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社説(5月14日)2024選択 知事選 教育現場の改革 個を尊重し学び充実を

 教育は自己実現を支え、社会の基盤をつくる重要な営みだ。時代の縮図ともいえる教育現場は今、多くの課題を抱えている。不登校やいじめの増加、担い手である教員の過重労働などだ。加速する授業のデジタル化にも対応しなければならない。静岡県や県教委は主体的に現場の課題解決に取り組み、子どもそれぞれの個を尊重することで学びを充実させる必要がある。
 子どもたちが個性を発揮し、伸び伸びと学ぶための大前提は教員がやりがいを実感し、生き生きと教壇に立つことだ。だが、近年は過重労働や精神疾患による休職の増加などから「ブラック職場」とまで呼ばれる不人気な状況に陥っている。

 教員の確保策を検討している中央教育審議会の特別部会がまとめた公立校教員の処遇改善と働き方改革の提言は、残業代の代わりに支給している月額給与の4%相当の「教職調整額」を10%以上に引き上げることや、終業から次の始業までの休息時間を明確にすることなどが柱だ。
 給与改善は重要だが、急務なのは長時間労働の是正だ。県教委は教員の心身の健康を守ると同時に教員の確保を図るためにも、業務の抜本的な削減など実効性のある働き方改革を外部にも分かる形で確実に進めなくてはならない。
 教員のなり手不足は深刻だ。2022年度実施の公立小教員採用試験の競争率は2・3倍で、5年続けて過去最低。試験に落ちて再挑戦を目指す人たちの減少は講師の担い手不足を招き、正規教員の産育休や病休で生じた欠員を埋められない事態が全国で起きている。県教委管轄では小中学校教員は24年度当初、定数に対し52人不足していた。
 年々早期化する民間企業の採用に対抗し、県教委と静岡、浜松両政令市の教委は24年度、教員採用の1次試験を例年より約2カ月早めて実施した。成果を検証し、今後に生かしてほしい。若者たちへの教職の魅力発信にも、さらに力を注ぐべきだ。
 全国の小中学校で22年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は過去最多の約30万人に上り、県内でも約9600人と過去最多を更新した。背景には不登校への理解が広がり、無理して学校に行く必要がないと考える保護者が増えたこともあるとみられる。

 気がかりなのは、全国の不登校の小中学生のうち約4割が学校内外で専門家らの相談や支援を受けられていなかったことだ。子どもの状況に応じた受け皿を整備し、孤立を防がなければならない。
 民間のフリースクールの重要度は増しているが、経営難や周知不足が課題になっている。県教委はフリースクールとの連携強化に乗り出し、24年度、運営費を補助する支援制度の創設に踏み切った。
 さらに、県内で不登校の小中学生のうち約3割がフリースクール、市町が設置する教育支援センターのいずれにも通っていないとされることから、県教委は24年度、インターネット上の仮想空間「メタバース」を活用する支援策の開設に着手した。学校や施設に直接行けなくても、アバター(分身)などを使って他者と関われるのが特徴という。こうした独自の施策を加速させてほしい。
 不登校だけでなく、学校が認知したいじめや暴力行為も増え続けている。いずれも、対策の基本は、学校が初期段階での小さな兆候に気付き、解決を目指すことだ。そのためには教員が子ども一人一人にしっかり向き合える体制の整備が欠かせない。県や県教委は、現場の教員や子どもの声にじっくり耳を傾けて、必要な財源と人材の確保に最善を尽くさなければならない。

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