ルートの水環境への影響、「名水百選」など文化的な湧水で比較 国交省の委員会【大井川とリニア】

 南アルプス(大井川上流域)をトンネルで貫通するリニア中央新幹線のルートを採択した国土交通省交通政策審議会小委員会が2010年に各ルートの水環境に与える影響を議論した際、名水百選などの文化的な湧水の数で比較していたことが16日までの同省などへの取材で分かった。大井川の水源に当たる上流域に関して同省は、議論に使った調査資料に「代表的な湧水は存在しない」と記していた。

リニア中央新幹線のルートを選定した国土交通省小委員会で、水資源を議論する際に使われた資料
リニア中央新幹線のルートを選定した国土交通省小委員会で、水資源を議論する際に使われた資料
リニア中央新幹線のルート案
リニア中央新幹線のルート案
リニア中央新幹線のルートを選定した国土交通省小委員会で、水資源を議論する際に使われた資料
リニア中央新幹線のルート案

 南アルプスに詳しい狩野謙一静岡大客員教授(構造地質学)は「トンネルを掘るルートの検討に文化的な名水を使うのは不適切だ」と指摘している。
 小委員会は10年12月、長野県の諏訪盆地を回る伊那谷ルートと南アルプスルートを比較し、JR東海の希望通り南アルプスルートが「適当」と判断した。同省は水環境の調査資料を同年10月の第9回会合に提示。環境省の湧水保全ポータルサイトに掲載されたコーナー「代表的な湧水」の名水箇所を地図上に点で表し、各ルート上の点の多さを比べられるようにした。
 「代表的な湧水」は市区町村へのアンケートに基づいてまとめた、湧水池や水の湧く神社、親水公園などの情報。調査資料で伊那谷ルートは「53カ所」とし、地図上に多くの点を記載したが、静岡市の大井川上流域を含む南アルプスルートは点がなく、「存在しない」とされた。
 同市の担当者は取材に、大井川上流域の「代表的な湧水」の数は以前から「不明」とし、サイトに掲載していなかったと説明。「環境省が扱ったのは文化的価値のある湧水や地域が語り継いでいる湧水。大井川源流部には湧き水が数え切れないほどある」と答えた。
 国交省鉄道局の担当者は「山の中には湧水が無数にあるので調べ切れていなかったのではないか。(JR東海がルート採択後の)環境影響評価でしっかり検討するべきだった」とコメントしたが、JR東海の金子慎社長はルート選定について「法律にのっとって行われた」との見解を示している。

 ■ルート変更で早期解決を
 農家に水を供給する大井川土地改良区の内田幸男理事長の話 南アルプスルートを採択した際にJR東海から全く説明がなかった。ルート選定時に大井川の水を軽く見ていたのではないか。事業主体が最終的な責任を持ち、上流域を通る計画のルートを、流域を通らない北側に変更してもらいたい。その方が問題が早く解決する。

 ■水資源への影響前提「補償で対応」 当時の担当者
 リニア中央新幹線で南アルプス(大井川上流域)ルートを採択した国土交通省交通政策審議会小委員会では、同省の担当者が流域で水資源への影響が生じることを前提に「必要な補償をルールに従ってやることになる」との見解を示していた。大井川中下流域の利水者は現在、補償ではなく、影響が出ないように水量や水質の現状維持を求めている。
 2010年10月の第9回会合の議事録によると、同省の潮崎俊也技術開発室長が委員の質問に答える形で「水源に使っていた河川だとか、沢だとかが枯れてしまうことは今のアセス(環境影響評価)でも100%予想できない。その場合には一定の補償基準に基づいて補償させていただくことはこれまでも全て対応している」と説明し、流域住民への補償が既定路線のような発言をしていた。
 当時はルート採択前で、大井川中下流域の利水者は水資源への具体的な影響について同省やJR東海から説明を受けていなかった。

 

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