浜松伝統「30分間回泳」を知っていますか? 「子どもが大変そう」という投稿を受け現地へ㊤【NEXT特捜隊】

可美小5年の高阪奏介さん(左手前)。合格後、「水泳は得意でないけれど、補習で練習して泳ぎ切れた」と笑顔を見せた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ(写真の一部を加工しています)
可美小5年の高阪奏介さん(左手前)。合格後、「水泳は得意でないけれど、補習で練習して泳ぎ切れた」と笑顔を見せた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ(写真の一部を加工しています)
50メートル×25メートルのプールの両端から、約200人が一斉に泳ぎ始めた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ
50メートル×25メートルのプールの両端から、約200人が一斉に泳ぎ始めた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ
開始3分ほど。プールに流れができてきた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ
開始3分ほど。プールに流れができてきた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ
可美小5年の高阪奏介さん(左手前)。合格後、「水泳は得意でないけれど、補習で練習して泳ぎ切れた」と笑顔を見せた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ(写真の一部を加工しています)
50メートル×25メートルのプールの両端から、約200人が一斉に泳ぎ始めた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ
開始3分ほど。プールに流れができてきた=22日、浜松市西区の市総合水泳場トビオ

 「30分間回泳、子どもが大変そうです」
 浜松市西区に住む女性(40代)から静岡新聞社「NEXT特捜隊」に不安を訴える投稿が届いた。浜松市出身ではない私(記者)にはなじみのない行事だ。運営主体である、小学校の体育主任らでつくる組織「浜松市小学校体育連合(小体連)」に尋ねた。【記事の最後に「30分間回泳」の様子が2分で分かるタイムラプス動画があります】
 

泳力・気力養う

 小体連によると「30分間回泳」とは、市内の主に小学5年生が大きなプールで立ったり壁につかまったりせず、反時計回りで泳ぎ続けることに挑戦する浜松の伝統行事。達成者には合格証が授与される。遠州灘など多くの河川や湖に囲まれて育つ浜松の子どもたちに、水の事故から身を守る泳力、自信、気力を身に付けてもらおうと、1966年度に始め、ことしで57回目となる。
 ちなみに浜松市史には、戦後しばらくの状況としてこんな記述もある。「小中学校では浜名湖や天竜川、都田川などに児童・生徒を引率して水泳訓練をしていた。(中略)数日間水泳訓練を行い、最終日に遠泳をして終わるという学校が多かった」。浜松の水泳教育は回泳以前から脈々と続いているようだ。

参加は「希望制」

 投稿者の言葉通り、児童が30分泳ぎ続けるのは容易ではなさそうだ。しかし長年、体育の指導に携わってきた小体連の中村孝夫会長(市立可美小校長)は「初めの3分間を泳ぎ切ると、その調子で30分間泳ぎ切れる子が多い」と説明する。息継ぎ、力を抜いて水に浮くなどの基本ができれば完泳可能で、合格率は毎年8割強という。
 参加は希望制。これまでは各校独自の用紙などで意向を確認してきたが、保護者からの戸惑いや不安の声を受け、2020年度からは全市統一の「参加確認書」を配布。「参加します」「参加しません」のどちらかに丸を付ける欄を設けた。参加率は各校とも例年8~9割程度という。
 そうは言っても、みんなが参加する中、自分だけ不参加とは言い出しにくいのではないか。市教委に尋ねたところ「無理に参加を促すことがないよう、小体連と各校に丁寧な説明をお願いしている」と回答した。

累計合格30万人

 コロナ禍の分散開催などを経て3年ぶりに一斉開催となったことし、市内約90校の計約6000人が3日間に分かれ参加。一部学校を除き、同市西区の市総合水泳場トビオに集った。初日の22日。会場には、児童を乗せた大型バスが続々と到着。30分刻みで約200人ずつ、泳力を試した。
 トップを切ったのは市立可美小と大平台小。児童は約140センチの深さに驚きながらも笛の合図で一斉にスタート。開始から3分ほどたつと、プールに左回りの流れが発生。まるで「流れるプール」のようだ。児童は流れに乗りながら平泳ぎや背泳ぎなど、各自泳法を変えて挑んだ。残り時間の放送のたびにプールサイドからの拍手は大きく。「良い調子」「ゆっくりでいいよ」。教諭の声援も熱を帯びた。終了の笛で水から上がった児童の晴れやかな表情がまぶしかった。
 自身は5年時に一度不合格となり翌年の再挑戦で合格した中村会長は「『まず3分』『次は5分』と自分なりに挑戦してほしい」と後輩にエールを送る。
 ことしも多くの児童が合格。累計合格者数は30万人を突破した。投稿者のお子さんもことし合格。「無理だと思っていたが本番泳げて『やればできる』と思った」と自信をつけた様子だ。浜松伝統の“やらまいか精神”が育まれる環境の一端を垣間見たようにも思えた。

 

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