​【沼津市出身のシンガー・ソングライター、心愛-KOKONA-さんインタビュー】「当たり前って何?」や「未熟なりの葛藤」を歌にする16歳

2024年1月のデビュー以降、精力的に楽曲リリースを続ける沼津市出身のシンガー・ソングライター心愛ーKOKONAーさん。6月に牛丼チェーン「松屋」のオリジナルブランドソング「特別じゃない特別」も発表した。年末には東京・新宿で自身最大規模のワンマンライブも決定している。「シンデレラストーリー」を歩みつつある16歳に、創作の経緯や音楽への向き合い方を聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充、写真=東部総局・田中秀樹)

松屋ブランドソングは「放課後のエモい感じ、元気なイメージ」

-「特別じゃない特別」が松屋のオリジナルブランドソングになったいきさつを教えてください。

心愛:メールで連絡をいただいた時は、「これ本当?」みたいな信じられない気持ちでした。そうしたら本当に、あの松屋さんで。お話を聞いたら「学生さんや若い方が放課後とかにフラっと立ち寄れる、それこそ『特別じゃないけれど特別な場所』にしていきたい」と。

-それを踏まえて、どんな曲にしようと構想したんですか。

心愛:放課後のエモい感じ、元気なイメージ、といった感じでしょうか。オフィシャルブランドソングだから、アップテンポで盛り上がる曲にしたいと思いました。目標を決めて作品を作るというのは慣れていなかったので、かなり難しいところもありましたね。

-出来上がった曲は、日常への肯定が歌詞やメロディーによく出ていますね。幅広い世代に届くだろう、ストレートな曲調も印象的です。

心愛:自分はまだちょっとガキなんで分からないところもあるんですが、やっぱり感謝の心は持っていたくて。その中で、特別じゃない日常こそ「特別」で、そこに感謝だなって思ったんです。自分で言うのもおかしいですが、今まさに反抗期ど真ん中なんですよ。何でもかんでも「自分でできる」と思っちゃうこともある。でもそういうのって、実は支えてくれる人、家族や友達がいてこそなんですよね。この歌にはそういう人たちへの感謝を忘れたくない、という気持ちが込められています。

-歌声と歌唱法、両方のおかげでしょうが、言葉が詰め込まれているのにメッセージがきちんと伝わります。楽曲を作ったり歌を歌ったりする時に、心がけていることはありますか。

心愛:やっぱり「言葉」が好きなので。自分の言葉を聞いてほしい、という気持ちが前に出ているんだと思います。令和の音楽、例えばTikTok ではやっているような音楽って、ぶっちゃけ何言ってるかわからないんですよね。声にエフェクトがかかっている歌も多いし、英語と日本語が混じっている場合もあるし。

-同世代とはちょっと違う好みかもしれませんね。

心愛:自分は尾崎豊さんみたいな、言葉に重点を置いている音楽が好きなんです。だから、それを意識してやってます。

-Cメロで転調するところが、気持ちいいです。意識して取り入れているのですか。

心愛:音楽の基礎を習っていないので、転調しているかしていないか、自分では分からないんです(笑)。自分にとって気持ちいいメロディーを探したらそうなった、という感じですね。

ハイペースのリリース。実体験を「とがらせた」歌詞

-今年に入ってから音源のリリースが続きますね。6月の「特別じゃない特別」からさかのぼると、4月に「息を吸って」、3月に「学校」、2月に「依依恋恋 -Re:Arrange (feat.稲村太佑)」。立て続けに発表できているのは創作が順調だからですか。

心愛:それを言うなら、去年の方がもっと(リリースペースが)やばかった。だから今年はゆったりしていると思っています。それでもリリースの次の瞬間にはもう曲を作っている、みたいな感じですね。

-2024年1月の初リリースからずっとご自分で作詞作曲されていますが、スランプはないのですか。

心愛:今のところありませんね。中学生時代に学校に行かない時期があったんですが、その時に家で日記をめちゃめちゃ書いていて、メモ書きみたいなものがたくさん残っているんですよ。それを基にしたりして。

