

 
 

 新型コロナに感染するリスクと、マスク着用等による熱中症にかかるリスクについての考えも聞きました。
 「どちらも心配」が49.2%と最多で、コロナと熱中症のどちらかをより心配する人の数は拮抗しました。「どちらも心配ではない」は1.6%にとどまりました。

 

 最後の設問「再び感染拡大が起きた場合、政府はどのような態勢を取るべきか」に対して、「新たな変異株の致死率などに応じてその都度判断する」が40.4%と最多でした。
 14.1%は「行動制限を呼びかけるべきではない。それぞれの判断で拡大防止に努める」を選択。「拡大防止に努める必要はない」は4.5%でした。

 

コロナの現状を、感染症医の矢野邦夫さんに聞きました

 

病態は風邪と同等 「もう、特別な感染症ではない」
―コロナが人体に与える影響をどうみていますか?
 オミクロン株が流行した今春以降、コロナが原因で肺炎が悪化して人工呼吸器を付ける患者はほとんどいません。慢性肺炎の高齢者が感染して搬送されることはありますが、体が弱っている人には全ての感染症が脅威になり得ます。後遺症を心配する人もいますが、 広く知られていないだけでコロナ以外の病気でも回復後に不調が続くことはあります。 
 その意味でコロナはもう、特別な感染症ではありません。子どもだけでなく、 基礎疾患のある大人や高齢者にとっても、 病態は風邪と同等になったといえます。
 コロナは変異するごとに病原性(毒性)が弱まり、人から人にうつりやすくなっています。ワクチンの効果も相まって、 死亡率は季節性インフル並みに下がりました。

 

 世界には常にさまざまな感染症があります。 致死率の高いエボラ出血熱などは何としても防がなければなりませんが、重症化しにくく後遺症の心配も少ない感染症は、感染を過度に恐れなくて良いです。そのような感染症をゼロにすることはできないし、 する必要もありません。
 感染症による重症化や後遺症のリスクを下げるために、ワクチン接種が大切です。ただし免疫不全の人は、ワクチンを打っても重症化を防ぐ効果を得にくいので、新型コロナに限らず感染症には注意が必要です。

子どもが免疫を得る機会を奪われる マスクし続ける弊害
―「風邪」なのに国や県はマスク着用を呼び掛け続けています。
 体の弱った人が治療を受けている病院など一部を除いて、 着用は求めなくていい段階に入りました。 感染症法上の扱いを、現行の2類相当から季節性インフル並みの5類相当に速やかに変えるべきです。
 マスクで感染症を防ぎ続ければ弊害もあります。例えば唾液でうつるサイトメガロウイルス。子どもの時に感染すれば無症状で済みますが、妊婦が感染すれば胎児に影響します。 おたふくかぜも大人がかかると重くなりやすいです。子どもがしかるべき時に、 しかるべき感染症にかかって免疫を得る機会を奪われています。
 オミクロン株は感染しても半数程度は無症状との推計があり、すでに国民の2割は感染した計算になります。米国ではほぼ全国民が感染済みと推定されます。日本もいずれそうなります。
 マスク着用や人との距離を保つことは、かかる時期を遅らせる点ではメリットがありますが、 何年も続けることで人間らしい生活を妨げられるデメリットは非常に大きい。一人一人が必要に応じて予防すれば十分です。

大抵は自然に回復 「1年前のコロナのイメージ改めて」
一第7波(静岡県内第8波)に入り医療の逼迫(ひっぱく)が再び懸念されます。アンケートでは、 飲み薬の普及を待ち望む声も多かったです。
 コロナが重症化した場合の治療法はすでに確立し、世界中で共有されています。 重症化リスクのある人が服用する薬もあります。 
 確かに外来で飲み薬が処方されるようになれば安心感は高まるでしょう。しかし、 季節性インフルも風邪も大抵、薬を飲まなくても自然に回復します。
  今、医療が逼迫しているのは、自宅で休めば治る軽症者が、診断を求めて医療機関に押し寄せているから。また、けがで搬送されたとしても、感染していると一般病床でなくコロナ病床に入らなければならないから。
 コロナは1年前のイメージと異なる、重症化しにくい風邪だと、認識を改めてほしいです。風邪症状で診療時間外に受診するのは控えてください。
 

