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熱海土石流 一夜明けて

 記録的な大雨の影響で3日、熱海・伊豆山で土石流が発生しました。4日昼までに11人が救助されましたが、2人の死亡が確認され、依然約20人の安否が不明のままです。これまでに分かった情報をまとめます。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉

2人死亡、民家が多数流失 記録的大雨に警戒続く

 3日午前10時半ごろ、熱海市伊豆山の伊豆山神社南西で、大規模な土石流が発生し、逢初(あいぞめ)川に沿って土砂が流出した。県や同市によると、多数の民家が流され、巻き込まれたとみられる女性2人の死亡が確認された。約20人の安否が分かっていない。記録的な大雨の影響とみられ、沼津市で民家1軒が流されるなど静岡県内で被害が相次いだ。

大規模な土石流が発生した現場=3日午後4時57分、熱海市伊豆山
大規模な土石流が発生した現場=3日午後4時57分、熱海市伊豆山
 静岡地方気象台によると、5日にかけて大雨になる所がある。総雨量がさらに増えるため、土砂災害や河川の増水への厳重な警戒を呼び掛けている。
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 県によると、土石流は約2キロにわたって流れ下り、海まで到達した。死亡した2人は伊豆山港で海上保安庁が発見した。身元の確認を急いでいる。
 県の要請を受け自衛隊、緊急消防援助隊が出動し、救助活動に当たっている。県警や県内各地の消防本部も現地で活動している。市によると、被害エリアにある家屋は100~300世帯とみられる。現場にいた男女10人を救出した。121人が小学校などに避難している。
 同市網代では48時間雨量が321・0ミリに達し、7月の1カ月の平年雨量を上回った。県は同日午後、災害対策本部員会議を開いた。臨時記者会見した川勝平太知事は「全力で救援、救助に当たっている。被害を最小限に食い止める」と述べた。
 沼津市では、黄瀬川沿いの民家1棟が流された。住民2人は事前に避難していて無事だった。御殿場市や裾野市では床下浸水が発生した。
 3日までの48時間雨量は、森町三倉(475・0ミリ)、富士市(451・0ミリ)など6地点で観測史上最大、御殿場市(496・5ミリ)、静岡市葵区鍵穴(400・0ミリ)など11地点で7月の観測史上最大となった。
 気象台によると、4日の1時間雨量は県東部、伊豆で25ミリ、中部、西部で20ミリの見込み。同日午後6時までの24時間雨量は県東部、伊豆80ミリ、中部50ミリ、西部40ミリと予想している。

「まさか」土砂急襲、建物無残 地元住民「夜中から音」の声も

 自然の猛威になすすべもなく立ちすくんだ地元住民-。記録的な大雨が3日、熱海市に未曽有の土石流をもたらした。大量の土砂が民家や車を押し流し、女性2人が心肺停止の状態で発見、死亡した。静岡県によると、約20人の安否が分かっていない。沼津市でも家屋が川に流失するなど、各地で被害が発生した。県内は4日以降も雨が予想され、緊迫した状況が続く。

土石流が発生し住宅などが押し流された現場=3日午後3時53分、熱海市伊豆山
土石流が発生し住宅などが押し流された現場=3日午後3時53分、熱海市伊豆山
 ゴゴゴォーという地響きが聞こえた次の瞬間、おびただしい土砂が民家をなぎ倒し、車を飲み込んだ。3日午前10時半ごろ、熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流が伊豆東海岸の閑静な温泉街を襲った。大勢の住民が巻き込まれ行方が分かっていない。「まさかこんなことになるなんて…」。難を逃れた人たちもぼうぜんと立ち尽くした。
 「逃げて!」。身の危険を感じた住民はそう叫びながら、着の身着のままで避難した。恐怖におびえる子供の声も響いた。国道135号に架かる逢初(あいぞめ)橋付近では、住宅を巻き込んだ土砂が橋を覆い尽くした。倒壊を免れた木造住宅も傾き、ベランダや窓から土砂があふれ出た状態。周辺の道路からは茶色い濁流が勢いよく逢初川に流れ込み、物々しい雰囲気を増長させていた。
 
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家屋や車などが土石流に飲み込まれた=3日午後0時半ごろ

 「夜中からゴロゴロと大きな石が流れてくる音が聞こえていた。嫌な予感がした」―。逢初橋の向かいに住む湯原栄司さん(75)が被害の状況を確認するため外に出た瞬間、土石流の第2波、第3波が次々と発生した。住宅の柱や屋根を破壊するけたたましい音とともに、がれきを巻き込んだ大量の土砂が押し寄せた。突然の出来事に、ただただ逃げるしかなかった。
 逢初橋の近くに住む和田盛治さん(82)も自宅がのみ込まれたという。「近所の人に土石流と聞いて不安になり、外の様子を見ていた。このままでは危ないと思って避難を始めたら、うちの前にも土砂が流れてきた。あのまま家にいたらどうなっていたか…」と表情をこわばらせた。自宅が流された別の男性(72)も「家族がずっと守ってきた家。悔しい」と声を絞り出した。被害現場を訪れた難波喬司副知事は二次災害の危険に触れた上で「人命が一番大事。一刻も早く救出したい」と話した。

約20人が安否不明 救出急ぐ

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警察の安否確認に手で丸を出して応じる土石流現場付近の住民(奥上)=3日午後3時59分、熱海市伊豆山

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海岸まで押し寄せた土石流=3日午後4時7分、熱海市伊豆山

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土石流で押し流された自動車=3日午後3時53分、熱海市伊豆山

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復旧作業が進む土石流現場=3日午後7時45分、熱海市伊豆山

原因は 今後の課題は… 専門家に聞く

 ■大量の雨で地盤緩んだ

 日本気象予報士会静岡支部の藤井聡支部長の話 本州南岸に停滞していた梅雨前線に向かって温かく湿った空気が流れ込み、雨雲が発達して大雨が続いた。熱海市網代の観測時点では、48時間降水量が7月の平年雨量を上回った。土壌雨量指数は、土砂災害の危険度が最も高い状態が続いていた。降り続いた大量の雨によって地盤が緩んだと考えられる。全県的に、これまでの雨で土砂災害が発生しやすい状況が続いている。ハザードマップや気象庁の危険度分布の情報で地域の土砂災害危険度などを確認し、早い段階で避難する必要がある。 

 ■想定された場所と規模
 静岡大防災総合センターの牛山素行教授(災害情報学)の話 土砂災害警戒区域に指定された場所で発生した。映像を見る限り、流れた土砂の速度や広がりは一般的な土砂災害で言われているものに近い。想定された場所で想定規模の災害が発生したと言える。現地は繰り返し土石流が起きて形成された地形でもある。熱海市が避難指示ではなく、一段低い高齢者等準備の発令にとどまったことが疑問視されているが、高齢者等避難は一般の人にも避難行動を起こしてもらう情報であり、一概に否定できない。
地域再生大賞