元気です「食堂あんと」 静大生の胃袋支え40年 静岡・大谷
静岡大の学生向けの寮やアパートが多く集まる静岡市駿河区大谷地区。1999年に完成した大谷川放水路の建設に伴う区画再編で街並みは少しずつ変化してきたが、若者たちの胃袋を古くから支えてきた飲食店は今も元気だ。変わらない味や豊かな自然に囲まれ、学生たちの明るい声が響く。
「おまちどおさま」―。食堂あんとの店内に深山益江さん(66)と長男で店長の隆治さん(45)の笑顔がはじける。旧大谷街道沿いに、益江さんと夫で元店長の正博さん(66)の夫婦で店を立ち上げて約40年。苦難を乗り越え、家族で店を守ってきた。
益江さんと正博さんは「安くておいしくてボリュームがある店にしよう」と1983年11月にオープン。店名は、当時6歳だった隆治さんが「ありがとう」を「あんと」と言ったことに由来する。
店のこだわりはドレッシングやチリソースなどの調味料で、やきそばソース以外は全て手作りだ。人気メニューは丼物と牛すじラーメン。丼物は500グラムを超え、牛すじは3時間じっくり煮込む。
2009年、正博さんが脳出血で倒れ、隆治さんが店を継いだ。14年には次男の陽広さんが仕事中の事故で亡くなった。益江さんは「何もする気が起きなかった」。
前を向かせてくれたのは学生たちだった。1人暮らしの若者が「またくるね」「この店のみそ汁が一番」と声を掛けてくれた。卒業後に出産の報告をしてくれた常連もいる。
これまでに雇った静大生のアルバイトは200人を超える。焼津市の会社員林健一さん(24)は大学時代に3年間、働いた。就職活動がうまく進まず精神的につらかった時、2人に話を聞いてもらったという。林さんは「お父さんとお母さんのような存在」と感謝する。
益江さんが「どうせやるなら明るく元気に」と言えば、隆治さんは「家族が守ってくれた店。やれるところまで続けたい」と笑う。学生たちとの元気の交換はまだまだ続く。