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新3区案内定 浜松行政区再編

 約6年半にわたって続いた浜松市の行政区再編協議。市議会特別委員会が当初示していた「たたき台3案」とは別案の「新3区案」が最終案として内定しました。区役所存続を巡る議論に象徴される住民サービスの維持とコスト削減をどのように両立させるかー。最終案の内容と合意に至る流れをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉

中、浜北、天竜に区役所 内定案、2024年1月移行目指す

 浜松市の現行7行政区の再編を検討する市議会特別委員会は7日、大筋合意していた「新3区案」を基に、市が区役所や行政センターなどの拠点配置や職員数などを設定した区割り案を最終案として内定した。2015年5月の特別委設置から約6年半を要し、初めて区割り案が固まった。

新3区案の地域拠点
新3区案の地域拠点
 内定を受け、市と特別委は来年1月17日から、市民の意見公募を行った上で5月に区割り案を決定し、23年2月議会での関連条例案可決を目指す。早ければ24年1月にも新しい区の体制に移行する。
 特別委に出席した鈴木康友市長は、区割り案内定までの検討作業に感謝の意を示した上で、「これから組織の中身の議論が始まる。非常に重要で、引き続き議会と二人三脚でしっかりと対応したい」と述べた。
 新3区案は天竜区を単独とし、北区の大部分と浜北区を統合した区と、中、東、西、南区と北区の一部(三方原地区)を合わせた区を設ける内容。区役所は現行の中、浜北、天竜区役所を残し、職員81人と人件費約6億4千万円を削減できると試算した。
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     浜松市行政区再編の今後のスケジュール

 一方、全7区の区政運営を統括する「区政担当副市長」設置について、市は①天竜区などの中山間地域振興を特命事項とする②同区役所に配置し、現場に近い場所で課題解決に取り組むと提案した。だが、中山間地域の対象範囲などを巡り特別委と見解が一致せず、継続協議となった。
 会合後、特別委の高林修委員長は「職員削減に不安を抱く市民がいるかもしれないが、安全・安心(のための市民サービス)は維持していく」と語った。
 新3区案の意見公募は2月15日まで行い、資料は1月17日以降、市ホームページや市役所、区役所などで見ることができる。
〈2021.12.08 あなたの静岡新聞〉

管理・事務職81人削減効果 市議会試算

 浜松市は「新3区案」を最終案に内定した7日の行政区再編の市議会特別委員会で、再編により区役所関連の職員数が81人削減でき、年間で人件費を6億4557万円、事務経費を653万円絞れるとの試算を示した。特別委は区役所や出先機関の配置案も内定した。

市が提出した区役所などの職員数の試算
市が提出した区役所などの職員数の試算
 現在、区役所と土木整備事務所で勤務する正規、非正規(再任用と会計年度任用)の職員は計2021人。このうち再編で重複するいずれも正規の管理職32人と内部事務職49人を削って1940人にする。再編後の区別職員数は仮称A区(中、東、南、西各区と北区の一部)1209人、同B区(北区の大部分と浜北区)429人、同C区(天竜区)302人と見込む。
 協働センターなどで地域づくりを担うコミュニティー担当職員を非正規から正規に置き換えていく案もあり、この場合の削減数は正規が38人、非正規が43人となる。事務経費の節減は、区選挙管理委員会の集約による委員報酬の抑制が大きい。
 区役所は中、浜北、天竜の各区役所を存続させると内定した。そのほかの4区役所は行政センターと改称するが、機能や住民サービスは低下させない。土木整備事務所は今の北、天竜両区役所と現南土木整備事務所(中区)の3カ所に置き、出先グループを8カ所に据える。今の区役所にある社会福祉、長寿保険、健康づくりの各課は本庁部局に移管し、「福祉事業所」を、出先を含めて7カ所、「保健センター」を同11カ所に配置する。
〈2021.12.08 あなたの静岡新聞〉

区役所巡り急浮上した「新3区案」 舞台裏は

 浜松市議会の特別委員会が7日、2015年から続く行政区再編協議でようやく最終案の内定にこぎ着けた。合意を見た「新3区案」は、市自治会連合会などに説明してきた「たたき台3案」とは別案として11月以降に急浮上。唐突にも映る新3区案の提案にはどのような背景があり、市民はどう受け止めるのか。23年2月議会の関連条例制定に向けた課題を探る。

採用されなかった行政区再編の「たたき台」3案
採用されなかった行政区再編の「たたき台」3案
 「最終的には(たたき台とは)別の3区案で行きたい」。衆院選真っただ中の10月下旬、浜松市役所5階の市長室。鈴木康友市長を訪ねた市議会最大会派、自民党浜松のベテランが新3区案で会派内の一本化を目指す意向を伝えると、市長は軽くうなずいた。
 自民内は2、3、4区案で意見が割れていた。「地元に区役所を残してほしい」との住民要望を背負う市議の思惑は一致が難しい。再編後の区数を決める11月25日の特別委まで、1カ月。「このままだと、絶対まとまらんぞ」。焦りが募り、会派の会合では怒気を含む声も飛び交った。
 特別委と市が市内7区で9月から始めた中間報告会。「区役所がなくなっても行政センターとして窓口サービスは続ける。今までと変わらない」との説明に自治会役員らは懐疑的だった。「困った時は区長に相談したい」。区役所存続への強いこだわりが見えた。
 たたき台3案から最終1案に絞るシナリオは行き詰まった。たたき台の3、4区案は北区の大部分と西区を統合する内容。どちらに区役所を置くかで住民間の意見が対立した。
 「北、西区の合区は厳しい」。こう判断した市幹部は自民に10月中旬、2月時点で特別委に提示したたたき台13案の再検討を持ち掛けた。13案には北、西区を分離する別の3区案が含まれていた。「2区は地域特性が埋没し、4区はコスト削減効果が減る」として3区案支持が多数派だった自民は、13案で両区が分かれる唯一の3区案を最終案候補として復活させ、打開を図る方針を決めた。
 鈴木市長は「柔軟で効率的な行政運営には区が少ない方がいい」と2区案を望んできたが、23年2月議会までのスケジュールを念頭に新3区案を容認。これで潮目が変わった。
 自民は市議会全体でも、特別委でも過半数を占める。コスト削減効果が最大の2区案を支持した創造浜松、公明党、市民クラブもスケジュール通りの再編実現という“大義”のもとに、譲歩した。
 特別委の高林修委員長は「納得できない市民がいるかもしれないが市全体を考えて理解してほしい。新3区案がより良い案だと証明していくのが議会の使命だ」と強調する。
〈2021.12.08 あなたの静岡新聞〉
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