-歌詞は実体験が下敷きになっているんですね。

心愛:ほぼほぼそうかもしれません。ちょっととがった感じにはしていますが。それぞれの歌詞の中で世界を膨らめていく、という作業はしていますね。

-そういう意味では特に「学校」は赤裸々ですね。

心愛:そうですね。登校中にめちゃめちゃ体調悪くなることってあるんですよ。「学校に行きたくなくて『頭が痛い』とか言ってるんじゃないの?」って思われがちですが、あれ、マジなんですよ。

-この歌の主人公は学校の中で居場所を失ってるように見えるんですが、こういう状況も実体験ですか。

心愛:自分はあんまり人間関係で悩んでたわけじゃないんですよね。でも、学校って同じことを繰り返しているじゃないですか。「自分は何してんだろうな」ってなるんですよ。教室にいて、クラスメイトの笑い声とか授業している先生の声とか、めっちゃ遠くに聞こえるんですよね。

-とてつもない孤独感ですね。

心愛:周りに人がいっぱいいるのに、なんか浮いた感じ。学校ではそれをずっと感じていました。

-独白で「あるラッパー」が励ましの言葉をかけてくれた、というくだりがありますね。誰ですか。

心愛:呂布カルマさんです。ライブでお会いしたときに「お前の選択をめっちゃ応援してる。お前それでいいと思う」みたいなこと言ってくれて。ずっとそれが支えになっています。呂布さんがどれぐらいの熱量で言ってくれたかは分からないけれど、自分はそれを糧に頑張れている。

-音楽で生きていく、というパッションが伝わったんでしょうね。

心愛:当時中学生でしたが、そういう気持ちが強くあったし、周りの大人たちへの反発もあった。よく「井の中の蛙大海を知らず」って言われるんですが、自分はまだ小さな世界しか知らないから。「世界はもっと広いよ」って言われても、見たことないから分からない。この曲はそんな「未熟なりの葛藤」でできています。

-2024年1月に初めて音源リリースした「無名 15」をいま聴くと、どう思いますか。

心愛:自分が作った中で最初に「ものになった」曲なんです。でも「なんかガキだったな」って。

-この曲のサビの部分「当たり前って何?/そんなもん誰にも決められやしない/僕の運命は僕のもんだ/何落ち込んでんの?」というフレーズは、ヒップホップでいうフロウの気持ち良さがありますね。ラップ的な感じがすごくするんですが、意識していたのですか。

心愛:もしかしたら、言葉と曲を別のものとして考えていたのかもしれませんね。ヒップホップを意識的に聴いていたわけではないけれど、当時ラップバトルをよく見ていたから影響されたかもしれない。

-「生きているだけで幸せ」というメッセージは最新曲と通じる部分がありますね。リリースを重ねても変わらない、変えたくない部分なのでしょか。

心愛:そうですね。「生きる」「死ぬ」にすごく興味があって、命の重みを分かっておきたいっていう気持ちは変わっていないと思います。あと「当たり前」って何、ってずっと思ってます。それはずっと共通して曲にしているんじゃないかな。

-まさに青春。「答えが出ない」ことを歌う、という感じですね。

心愛:そうですね。学校でも結局答えは出なかったんで。出たら出たでつまんないと思うんですけど。

-自分自身にそういう問いかけを繰り返す中で曲ができていくんですね。

常に楽しく、ワクワクできる活動を

-2023 年の夏に 、NHKのど自慢の沼津大会で約1400人の応募者の中からグランプリに選ばれました。路上の弾き語りはその後に始めたんですか。

心愛:そうですね。本格的にやり始めたのは中3の 11 月でした。新宿、歌舞伎町で毎週。縁もゆかりもない場所だったし、最初はイヤだった。怖かった。自分は昔から自己肯定感が低くて、しゃべるのが苦手だったので。当時は自分の曲もそんなにないので、カバーが中心でした。最初はガチガチでしたよ。

-どうやって克服したんですか。

心愛:お客さんの反応を直接見られることに、楽しさを感じるようになったのが大きいです。当初は足を止めてくれる人がほとんどいなかったんですが、徐々に立ち止まって聴く人が増えたことにも励まされました。そのうち、一定の人たちが必ず来るようになってきて。