やの・くにお  浜松医療センター感染症管理特別顧問、 浜松市感染症対策調整監、県新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員

 


 

■私はこう思う①/3 他人の行動に寛容でいたい
環境教育を行う認定NPO法人エコエデュ理事長 山本由加さん

 一つ忘れてはならないのは、マスクを着けて会話する状態は「普通ではない」ということ。戦争や災害で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する人が少なくないように、長引く異常事態で大人も子どもも心身が傷つき、弱っている。 回答者の自由記述を読み、改めてそう感じた。
 感染症が広がるのは、誰のせいでもない。 ウイルスは、人の思い通りにはならない。あなたとあなたの家族を守ることに専念しては。 他人の行動には寛容でいたい。
 家庭や職場で「前はお祭りの時、 みんなで笑い合って楽しかったね」「子どもたちにも早くそんな日常を取り戻してあげたいね」と語り合ってはどうだろう。 身近な小集団の中で「この場面ではマスクを外そう」と、いま一度確認し合うのもいい。 コロナ禍で染みついた行動や感情の「こわばり」を、一つずつ解いていこう。

 

 

■私はこう思う②/3 交流や体験も大切な権利
人権問題に詳しい静岡大名誉教授 根本猛さん

 かつて脳死を巡る議論の中で、日本人にとって生き方の「質」は二の次で、 一日でも長く生きていることを重んじる死生観があると感じた。 加えて日本人は、 リスク回避思考が強い。
 国のコロナ対策は、重症化リスクのある高齢者らが「コロナで」 亡くなるのを防ぐことに重点を置いた。 一方、 施設で元気に暮らしている高齢者や、病院で闘病中の患者が家族と面会する権利や、この先90年を生きる子どもが友達と交わったり一生に一度の修学旅行を体験したりする権利は後回しにされた。
 新型コロナは重症化しにくい感染症になったといわれる。それぞれが自分の判断で予防に努めればよいのではないか。 首相や知事が「(マスクは個人が必要な時だけ着用する)元の状態に戻ろう」とはっきり言う時だ。

 

 

■私はこう思う③/3 過剰な対策は国民性も一因
緩和ケアに取り組む静岡市立静岡病院血液内科長 岩井一也さん

 日本では、余命いくばくもない家族に「延命治療で一日でも長く生きていてほしい」と望む人が多い。本人の容体にあらがって栄養や水分を無理やり補給するのは苦痛を与えることだと説明すると、 大半が家族の延命を思いとどまる。
 日本人は問題に直面すると「手を尽くさない」ことを忌み嫌う傾向があると思う。一見すばらしいことだが、諸外国と違って過剰な感染対策が続く理由の一つではないか。
 医師も行政も政治家も、 静観ができない。 注意喚起せずに後で責任を問われるかもしれない事態に耐えられない。だから「緩めよう」 「やめよう」とは言えず、 「対策徹底を」と言い続ける。
 マスクは、マナーの良さを示すためでも、 人に不快な思いをさせないためでもない。意思疎通を妨げるほか、 酸欠による思考力低下が指摘されるなど、着用の弊害は確実にある。このまま習慣になってはいけない。

 

  〈「3度目の夏、マスクどうしてますか?」アンケート概要と回答者属性〉
 7月9〜17日に実施。「NEXT特捜隊」と「こち女」のLINEで配信し、 記事やSNSでも広く回答を呼び掛けた。
 回答者は男性164人 (37%)、女性273人 (62%)、 その他4人(1%)の計441人。 うち静岡県内在住者は94%。 世代別の割合は40代が26%、 50代24%、 60代19%、 30代13%、 70代8%、 20代5%、 10代と80代がそれぞれ2%。


 
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