サッカージャーナリスト河治良幸
最終予選4連勝をかけた“森保ジャパン”10月シリーズ。旗手怜央(静岡学園高出身)の3−4−2−1起用法を読む
【サッカージャーナリスト・河治良幸】森保一監督は11月シリーズの最終予選サウジアラビア戦、オーストラリア戦に向けた27人のメンバーを発表した。
チャンピオンシップ(英国2部)で4得点を記録している元広島のFW大橋祐紀(ブラックバーン)が初招集。怪我の中山雄太(FC町田ゼルビア)と浅野拓磨(マジョルカ)に加えて、細谷真大(柏レイソル)が外れた一方で、パリ五輪代表のキャプテンだったMFの藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)が2022年の夏に行われたE-1選手権から2年ぶりのA代表招集。DFの瀬古歩夢(グラスホッパー)も昨年6月以来の復帰となった。
最終予選のスタートとなった9月の2試合では6月にテストしていた3-4-2-1を本格導入し、中国に7-0、バーレーンにはアウエーで5-0と大勝した。攻撃的な三笘薫(ブライトン)や堂安律(フライブルク)、伊東純也(スタッド・ランス)が期待通りに攻守両面で躍動。中国戦とバーレーン戦でスタメン起用された南野拓実(モナコ)や久保建英(レアル・ソシエダ)、鎌田大地(クリスタル・パレス)らの2シャドーも特長を発揮した。
その一方で、静岡学園出身の旗手怜央(セルティック)は2試合続けてベンチ外に終わった。同じく2試合ベンチ外だった長友佑都(FC東京)、望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)らとともに、10月シリーズでの起用法が注目される。
「今の勝利と、日本サッカー発展のため」
最終予選は23人しかベンチ入りできないが、今回も前回と同じく27人を招集した理由について、森保監督は「試合での戦力としても、未来に向けての戦力アップという意味でもプラスで選手を招集させていただいていることは間違いない。日本サッカーの今の勝利と、日本サッカーの発展のため。我々がいつも基本に置いている考えの中で、2つに値する招集をさせていただいている」と説明する。
前回が初招集だった望月はバーレーン戦を前に右足首を痛めたこともあり、今後の起用法も含めて未知数な部分はある。森保監督も、23歳のサイドバックに大きな伸びしろを期待しているのは間違いないだろう。
38歳の長友に関しては左右サイドバックとしての働きはもちろんキャプテンの遠藤航(リバプール)とまた違ったキャラクターで、チームをまとめる役割も担っていると見られる。
旗手の起用法
旗手はどうか。セルティックでは4−3−3の左インサイドハーフが固定的なポジションになっており、旗手自身も「サイドバックもやってないですし、今自チームではインサイドハーフしかやっていない。ポリバレントと言われているのが分からない」と語る。
ただ、日本代表では従来の4−2−3−1においても、2列目の中央と左サイド、ボランチの3ポジションで考えられており、3−4−2−1でも2シャドーを軸に、左ウイングバックとボランチという複数ポジションでの起用がイメージしやすい。
10月シリーズは相手がサウジアラビア、オーストラリアという最終予選でも厳しい相手との連戦であるだけに、9月シリーズよりも守備で耐える時間が長くなると想定される。攻守のバランスを考えると、左右のウイングバックも前回出番の無かった菅原由勢(サウサンプトン)らにチャンスが回ってくる可能性も考えられ、2シャドーやボランチの起用法にも影響してくるかもしれない。
リンクマンとしての特性
旗手は「他の人に比べてスペシャルなところはないが、平均的にできるところは多いと思う。そこをもっともっと強みにして、さらにスペシャルな部分を出していければいい」と自己分析している。旗手の言う武器とは、例えば三笘のような個で試合を決定付けられるプレーのことだろう。その基準で言えば、たしかに旗手は特筆しにくいが、誰と組んでも周りの良さを引き出しながら自分も生かされるリンクマンとしての特性を備えており、“森保ジャパン”の中でも貴重と言える。
2シャドーを南野、久保、鎌田などの誰と組んでもアジャストできるだろうし、ストライカーの大橋が2シャドーの一角に入るなら、自在性の高い旗手が最良の相棒にもなりうる。
旗手は旗手のプレーを
もうひとつ強調したいのは相手を押し込む状況、守備で耐えながらカウンターを狙う状況、様々な状況で柔軟に立ち回りながら、その時の最良の選択肢を見出していけるビジョンと決断力だ。
旗手はどんなシステムでも「味方との距離感だとか、ゲームの流れをしっかり読んでいった中で、個人としてしっかり考えを持った中で相手にも対応できるし、自分たちのプレーもしっかりできると思う」と語る。
スペシャリティと言っても、三笘や伊東、久保と同じプレーをする必要は無い。旗手は旗手なりに、所属クラブでもやっていることを“森保ジャパン”の戦い方、メンバーの中でも発揮できれば、そのまま森保監督へのアピールになるだろう。
「今取り組んでるのは数字の部分で、ゴールとかアシストはやっぱり・・・。8番のポジションですけど、そこが求められてきてると思う」と本人も自覚するように、目に見える結果も明確な評価基準になる。
相手のレベルが引き上がる10月シリーズで、2試合続けてベンチ外だった悔しさを晴らすことはできるか。旗手にとっては正念場でもあり、一気に序列を覆すチャンスでもある。
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。