
鬼頭:今回はジュニア年代のサッカー教育をテーマにお話を聞いていきたいと思います。
設楽監督のプロフィールから紹介します。清水東高校、関東学院大学を卒業後、地元の清水に戻り、清水FCのコーチとして指導者の道へ。2001年に高部JFCを立ち上げ、静岡県大会では5度、東海大会では2度の優勝という実績を残しています。
設楽:高部JFCでは1年生から6年生の小学生を預かっています。その下にチャイルドという幼稚園の組織もあり、合わせて100人ちょっとぐらいで動いていて、コーチは10人ぐらいいます。
鬼頭:高部は清水の地名だと思うんですが、誰でも入れるんですか。
設樂:どの地域の子でも入れますが、チーム理念としては「地元に愛される」というキーワードでやっています。今は横文字のチーム名が多くて、ちょっとダサいかもしれないですが、地元の名前を残したいという思いで、高部JFCという名前にしました。
鬼頭:けーたさんも高部JFCのOBなんですね。
けーた:10年ぐらい前に在籍していました。
石山:設楽さんには怒られてましたか?
けーた:死ぬほど怒られました。
設楽:OBが帰ってくると「だいぶ優しくなったんじゃないか」と言われます。自分ではそう思ってないんですけど。
石山:けーたくんの代は割と厳しめに?
設楽:今47歳なんですが、当時はまだまだ尖っていました。今は体と共にだいぶ丸くなりましたけど。
2秒で交代?その狙いは…
石山:けーたくん、何か思い出に残ってるエピソードはある?けーた:僕は本当に才能があるタイプではなかったので、とにかくがむしゃらに頑張ってたんですけど、試合に出て、2秒で交代させられました。
石山:ちょっと監督!何があったんですか、2秒で。
設楽:期待を込めたメッセージですよ。
けーた:でも、その5分後にはまた出てるみたいな。
石山:すごいメッセージ。ツンデレじゃないですか。
鬼頭:監督、それはどういう方針なんですか。
設楽:1回外に出して話をして「こういうことが悪かったんだよ」と言ってまた送り出すチャレンジアンドエラーです。エラーの部分だけをフォーカスするんじゃなくて、そこをどう変えるかというのがこちらの仕事だと思っています。勝負よりも大事なことですよね。
石山:本人のためにね。外からずっとコーチングしていても、絶対耳に入ってないときがありますもんね。
設楽:そのままにしちゃうと、もうそれで「怒った」で終わっちゃうんですが、またチャンスを与えると、選手は「ここが悪かったんだ」とか「もう1回こういうふうにチャレンジしよう」っていうふうになるんですよね。
小学時代に芽が出ていなくても

鬼頭:卒業生は、けーたさんのほかにも、大島僚太選手(川崎フロンターレ)とか、本当にたくさん輩出されていらっしゃいます。
設楽:長くやってるので、そういう選手もいます。
石山:大島選手は当時から秀でていたんですか。
設楽:大島選手は試合に出られない時もある選手でした。静岡学園ですごく伸ばしてもらった選手なんじゃないかなと思います。
石山:小学生の頃に芽が出てないから日本代表にはなれないってことはない?
設楽:全然分からないですよ。それが一番面白くて、今でも僕らは指導者を続けられている。どの選手にもチャンスがあるよと思ってやっています。
鬼頭:昨年のチビリンピックで全国2位になりまして、昨年末に行われた全日本U-12サッカー選手権ではベスト4。子どもたちにもこの番組に来ていただきました。強さの秘密はどんなところだったんでしょうか。
設楽:みんな素直でしたよ。言ってることがすごく入っていくし、受け入れる幅も広い。大会の中で、「自分がこうしなきゃいけない」とかって変化もあるし、すごく成長が見てとれた。初日から最後の日まで、成長しているなっていうのが見える。そういう選手が多かったなと思いますね。
石山:なかなかできないですよ、サッカーに対しての意識も高くないと。
鬼頭:大人だったら、ワードや戦術スタイルも理解できると思うんですけど…。
設楽:ちょっと企業秘密的なところはありますが、例えば戦術とかよりも「人のために」とか、そういうキーワードを出していくと、選手が「自分のためだけじゃないこと」をやり出すんです。人間性重視ですね。
石山:「あきらめない」とか、「みんなのために走る」とか、結局そういうことの集大成がサッカーだと思うんですよね。誰かを助けるためにサポートに入るとか。そこの理念があった上で、戦術とかが乗ってるということなんでしょうね。
サッカーを好きになればグッと伸びる

鬼頭:どんな練習をしているんでしょうか。
設楽:技術、戦術は基本に忠実に。技術的なことは隠すことは全然ありません。皆さんがやってるようなことを真面目に取り組む。特別にすごい練習をやってるわけではなく、やっぱり声掛けとか、選手に寄り添うというところが、このジュニア段階は一番大事かなと思います。
楽しむとか、サッカーを好きになるということの方が大事なので、選手に戦術を落とし込むとか、技術を教え込むよりは、楽しさを伝える。サッカーにのめり込むところまでいくと、選手はぐっと伸びてくるという印象でやっています。
石山:「好きに勝るものなし」ですね。やっぱり難しいですよ。親の思いが強すぎて離れちゃう子もいるし、一番難しい年代じゃないかなと思います。指導者が大事な年代だと思いますね。
設楽:練習が19時開始の時、僕らは30分ぐらい前にグラウンドに出て、「選手たちが自分たちで何かやるかな」ってことをすごく楽しみに待ってるんです。
育成っていうのは、無駄な時間が多いとよく言われるんですけど、その無駄と思われる時間こそすごく大事。選手の自主性とか、選手がやりたいって気持ちをそこで育む。何時から何時とか、塾みたいな習い事では絶対選手は良くなりません。
休日は必ず朝5時半から6時にはグラウンドにいます。選手の自主練を見守ります。そこが一番夢中にさせるポイントかな。
鬼頭:高部JFCはセレクションはあるんですか。
設楽:ありません。僕らは上手いとか強いとかをチームの理念として置いてるわけじゃないので、地域でやりたいって子は全員受け入れます。
石山:それで強いっていうのはすごいですよ。落ちたり受かったりで一喜一憂する年齢ではないと思います。
設楽:ちょっと早すぎますよね。それによっていい方向にいく子もいると思うんですけど、もっと楽しむべき時間じゃないかなっていうのが僕らの印象ですね。
鬼頭:これからの目標を聞かせてください。
設楽:正直20数年前に、ここまでチームが続くイメージはありませんでした。ここまでくると、次の指導者を育てるとか。現場だけじゃなく、サッカー全体、子どもたち全体を見守るような、そういう歳になってきたかなと感じでいます。