【深田晃司監督「恋愛裁判」】 「恋愛ってそういうもの」「うそをつかない生き方」をバランス良く提示

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のシネシティザート、磐田市のTOHOシネマズららぽーと磐田で1月23日から上映中の深田晃司監督「恋愛裁判」を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

カンヌ国際映画祭「カンヌ・プレミア」部門正式出品。深田晃司監督が2016年、元アイドルの女性が異性との交際を契約違反とされ、裁判で賠償を命じられたという新聞記事を読んだのが企画の端緒という。このニュースを「人権問題じゃないか」と捉え、物語を膨らめていく作家的感性にまずは共感する。

ストーリーはほぼ記事の通りに進む。5人組アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンターを務める山岡真衣(齊藤京子さん)は、大道芸人として活躍する間山敬(倉悠貴さん)と恋に落ちる。衝動的に間山の元に走りグループを脱けた山岡は、事務所から専属契約を解除され、「恋愛禁止条項違反」による損害賠償請求訴訟を起こされる―。

アイドルという職業はファンの前でパフォーマンスし、ライブ後は「握手」という名の接触を伴うコミュニケーションを行う。一般人の「非日常」がアイドルグループの「日常」だ。アイドルグループとしての「常識」は、時に一般人にとっての「非常識」である。この作品の中で恋愛を「過失」と表現する場面があるが、まさに「非常識」を象徴する言葉と言えよう。

「非日常-日常」「常識-非常識」は不可逆だ。深田監督は、この対比の間に「恋愛」というパイプ、抜け道を打ち込み、可逆性をもたらそうとする。

エンターテインメントとしてスリリングなのは、アイドルの日常が非日常であり、アイドルの常識が非常識であることを、視覚的に分かりやすく伝えているからだろう。

ハッピー☆ファンファーレのリーダー(今村美月さん)は「(恋愛で)裏切るような子がいたら絶対に許さない」とつぶやき、自分もアイドルだったマネージャー(唐田えりかさん)は法廷の証人尋問でアイドルが恋愛禁止である理由を問われ「応援してくれるファンがいて初めて成り立つ仕事だから」とまばたきせずに答える。

アイドル業界のお約束や不文律に、アイドル当事者のみならず関係者全員が絡め取られる姿には、哀れさや戦慄を覚える。特定の人物が大きな「力」を発揮して全体をコントロールしている、というより「アイドルとしてこうあるべき」というテーゼのようなものに全員が飲み込まれている。

これを踏まえて本作を見ると、本当のテーマが見えてくる。ガチガチに固められた「アイドルとしての常識」を反転しうるものは何かという点だ。それは「恋愛」に宿る闇雲な衝動だったり、「自分にうそをつきたくない」という強い気持ちである。どちらも人間であれば誰もが持ちうる自然な感情だろう。

深田監督は「非日常」「非常識」のアイドル業界から、一般人である観客の「日常」「常識」に光を当て、背中を押す。華やかなアイドルの世界を描いているが、本作の本質は筆者も含めた「名もなき人」へのエールである。

物語の未来を暗示する非常に重要な場面を、静岡県下田市で撮っている。深田監督の作品と言えば、第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された前作「LOVE LIFE」(2022年公開)でも静岡市清水区の清水港が出てきた。世界の映画祭で高い評価を得ている監督が、静岡の風景の魅力を引き出してくれたことは、県民の一人として大きな喜びである。

<DATA>※県内の上映館。2月1日時点
シネシティザート(静岡市葵区、10日まで)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市、10日まで)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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