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中部横断道 待望の全線開通へ

 静岡と山梨をつなぐ大動脈、中部横断自動車道が8月いよいよ全線開通します。工事の遅れなどで、開通はたびたび延期されてきました。これまでの経緯は。静岡県への経済効果は。記事4本をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉

8月29日全線開通 静岡―山梨間、70分短縮

 国土交通省は21日、中部横断自動車道の静岡県と山梨県を結ぶ区間が8月29日に全線開通すると発表した。山梨県内で唯一工事中だった南部インターチェンジ(IC)と下部温泉早川ICの13・2キロ区間が同日午後4時に通行可能になる。当初は9月の全線開通を予定していたが、最終段階の工事が想定より早く進んだことから、前倒しが可能と判断した。

中部横断自動車道の整備状況
中部横断自動車道の整備状況
 同省甲府河川国道事務所によると、静岡県庁から山梨県庁までの所要時間は従来の国道52号を利用する場合に比べて約70分間短縮され、1時間35分程度になるという。
 また、東西の大動脈でもある中央自動車道と東名高速道、新東名高速道が中部横断道で直結することによって、山梨県から清水港へのアクセス向上による海外輸出促進や中部横断道沿いへの企業立地、富士山周遊の観光ルート形成などの経済効果が期待される。
 中部横断道は地盤が想定外に悪かったことなどを理由に開通の延期を繰り返していた。
 〈2021.7.22 あなたの静岡新聞〉⇒元記事

全線開通、たびたび延期に 工事工程見直しなど

■当初開通予定は2017年 まず2年延期

2016年12月、開通時期の延期を受けて工事難航箇所を視察し、中日本高速道路の工事責任者から説明を受ける川勝平太知事(右端)=山梨県南部町
2016年12月、開通時期の延期を受けて工事難航箇所を視察し、中日本高速道路の工事責任者から説明を受ける川勝平太知事(右端)=山梨県南部町
 トンネル掘削工事の難航で開通時期が遅れている中部横断自動車道の新清水ジャンクション(JCT)―六郷インターチェンジ(IC)間について、国土交通省が2019年度に開通するとした工程をまとめたことが21日(※2016年11月21日)、分かった。当初予定していた17年度から2年の開通遅れとなる。
  総事業費はトンネル掘削工事対策費や重金属を含む掘削土の処理対策などで約600億円積み増し、2600億円となる見込み。新清水JCT―六郷IC間のうち、六郷IC―下部温泉早川IC間、南部IC―富沢IC―新清水JCT間はいずれも18年度、下部温泉早川IC―南部IC間は19年度の開通となる見通し。六郷IC―増穂IC間は当初予定通り16年度中の開通が見込まれる。
  国交省は22日に山梨県庁で開く同自動車道連絡調整会議で19年度開通とする工程を決定する方針。さらに同日、関東地方整備局(さいたま市)で行う事業評価監視委員会で事業費600億円の追加を決める。
  同自動車道は新清水JCT―増穂IC間のトンネル区間の工事で、想定よりも地盤がもろく、掘削土から重金属が検出され、追加対応が必要となった。国交省は当初の17年度開通は困難との見通しを示していた。
〈2016.11.21 静岡新聞夕刊〉

■19年→20年に 2度目の延期
 国土交通省は19日(※2019年3月19日)、山梨県庁で開いた中部横断自動車道連絡調整会議で、2019年度中に予定していた新東名高速道と中央自動車道を結ぶ中部横断道(延長74キロ)の全線開通が、20年内に遅れるとの見通しを正式表明した。
  山梨県内の南部インターチェンジ(IC)―下部温泉早川IC間(13・2キロ)のトンネル工事が難航しているため。難工事の対策のため、同区間で360億円程度の追加費用が発生するという。
  会合は冒頭のみ報道陣に公開。同省甲府河川国道事務所の安谷覚事務所長はあいさつで「もろい地盤のため難工事が発生し、対策工事の工程を考慮した結果、20年内の開通となった」と説明した。
  中部横断道の未開通区間のうち、富沢IC-南部IC間(6・7キロ)は19年夏ごろの開通を予定している。
〈2019.3.19 静岡新聞朝刊〉

■20年→21年に 3度目の延期
 国土交通省甲府河川国道事務所は17日(※2020年7月17日)、中部横断自動車道のうち、山梨県身延町の下部温泉早川インターチェンジ(IC)と同県南部町の南部IC間(13・2キロ)の開通が、2020年内から21年夏ごろに遅れると明らかにした。静岡と山梨を結ぶ南側区間のうち、最後の区間だった。
  同事務所によると、地盤が想定より悪く、工事の見直しが必要になったため。事業費に大きな変更はない。
  中部横断道は、長野県小諸市と静岡市清水区を結ぶ全長132キロの高速道路。途中、山梨県の中央自動車道を経由する。
  川勝平太知事は「開通見通しの延期は大変残念だが、安全確保が第一であり、工事の安全に留意の上で、一日も早い開通を祈念する」とのコメントを出した。
〈2020.7.18 静岡新聞朝刊〉

