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焼津カツオ盗 急がれる全容解明

 焼津漁港に水揚げしたカツオが、流通段階で不正に抜き取られていた事件で、焼津漁業協同組合が調査の結果を報告しました。犯行は数十年にわたって行われていた可能性もあり、原因の追究が求められています。現段階で分かっていることをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉

抜き取りは数十年前から 確認された行為は少なくとも10件

 焼津漁港に水揚げしたカツオが流通段階で抜き取られた事件に関連し、焼津漁業協同組合は29日、焼津市内で記者会見を開き、内部調査結果の報告書を公表した。調査で魚の抜き取り行為が数十年前から発生していたことが判明。西川角次郎組合長は「長年にわたる不適切な行為があった」として謝罪した。

謝罪をする焼津漁協の西川角次郎組合長(右から2人目)と漁協幹部=29日午後、焼津市内
謝罪をする焼津漁協の西川角次郎組合長(右から2人目)と漁協幹部=29日午後、焼津市内
 報告書には、職員への聞き取り調査などを通じて確認されたカツオなどの抜き取り行為10件が記載されている。最も古いケースでは、数十年前から10年前までの間、職員が抜き取った魚を加工会社に渡して換金し、遊興費に充てていたという。
 2008~10年には、既に退職した職員が在籍時に、焼津漁協所有の冷蔵庫に保管していたカツオの抜き取りに関与していたことが証言で明らかになった。関与した職員は数万円の報酬を得ていたとされる。
 また、窃盗罪で起訴された焼津漁協職員の被告(40)=同市東小川2丁目=以外の職員が、12年ごろに抜き取り行為に関与していたと供述。同罪で起訴された男(60)=同市大村新田=が社長を務めていた水産加工会社から報酬を受け取っていたという。
 これらの不正行為について、西川組合長は「まったく知らなかった」と述べた上で、「職員のコンプライアンスを徹底すべきだった」と答えた。
 聞き取り調査で、計量係や競り人からは、年長者の運転手や仲買人から不正行為の指示を受けた場合に「相手への恐怖心から断ることが難しい環境にある」との指摘が上がった。報告書では、こうしたことを防ぐため、人事体制の見直しを図るべきと提言している。
 焼津漁協は船会社や水産加工会社などをメンバーとする再発防止策の検討委員会を立ち上げる方針。近く船会社を対象に合同説明会も開く。
〈2021.11.30 あなたの静岡新聞〉

漁協職員ら7人が告訴される事態に

 焼津漁港に水揚げしたカツオが流通段階で不正に抜き取られたとして、静岡県外の船会社2社が焼津漁業協同組合職員=被告=(40)ら7人を窃盗容疑で焼津署に告訴する方針を固めたことが、18日までに関係者の取材で分かった。

 告訴の対象は被告のほか、同市の水産加工会社元社長(60)、同社元役員(47)、焼津市の運送会社社員(47)、同社員(43)の4被告と、30代の同漁協職員と元職員の2人=窃盗容疑で逮捕、処分保留で釈放=。
 関係者によると、7人は共謀し、一昨年から昨年までの間に、県外の船会社2社が所有する漁船が焼津漁港に水揚げした冷凍カツオなど数トンを盗んだとされる。
 カツオの窃盗事件を巡っては、今年2月に焼津市内の魚市場で冷凍カツオ約4・5トン(計約100万円相当)を盗んだとして、静岡地検が被告ら5人を窃盗罪で静岡地裁に起訴した。
〈2021.11.19 あなたの静岡新聞〉

「裏切り」「ブランドに傷」 焼津の漁業関係者怒りあらわ

 焼津市内の水産加工会社が水揚げしたカツオを、流通段階で不正に抜き取ったとされる事件は、27日(※2021年10月)までに市場を取り仕切る立場である焼津漁業協同組合の職員ら計7人の逮捕者を出す前代未聞の不祥事に発展した。国内有数の水揚げ高を誇る焼津漁港の信頼を揺るがしかねない事態に、水産関係者からは怒りの声が相次いでいる。

