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単なる生産者ではない。地域課題を解決し全国展開を目指す「サステナブル陸上養殖システム」<前編>

「NTTが磐田でエビを養殖しているらしい」――そんな噂を聞きつけ、我々 SHIZUCONE スタッフは、その現場に密着取材してきました。

 はじめに:なぜ今、NTTが「エビ」なのか?

IT・通信最大手の NTT グループが、食料問題の解決と地域活性化を掲げて、京大発ベンチャー企業「リージョナルフィッシュ」と設立した合弁会社、NTTグリーン&フード(NTTG&F)。静岡県磐田市で稼働しているのは、シロアシエビ(バナメイエビ)の国内最大級の陸上養殖プラントです。

彼らが目指す「食と事業の未来図」とは?新規事業のヒントを探るべく、陸上養殖の現場で働く水上さんに「生の声」を聞きました。

初期投資を抑える「居抜き」戦略と豊富な水源

NTTG&Fは同市で2つのプラントを運営しています。まず見せていただいたのは、磐田プラント。このプラントは、スズキ部品製造の施設を「居抜き」で活用しています。

広大な工場跡地の中は、大きな水槽で半分ほど埋まっていましたが、増設することもできるそう。
完全国産のシロアシエビを年間110t生産している(日本最大級)

「この地域では、地下海水と地下淡水の両方が、まとまった量で、かつ質の良い状態で得られます。これが最大の決め手でした」と水上さん。初期投資を大幅に抑えつつ、陸上養殖の生命線となる「」を確保できる立地面の優位さが磐田で陸上養殖事業をおこなうきっかけだったそうです。

地下水を利用することで、漁業権の問題を避けられるほか、地下を通る過程で雑菌などが自然に濾過され、水質が安定するというメリットもあります。

コスト効率を左右する「エビの“床暖房”?!」

「エビって、何度くらいの水温が好きなんですか?」という素朴な質問に、水上さんは「30度弱の暖かい水温が一番好きです」と教えてくれました。

インドネシアやエクアドル原産のバナメイエビにとって、日本の冬場は過酷です。つまり、冬の加温コストが事業の採算を大きく左右するのです。

ここで目にしたのが、自動化したボイラー技術です。

水槽の周りに温度調整をする管が張り巡らされている

我々が冬に使う床暖房と同じ仕組みを水中で実現し、水槽の壁面の管にお湯を通し、熱交換を行っていました。「温度が一定以下に下がったら、温度センサーが自動で加温ボイラーを動かします」と教えてくれました。

注目してもらうことを意識し、プレスリリース等で積極的に取り組みを発信。今では全国から視察がきている。

さらに「水槽の素材も色々試しているんですよ」と見せてくれたのは、断熱材を多く入れた特注のFRP(船などに利用される強化プラスチック)の水槽と、通常のコンクリートの水槽。素材を変えながら、どの程度加熱保温効率が違うのかを検証しているそうです。

磐田プラントで養殖されるエビの種苗は100%国産。徹底したコスト管理と資源の確保こそが、この事業を土台から支えているわけです。

サステナブルな技術:「3ヶ月水を変えない」浄化システム

このプラントの核となるのは、水を「換える」のではなく、微生物の力で「浄化する」持続的な養殖技術です。

養殖専用の施設ではないため、地上に水槽を設置。水槽の高さなどオペレーション面で若干の制約がある

バイオフロック方式(濁った水で育つ、究極のエコ循環)

水を覗き込んで、まず驚いたのが水の濁りです。

「水はほとんど交換しません。この濁りや泡こそが微生物の集合体(バイオフロック)で、水質を浄化してくれているんです」と水上さん。

エビは脱皮殻や、この微生物の塊(フロック)自体を餌として食べるため、掃除の手間が省け、究極のエコ循環が生まれています。

大型水槽一つで、なんと 15 万尾から 20 万尾のエビを飼育しているそう。そのスケール感に圧倒されました。種苗は 10 日おきに 30 万尾ほど投入されています。

関電から引き継いだ「海幸ゆきのや」プラント

次は、磐田プラントから車で数分移動したところにある、関西電力から事業承継をしたエビ専用のプラントへ。

エビ養殖のために作られた、専用の陸上養殖場で、稼働をはじめてから4年目。大きな本水槽が6レーンあり、それぞれが磐田プラントの水槽の倍の大きさ。入れる種苗も倍量(約60万尾)ですが、入れる頻度は少し低いという仕組みです。6つの水槽を3つのグループに分けて、それぞれ飼育しています。

数分間に一度放水し、人工的な波を作り出す装置。海に近い環境を用意することでエビにストレスを掛けず飼育をしている。

すでに稼働していたプラントを引き継いだ、と聞いたので「NTT ならではの技術はこのプラントに活用されていないのですか?」と直球の質問をしたところ、「今まさに、それをこのプラントで取り組んでいるところです」と教えてくれた。

「プラントにいる 40 万〜 50 万尾のエビを人が数えるのは難しいです。たとえば、画像や動画で実際の数を識別できないか?収穫作業の人の動きを学習し、より労力を削減できないか?など、NTT の研究所で研究を進めています。」

「現在は、水槽の水温や溶存酸素量だけでなく、アンモニアや亜硝酸態窒素といった水質項目を私のスマホでリアルタイムで監視しています」と水上さん。

プラントのお掃除も自動化されていました。食べ残しや脱皮殻、エビの死骸などがすべて、溝に落ちるようすり鉢状の水槽になっており、「スクレーパー」というお掃除ロボットが 1 日に 3 回、回収します。配管を通じて一つの枡に集め、それらを分析することで、エビの健康状態がリアルタイムでわかる仕組みに。

このプラントも、エビ飼育のマネジメントを視野に入れた設計になっていました。

黒色の水槽で育てることでエビの色も黒くなり、火を入れると鮮やかな赤色になるエビが生産できる

事業のゴール:地域を巻き込む「システム」としての展開

生産されたエビは、磐田プラントで飼育された「福えび」、ゆきのやプラントで飼育された「幸えび」としてブランド化され、市場へ流通します。

「この確立した養殖技術とビジネスモデルを『システム』として世の中に広げることで、気候変動による水産業の衰退など、地域が抱える課題を解決したい」と担当者は力を込めます。

すでに J リーグスタジアムでの提供、食育の授業、地元事業者との特産品開発など、具体的な地域連携の依頼が入り始めているそうです。

同社の陸上養殖は、持続可能な食と環境の未来を、テクノロジーと緻密な戦略でデザインし直す、すべての新規事業担当者や経営者が注目すべきリアルな最前線でした。


後編予告:なぜ NTT が陸上養殖に賭けたのか?

同社の陸上養殖は、持続可能な食と環境の未来を、テクノロジーと緻密な戦略でデザインし直す、すべての新規事業担当者や経営者が注目すべきリアルな最前線でした。
後編では、なぜ NTT グループが「陸上養殖」という領域に踏み込んだのか?その決断の裏側と、今後の展望、地域との共創について、事業責任者の「思い」を深掘りしたインタビュー記事を公開します。乞うご期待!

後編記事はこちら

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