清水エスパルスは“巨大戦力”維持。秋葉体制2年目は新戦力の融合でJ1昇格を実現できるか⁉
清水エスパルスはJ2で2年目となる2024シーズンを戦うにあたり、意欲的な補強を行っている。
もちろん、昨年奮闘した主力選手のアウトも伴った。その最たる例が、J1の京都サンガに移籍した鈴木義宜だ。リーグで2番目に失点が少なかった守備を個人としても、ラインの統率役としても支えた鈴木にJ1から好オファーが来るのは仕方のないところだ。
リーグ戦38試合に出場し、8得点3アシストを記録したMF中山克広も主力級の放出だ。
さらに昨年12ゴールのFWチアゴ・サンタナが浦和レッズに移籍した。ただ、大熊清GMの退任という大きな出来事もあった中で、筆者が想定していたよりも、主力の流出はとどめられたと言える。
その一方で鹿島アントラーズから期限付き移籍で中村亮太朗、完全移籍でGK沖悠哉、サンフレッチェ広島からDF住吉ジェラニレショーンが加入するなど、骨のある戦力の補強が目立つ。秋葉忠宏監督が2年目となり、チームのベースがあるところに気鋭のタレントが入った清水は昨シーズンを超えるポテンシャルを備えている。
MF矢島慎也の加入は効果的
そうしたJ1クラブからの補強に勝るとも劣らない効果的な補強と考えられるのが、MF矢島慎也だ。昨シーズンは同じJ2のレノファ山口で、残留争いに身を投じていた矢島だが、J1とJ2の両カテゴリーで豊富な経験があり、チームが勝つためには厳しい苦言も口にするなど、発信力のある選手でもある。清水は勢いに乗っている時に勝ち点を落としたり、悪い時にトンネルに入ったりする傾向がある。矢島は心身で清水を支える存在になりうる。
もちろん戦術面でも矢島は大きなプラスになりうるが、どちらかというと中盤を幅広く動きながら、バイタルエリアにも顔を出していくタイプだけに、清水のハンドルを司るMF白崎凌兵の重要性が増しそうだ。
前線のバリエーションどう増やすか
秋葉監督は新体制発表で「昇格の自信は200%あります」と豪語した。昨年の反省を生かし、スタートダッシュが大事になることを強く意識している。システムの選択は不明だが、戦術面で大きく変更することは考えにくい。昨季リーグ戦では安定した戦いができていたからだ。ただ、相手の術中にハマった昨年終盤の藤枝MYFC戦に見られるように、清水を“強者”と認めて対策を立ててくるチームが、J2の戦いでは大半を占めるはず。
そうした状況で、もちろん秋葉監督が重視する“際(きわ)の勝負強さ”は大事だが、ゲームの主導権を握るためのオプションを増やすこととセットで取り組まないと、勝者のメンタリティという言葉も抽象的な表現に過ぎなくなってしまう。
その意味ではチアゴ・サンタナのようなJ2で規格外のFWがいなくなったことを前向きに捉えて、今治からレンタルバックのFW千葉寛汰や奮起が待たれる元日本代表FW北川航也らが前線にバリエーションをもたらしていきたい。
“戦術乾”からの脱却も必要
良くも悪くも“乾貴士のチーム”と言われた昨シーズンに引き続き、乾が攻撃の中心であることは間違いないし、チームに“キング”がいることは決して悪いことではない。しかし、乾が封じられた時にどうするかというより、そもそも乾頼みにならないチャンスメーク、フィニッシュのバリエーションが必要になってくる。中山がいなくなった右サイドの仕掛け人として、昨年のベガルタ仙台で主翼を担った松崎快が入ったことは心強いが、ボランチやサイドバックの攻撃の関わり方が重要になってくる。
その意味では矢島の存在も大きいが、同じく中盤の主力候補になる中村亮太朗にも期待がかかる。
昨シーズンは鹿島からJ2のヴァンフォーレ甲府に期限付き移籍し、ACLも経験した中村は展開力があり、縦に刺し貫くようなロングスルーパスやミドルシュートなど、決め手のあるタレントだ。欧州では中盤でも守備的なタイプを6番、攻撃的なタイプを8番と呼ぶ傾向にあるが、その両役をこなせる選手で、シームレスに白崎とも矢島とも組めるはず。
レンタルバック組の奮起必要
純粋な新戦力だけでなく、レンタルバック組の奮起にも期待したい。J3今治で、後半戦だけで7得点の千葉をはじめ山口から復帰の成岡輝瑠、群馬で“組長”こと大槻毅監督の指導を受けた川本梨誉といったアカデミー育ちの選手たちは“武者修行”先でポジションをつかんで、試合経験を積んで帰ってきた。
開幕のスタメン予想には入れにくいが、長いシーズンで彼らが主力の座を奪うぐらいの活躍を見せることが、最終的には昇格の大きな力になると予想している。
清水はJ2にいるべきクラブでないというのは内外で言われることだが、J2が簡単なリーグでないことはどこよりも身をもって感じたはず。スタートダッシュはもちろん大事だが、シーズン中には必ず山も谷もある。そうした中で結束力を持ちながら、戦術面、精神面の両方で難局を乗り越えて行けるか注目していきたい。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
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