カツオの盗難事件があったとされる焼津漁港=27日午前、焼津市内
カツオの盗難事件があったとされる焼津漁港=27日午前、焼津市内
 「漁師が命がけで取ったカツオを盗むなんて腹立たしい」。被害に遭った水産加工会社の幹部は怒りをあらわにした。水揚げした魚は漁港を取り仕切る漁協に流通過程に乗るまで扱いを任せている。それだけに複数人の漁協職員が関与していたことに裏切られた思いを抱き「組織としてけじめをつけてほしい」と語る。
 水産関係者の間では「焼津港では、ほかの港と比べて水揚げ量が減る」といううわさが流れていたという。幹部は「被害に遭ったのはわが社だけではないのでは」との疑念を持つ。
 犯行には同市内の水産加工会社の当時の幹部の関与が疑われている。別の水産関係者は「同業者として許せない。本来の立場を見失っているとしか思えない」と憤る。
 退職者を含めて職員3人の逮捕者が出たことに焼津漁協幹部は「焼津漁協のみならず焼津港のブランドイメージに傷が付いた」と肩を落とす。漁協では10月に調査委員会を設置し、全職員約120人を対象に聞き取り調査を実施している。幹部は「再出発するためにも全てのうみを出し切る」と述べた。
〈2021.10.27 あなたの静岡新聞〉

焼津カツオ窃盗 「常態化」の徹底究明を【静岡新聞社 社説】

 焼津港に水揚げしたカツオが流通段階で不正に抜き取られた窃盗事件は、地元漁協職員が主導的に関与し、抜き取りが常態化していた可能性が高まっている。「さかなのまち」・焼津のブランドを傷つけ、港への信頼を揺るがす深刻な事態だ。全容を徹底究明し、再発を防がなくてはならない。

 事件では、今年2月に焼津市内の魚市場で冷凍カツオ約4・5トン(約100万円相当)を盗んだとして、焼津漁協職員と同市の水産加工会社元社長ら5人が窃盗罪で起訴された。必要な計量をせず、カツオが入ったパレットにこの会社名の看板を貼り付け、冷凍庫に保管するなどの手口。漁協職員は漁協が運営する計量所や運搬作業場の仕切り役だった。
 水産関係者の間では、「焼津港では、ほかの港と比べて水揚げ量が減る」とのうわさがあった。「相当以前からこのような犯行が横行していたのでは」との声もある。今回の事件で被害に遭った市内の会社は、少なくとも2年前から同様手口の窃盗被害を受けていたとみられる。事実なら、なぜここまで表面化しなかったのか、過去までさかのぼった厳格な究明が必要だ。
 漁協は抜き取りの具体的な情報が地元で出回り始めた今夏、警備員を配置したり運搬トラックの動線を一つにしたりするなど、再発防止策に動いた。10月の職員らの逮捕を受け、外部の専門家を入れた調査委員会を設置。全職員への聞き取りを実施し、近く報告書をまとめる。透明性を確実に担保してほしい。
 焼津港の2020年の水揚げ額は412億円で、5年連続全国トップ。冷凍カツオの水揚げ量も約8万9000トンで、日本一を続ける。
 カツオは「さかなのまち」を支える屋台骨だ。かつお節製造の伝統があり、市内の飲食店や鮮魚店が自慢のカツオ料理を提供するグルメイベント「鰹[かつお]三昧」なども行われ、最大の町おこし資源といえる。市は漁業振興に税金を投じている立場でもあり、強い当事者意識と危機感を持って、今回の不祥事の究明に積極的にかかわるべきだ。
 漁協の調査委の調べで、「損失補てん」の名目で抜き取り行為が複数回行われていたことも新たに分かった。水産加工会社が競り落とした冷凍カツオに鮮度が悪い魚が交じっていた場合、漁協職員が船会社に無断で鮮度が良い魚を抜き取って渡していたという。
 港の「慣習」として長年見過ごされていた行為も多いのではないか。全てのうみを出し切らない限り、再出発はできない。
〈2021.11.26 あなたの静岡新聞 社説〉
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