
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田はアウェーで藤枝MYFCとの“県勢対決”に臨む。午後1時55分、全カテゴリーでも唯一となる昼間のキックオフで、気温や時間帯が試合の行方を左右する可能性がある。ハッチンソン監督は「交代や選手起用の工夫が勝利のカギになる」と語り、環境を見極めながら柔軟に戦う重要性を強調している。
指揮官が繰り返し口にするのは「ボール保持と攻守のコントロール」。酷暑が心配されるが、当日は雨予報も出ている。そうしたキックオフ時間やピッチコンディションなど外的要因は変えられないが、自分たちでコントロールできる部分に集中し、試合を優位に進めたい考えだ。
対戦相手の藤枝は3-4-2-1を基本に、須藤監督が掲げる「ハイエナジーフットボール」を体現する。ポゼッション能力の高さに加え、速いカウンターも武器。さらに夏の移籍で矢村健が復帰し、攻撃の迫力は一段と増している。矢村の復帰により、前節の大分トリニータ戦で得点した浅倉廉も、シャドーのコンビを組む中川風希とともに躍動的なプレーを見せている。磐田にとっては相手のテンポを崩し、主導権争いで後れを取らないことが重要となるだろう。
最終ラインは江﨑巧朗を累積警告による出場停止で欠く。リカルド・グラッサもコンディションがベストとは言い難い状況で、ヤン・ファンデンベルフと森岡陸のセンターバックコンビが軸になる見込みだ。森岡は「前からプレッシャーをかけて、ロングボールも織り交ぜたい」と語り、3失点したアウェーいわき戦と同じコンビでのリベンジへの思いをにじませる。
右ウイングでの先発が予想される角昂志郎は「本当に暑くてキツくなると思うんですけど、一人ひとりが攻守において妥協しなければ絶対に良いサッカーができると思う。集中力を切らさずにやることが大事」とコメントし、気候に左右されない戦いを誓った。
キーマンとなる渡邉りょうは前節の今治戦で精力的なチェイシングから相手のミスを誘い、決勝点を記録した。シーズン初めて90分出られたことも“古巣対戦”に向けてプラス材料だが、渡邉は「90分を意識しすぎず、最初から追いかけまくって走って流れを持ってくるのが自分の役割。その結果90分出られたら良いですけど、自然体で挑みたい」と冷静に語り、自分らしいプレーで勝利に貢献する構えを見せている。

ボランチの上原力也も「比較的やりやすさはあると思いますし、自分たちが自信を持ってやれる。ただ相手も食ってやろうと来る。幸い藤枝には負けていないですが、油断は一切なくしていきたい」と気を引き締めた。夏に加入した井上潮音とのコンビもすっかり板に付いてきているが、ここに来て経験豊富な中村駿が復調してきたことも心強い。
ボランチはボール奪取力に優れる金子大毅もおり、磐田がJ2に誇る自慢のセクションと言える。ただし、藤枝もシーズン途中から主力に定着した21歳のMF岡澤昂星など、勢いあるタレントが中盤に揃っており、ここでどちらが主導権を取れるかで、90分を通したゲームコントロールにも大きく影響してきそうだ。
アウェーの磐田にとっても理想は前半でリードを奪い、試合をうまく運ぶこと。しかし気温や体力面を考えれば消耗戦になることは避けられず、後半の展開次第では前節出番のなかった新加入のブラウンノア賢信、シーズン8得点のマテウス・ペイショットなどアタッカーの働きにも期待がかかる。

シーズンも終盤に入り、残すは藤枝戦を含めて9試合。順位や他会場の結果が気になる時期だが、リーダーの1人でもある上原は「もちろんみんな見るし、一喜一憂するかもしれない」と認めながら「前の試合をしっかり勝つしかない立場だから。後ろを見たり『負けたらやばい』と思うのではなく、勝つことに集中しなきゃいけない。しっかり準備できている」と主張する。
ハッチンソン監督は「今日できることに集中する」と強調。ここで勝利すれば、キックオフ時間の遅い昇格争いのライバルにも心理的なプレッシャーをかけることができる。磐田は暑さや時間帯といった外的要因を受け入れながら、自分たちの強みであるボール保持と戦術の柔軟性を武器に、勝ち点3を狙う。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。