大自在(5月26日)水を巡る苦渋

 水が絶たれると生活生業はたちまち混乱する。改めて思い知らされた。菊川市の八王子配水池の水位低下による断水と水圧低下は直径10センチの硬質塩ビ管の破断が原因だった。東名高速道の側道に埋められ、敷設から半世紀近く経過していた。
 地中構造物の老朽化は判断が難しい。長谷川寛彦市長は「更新計画をしっかり見直す」と陳謝した。高度経済成長期に多くの公共インフラが張り巡らされた。地道に改修していくしかない。
 隣県の愛知からも、水を巡る人々の苦渋が伝わる。豊田市を流れる矢作川の取水施設「明治用水頭首工[とうしゅこう]」の大規模漏水で、農、工業のいずれの配水も滞った。田植えの時期に農家の苦悩はいかばかりか。
 三河地域に集積する自動車産業も広範囲に打撃を受けた。工業用水は製品の洗浄や空調に使用される。冷却水不足でごみ焼却にも影響が出た。工業用に毎秒3トン、農業用に5トンが必要という。緊急稼働させる仮設ポンプは110台程度に上る。頭首工周辺に極太のホースがずらりと並ぶ光景は異様で、事態の深刻さを映す。
 段階的な供給開始にこぎ着けたが、対策完了までポンプをフル稼働させるしかない。水は低きに流れるのが自然の摂理で、毎秒数トンの水をくみ上げる困難さを目の当たりにした。懸案の大井川の水問題に思いを致さざるを得ない。
 浪費や無駄遣いを「湯水のごとく」と表現する。ただ、水がどこにでも潤沢にあり続けると思う人は限られ、いずれ死語になるだろう。きれいな水と空気を維持するため、不断の努力を惜しんではならない。

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