地上絵の発見 ＡＩが効率化 ペルー・ナスカ 山形大実証実験、新たに４点確認
世界遺産「ナスカの地上絵」で知られる南米ペルーのナスカ台地には、いまなお未発見の地上絵が数多く眠っていると考えられる。現地調査を長年続けている山形大の研究チームは、人工知能（ＡＩ）の機械学習を活用し、従来より格段に効率よく地上絵を見つける手法を開発、実証実験で新たな地上絵４点を確認した。チームは地上絵の保護に向けた今後の研究加速に期待を膨らませる。
ナスカ台地はペルー南部の広大な砂漠地帯。ここで見つかった鳥やサル、クモ、人などの巨大図形がナスカの地上絵だ。地表の黒い石を除去し、その下の白い砂を露出することで描かれている。
山形大ナスカ研究所の坂井正人教授（文化人類学）によると、動物などの具象的な地上絵は４００点以上確認されており、サイズは小さいもので５メートル程度、大きいものは３００メートルにも及ぶ。遅くとも紀元前１００年ごろには制作が始まったとみられ、文字を持たない古代ナスカ人の知識の共有や儀礼的な目的で使われたと考えられる。
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ただ、謎解きは容易でない。坂井さんは「広範囲に存在し、未発見のものも多いため研究が進まなかった」と話す。これまでは高解像度の空撮写真などを肉眼で調べ、地上絵の候補となる場所を選定。その後に現地調査し、自然物や道路などの可能性を排除して地上絵かどうか判断していた。年単位の時間がかかり、効率性が課題だった。
そこで注目したのがＡＩ。坂井さんらは日本ＩＢＭと共同で、機械学習の一種であるディープラーニング（深層学習）を利用する研究に乗り出した。既知の地上絵のデータを学習したＡＩに空撮写真を分析させ、新たな地上絵の候補場所を見つけようという構想だ。
壁となったのはＡＩをトレーニングするデータの少なさだった。「理想を言えば数千点の絵が欲しい」と坂井さん。しかし今回の実証実験では対象地域をナスカ台地北部に絞ったため、実際に学習に使えた地上絵は２１点にとどまった。さらに地上絵はそれぞれが唯一無二の絵柄のため、単純に学習した絵と似たものを探す手法では新しい地上絵の発見は難しかった。
解決策となったのは地上絵の「分割」。絵柄を直線やカーブなどの要素に分ければ学習データが増える。絵柄全体としては違っていても、要素であれば共通部分が見つかる。さらに要素を回転させたり大きさを変えたりした結果、学習データは３０７点まで増えた。
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作成したＡＩモデルに学習データとして利用しなかった既知の地上絵の空撮写真を読み込んで実験すると、狙い通り要素を検出できることが分かった。しかも目視では計算上１６３３時間かかる候補特定までの時間がＡＩでは７８時間に短縮し、約２１倍も速くなった。
実証実験の過程では新たな地上絵候補も見つかった。現地を調査し、人や魚など４点の地上絵を確認した。坂井さんは「本当に新しい絵が見つかって驚いた」と話す。
地上絵には一筆書きのように細い線で描かれた「線タイプ」と、浮き彫りのように面の凹凸で描かれた、より古い時代の「面タイプ」がある。今回は線タイプを対象としたが、坂井さんは「面タイプも学習の材料にして精度を向上させ、地上絵の起源に迫りたい」と意欲を示す。
保護と開発 同時進行
山形大は２０１２年、ペルーのナスカ市に「ナスカ研究所」を設立。１５年にはペルー文化省と地上絵研究に関する協定を結んだ。この協定では地上絵の保護もうたわれている。坂井正人・山形大教授によると、ナスカでは近年開発が進み、地上絵があるエリアまで市街地が迫っている。道路の敷設により地上絵が損傷した事例もあるという。「今後は保護と開発の両立が重要になる」と坂井さん。同じく研究を進めているイタリアの研究チームと合同で講演会を開くなど、近隣住民の理解を深めるための活動も始めている。
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