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テーマ : 新型コロナワクチン

米大2氏のノーベル生理学・医学賞 三島の研究がmRNAワクチン開発に貢献 

 ノーベル生理学・医学賞が新型コロナウイルスから多くの人を守ったメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発に道を開いた米大のカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏に授与されることが2日、決まった。開発には成分のmRNAを細胞内で安定化させるのに重要な役割を果たす構造を日本人が見つけるなど、日本人研究者の業績も貢献している。

2022年4月、来日したカタリン・カリコ氏(左)とドリュー・ワイスマン氏。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった=東京都内
2022年4月、来日したカタリン・カリコ氏(左)とドリュー・ワイスマン氏。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった=東京都内
mRNAワクチンの仕組み
mRNAワクチンの仕組み
2022年4月、来日したカタリン・カリコ氏(左)とドリュー・ワイスマン氏。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった=東京都内
mRNAワクチンの仕組み


 mRNA 細胞内で安定化へ 重要発見
 新潟薬科大客員教授だった古市泰宏さん(2022年死去)は1970年代、mRNAの先端にある「キャップ」という構造を発見した。この構造は、細胞内で分解されやすいmRNAを安定させ、タンパク質の合成を促す役割を担う。
 現在流通している米ファイザーやモデルナ製の新型コロナワクチンは、mRNAを人工的に合成するなどして作製する。その際、人の細胞内で安定した効果を発揮するために、このキャップ構造も組み込んでいる。
 古市さんは「遺伝子の働きを知りたいという好奇心に基づいた研究だった。これだけ多くの人に使われるワクチンに発展するとは思ってもみなかった」と語っていた。
 当時は、DNAをはじめとした遺伝物質の研究が、ようやく日本でも本格的に始まった時期。古市さんは、国立遺伝学研究所(三島市)の部長に就任した故三浦謹一郎さんと共同で、カイコに感染するウイルスのRNAの構造を分析する研究に取り組んだ。
 古市さんによると「三島には桑畑が多くて、カイコ関係の研究はやりやすかった」という。カイコのウイルスでキャップ構造に気付き、渡米して研究を継続。ウイルスだけでなく、人の細胞内のmRNAにも同様の構造があることを米研究者と共同で明らかにした。
 カタリン・カリコ氏との共著論文を発表した研究者もいる。大阪大の審良静男特任教授(70)だ。体内に侵入した病原体を排除する自然免疫の基本的な仕組みを解明し、免疫学の第一人者として知られている。
 カリコ氏がmRNAと炎症反応の回避に関する論文を発表したのは05年。審良さんは「この論文が最も印象的だった」と語る。直後に、mRNAが免疫反応をかいくぐる仕組みに関する考察や、医薬品への応用の可能性について言及した論文をまとめた。
 共著論文は08年に発表。mRNAを構成する物質を置き換えると、生体でのタンパク質合成が進むという内容で、審良さんは実験に必要な特殊な細胞を提供している。

 ドリュー・ワイスマン氏 1959年9月7日、米国生まれ、81年米ブランダイス大卒。87年に米ボストン大で免疫学と微生物学の博士号取得。米ペンシルベニア大医学部助教などを経て、2013年に同教授。21年から同大学のRNAイノベーション研究所。ラスカー賞、ガードナー賞、日本国際賞、ロベルト・コッホ賞など受賞。64歳。
 カタリン・カリコ氏 1955年1月17日、ハンガリー生まれ。82年同国のセゲド大で博士号取得。ハンガリー科学アカデミーの研究所を経て渡米。米テンプル大博士研究員、米ペンシルベニア大上級研究員などを経て、2013年に独バイオ企業ビオンテックに移り、上級副社長を務めた。21年からセゲド大教授とペンシルベニア大特任教授。スペインのアストゥリアス皇太子賞、米ローゼンスティール賞、慶応医学賞、米ラスカー賞などを受賞。68歳。

 基礎研究の重要性証明 遺伝研・五條堀名誉教授
 国立遺伝学研究所の五條堀孝名誉教授(MaOI機構研究所長)は、二人の受賞について「感慨深く受け止めている。同じ研究フィールドに立つ人間としてうれしい」と話した。
 「遺伝研によるキャップ構造の発見は、安定的にmRNAをつくることに大きく貢献している」と指摘し、「研究を結実させるために、長い年月を費やしたはずだ。基礎研究は必ずしも短期的な結果をもたらさないが、このような形で大きな成果につながることがある。基礎研究それ自体の重要性が証明された」と強調した。

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