静岡県に年182億円の経済効果 山梨大などの分析

 静岡、山梨両県で整備が進む中部横断自動車道新清水ジャンクション(JCT)-増穂インターチェンジ(IC)間の開通による経済波及効果について、静岡県の実質所得変化が年間182億円、山梨県は135億円、長野県は17億円となり、3県の中で静岡県への経済効果が最も大きくなるとの分析結果を8日(※2019年11月8日)、山梨大と山梨経済同友会が発表した。

開通に向けて準備が進む中部横断道(奥中央)。手前は新清水ジャンクション=2019年2月5日午前11時10分ごろ、静岡市清水区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
開通に向けて準備が進む中部横断道(奥中央)。手前は新清水ジャンクション=2019年2月5日午前11時10分ごろ、静岡市清水区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
   同大などによると、静岡県への経済効果は開通で輸送機械や化学製品の生産が活発化して大きく伸びると推測。1世帯当たり年間1万3100円の所得増加が見込めると算出した。県の産業生産額も開通で年間550億円増え、3県で最大の恩恵を受けるとした。
  一方、開通による経済効果の総額は、全国で8850億円に上るとし、整備にかかる総費用6345億円を上回る見通しだという。山梨、静岡県間の交通量は未開通時と比べ、貨物が30%超、旅客は34~40%程度増えるとの予測も明らかにした。
  同大の武藤慎一准教授は「リニア中央新幹線が開通すると(都市部に人や金が吸い上げられる)ストロー効果が懸念される」と指摘。その上で「中部横断道が開通すれば(静岡、山梨の)縦軸の経済圏ができ、対抗できる」と強調した。
  中部横断道の未開通区間のうち、山梨県内の富沢IC-南部IC間(6・7キロ)が17日に開通する。同区間の完成で新東名高速道路新清水JCTと中央自動車道を結ぶ延長74キロのうち8割強の61キロが供用されることになる。残る南部IC-下部温泉早川IC間(13・2キロ)開通は20年内の予定。
〈2019.11.9 静岡新聞朝刊〉

地元自治体や観光業界 交流拡大に期待

 10日(※2019年3月10日)の中部横断自動車道部分開通(新清水ジャンクションー富沢インターチェンジ区間の開通)の好機を生かそうと、静岡県の自治体や観光業界では山梨、長野両県の沿線地域との交流が活発化している。2019年度中に予定される全面開通を見据え、関係者らは新たな観光需要や交流人口拡大に向けたPRやツアー作りなどの取り組みに力を入れている。

富沢ICで開通パレードの車両を出迎える地元住民ら=2019年3月10日午前11時10分ごろ、山梨県南部町(写真の一部を加工しています)
富沢ICで開通パレードの車両を出迎える地元住民ら=2019年3月10日午前11時10分ごろ、山梨県南部町(写真の一部を加工しています)
 「一部とはいえ待ちに待った開通。これを機に甲信地方での需要の掘り起こしを図りたい」-。そう語るのは、駿河湾フェリーを運営するエスパルスドリームフェリーの鈴木洋一社長だ。同社は3月下旬に山梨、長野地方限定のネット広告を掲出し、5月の大型連休での清水、伊豆への周遊の呼び込みを図る。
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開通により甲信地方からの利用者増に期待を寄せる駿河湾フェリー=2019年3月6日、静岡市清水区の清水港日の出埠頭

  6月から同フェリーの運営を担う県や関係市町で組織する新法人は、年間利用者数を20万人と設定。県観光政策課は、目標達成には現在約5%にとどまる甲信地方からの利用者増が不可欠とし「フェリーでないと味わえない魅力を発信していきたい」と意気込む。
  沿線地域の自治体間の交流も活発化している。静岡市清水区で毎秋開かれる「清水港マグロまつり」では、昨年から山梨、長野両県の沿線自治体を集めたブースを新設した。甲府市、南アルプス市、佐久市など5市2町が参加し、特産品の販売などで魅力をPRした。本県で年間10回を越える営業を行う南アルプス市観光協会の依田賢治事務局長は「全面開通に先駆けた誘客の仕掛け作りが重要」と語る。
  一方清水区では、広報キャラクター「シズラ」を沿線地域の物産展などに派遣し、同区をアピールする事業を本年度から本格化させた。同区役所担当者は「互いの地域の魅力を知るきっかけを今後も増やしたい」と話す。
〈2019.3.11 静岡新聞朝刊〉
地域再生大賞