-手応えが感じられるようになってきた、というわけですね。

心愛:路上ライブを重ねることで、即興力がついてきましたね。曲間のMCも最初は自己紹介しかできなかったんですが、オリジナル曲が増えてから曲紹介をたくさんやるようになりました。

-フェスに出たり、2024 年 12 月にはワンマンライブもやったり。大舞台を経験してきました。今年の冬にはキャパ1200超のZepp Shinjuku(東京都新宿区)でワンマンライブがあります。

心愛:YouTube の企画で今、ワンマンに向けてなんかやっていこうというのをやっています。例えば(エフェクターの)ルーパーで楽器の音を重ねるのを練習していて。それをやれたらいいなと。

-音楽との出会いはどんなでしょうか。

心愛:ギターを弾くようになったのは、おじいちゃんの影響です。小学校5 年ぐらい。おじいちゃんは学生時代にフォークソングをやっていて、それを聞いていたから、小さい頃からずっとギターの音は知っていました。気がついたら自分もやっちゃってた。

-ギターは独学ということですが、どんな練習をしていたんですか。

心愛:おじいちゃんに 1 曲だけ教えてもらって、それ以後は自分で工夫して。携帯で検索してコードを調べたり、分厚いJ-POPソング集に入っている曲をひたすら練習したりしました。

-一番最初の練習曲は何でしたか。

心愛:「翼をください」です。自分で選んだ練習曲はKiroroさんの「未来へ」が最初ですね。「この曲がやりたいから新しいコードを覚えよう」の繰り返しで弾けるコードを増やしていきました。12歳でTikTok を始めたんですが、そこから弾き語りも本格的に練習するようになりました。

-今は作詞作曲を全部自分でやりますよね。どうやって出来上がるんですか。

心愛:以前は歌詞が先にできていたんですが、最近曲先もありだなと思っていて。あんまり(作詞作曲の)形は決めてないんですが、サビから作ることが多いです。そこにAメロ、Bメロをつなげていく。プロダクションチームに弾き語りの音源を送ってアレンジをしてもらいます。断片的に、ということもあります。

-スマートフォンで録音した音源ですか。

心愛:そう。LINEで送ります。スタッフの方々はレコーディング現場で歌詞の意味とか言葉遣いについて、意見を言ってくれたりします。

-歌詞で興味深いのは、一人称がほとんど「僕」ですね。どうしてですか。

心愛:意思が強い感じと、逆に幼い感じというのが両方表現できると思ったんです。そもそも自分がサバサバ、さっぱりしたタイプだから「僕」のイメージかな、というのもある。歌詞の世界の中だけで「私」を使うと、ちょっと変になっちゃう。そもそも性別なんてどちらでもいい、という気持ちもあります。

-声がいいですね。これは天賦の才ですね。キャロル・キングやケイシー・マスグレイヴス、ルーシー・ダッカスといった米国の女性シンガー・ソングライターを想起させます。

心愛:ギターを始めてから本当に変わったんです。もともと歌は全然うまくなかったんですよ。今も特別うまくはないけれど。実は結構声が低いんです。男性の曲が合うんじゃないかなって思っています。

-好きなミュージシャンは誰ですか。

心愛:玉置浩二さん、小田和正さん。最近はブルーハーツがめっちゃ好きですね。みんな言葉がいいんです。

-自分の目指すべき場所をどんなふうにイメージされていますか。

心愛:まだできていないと思いますが、何か新しいものを作りたい。広い意味での表現者ですね。シンガー・ソングライターだけじゃなくて、アートにつながるものは全てやりたい。

-自分が一つのジャンルになりたい、といった感じでしょうか。

心愛:そうですね。常に楽しく、ワクワクできる活動を目指しています。

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■心愛 -KOKONA-ワンマンライブ「一意専心 vol.3 ~絶対挑戦者~ 歌舞伎町編」
日時:12月6日(土)午後6時開演
会場:Zepp Shinjuku(東京都新宿区)
入場料:オールスタンディング4000円(税込み)、学割チケット2300円(同)、親子ペアチケット6000円(同)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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