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コロナ後遺症 治療法は

 新型コロナウイルスに感染した人の多くが後遺症に苦しんでいます。中には離職を余儀なくされる人も。最新の治療法は。周囲はどのようなサポートが必要なのかー。専門家の見解や、これまでの知見を通じて考えます。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉

感染者7割に症状か コロナ後遺症の専門外来開設 土田知也氏インタビュー

 新型コロナウイルスに感染した患者が後遺症に悩む実態が浮き彫りになる中、共立蒲原総合病院(富士市中之郷)は5月中旬から、静岡県内では初とみられる後遺症専門外来を開設した。知見集約や治療法の確立に役立てる。

土田知也氏
土田知也氏
 ―開設の経緯は。
 「新型コロナの重症患者を診ている聖マリアンナ医科大は、ことし1月に後遺症外来を開設し患者が増加している。県内に後遺症を診る病院がなかったので蒲原病院の院長に提案した。毎週木曜午後に新患に対応する。首都圏に比べ感染者は少ないが、後遺症で苦しむ人はいるはず。既に県東部中心に受診希望者が来院し、ニーズを感じる」
 ―後遺症の症状は
 「感染者の7割、入院しなかった軽症者でも3~4割に後遺症があるとされるが、病態はよく分かっていない。退院後に医師に相談しても『分からない』と言われて悩む患者は多く、日本の感染状況を見ると患者が多数いると推察できる。動いた時のだるさや呼吸困難感が最もつらく、味覚・嗅覚障害、頭痛もある。複合的な症状の出る重い症例ではうつ病のような症状もある。患者には『治ったのに働けないのか』と職場を追われる人もいて、患者を救わなければならない」   ―診療の実際は。
 「ウイルス感染後に自律神経が乱れることがあり、自律神経の障害で起こる体位性頻脈の影響が考えられる。まず、寝ている状態と起きた状態の脈を比べて体位性頻脈がないかを診る。脈が早まる人は抑える薬で症状が緩和することが多い。頻脈がない場合は酸素飽和度が下がるかを診て気管支を拡張する薬などを投与する。検査でも異常がない場合は漢方の処方を考える」
 ―課題や展望は。
 「診療には元々の基礎疾患の悪化や後遺症特有の症状があるため、さまざまな診療科の知識が必要となる。各診療科の連携も欠かせない。重症者が増える中では急性期対応やワクチン接種に重点が置かれ、後遺症の診療に取り組む病院はまだほとんどない。急性期の治療法は確立されてきたが、後遺症も全国各地で治療できる体制づくりが理想だ。そのためには国レベルのチーム体制でガイドラインなど対処法を打ち出した方がいい。世の中に後遺症への理解を広める必要性も感じている」

 つちだ・ともや 聖マリアンナ医科大卒。同大総合診療内科助教。2019年4月から共立蒲原総合病院で週1回の外来診療を担う。39歳。都内在住。
〈2021.6.13 あなたの静岡新聞〉 ⇒元記事

コロナ後遺症の専門外来 富士・共立蒲原病院に5月開設

 富士市の共立蒲原総合病院は5月中旬、新型コロナウイルス感染症の後遺症を診療する、静岡県内の病院では初めてとみられる「新型コロナウイルス後遺症外来」を開設する。同感染症ではウイルス消失後も後遺症に苦しむケースが多いと指摘されている。専門外来を通じて悩む患者に寄り添い、症例の把握にもつなげる。

5月から新型コロナウイルスの後遺症外来を開設する共立蒲原総合病院=富士市中之郷
5月から新型コロナウイルスの後遺症外来を開設する共立蒲原総合病院=富士市中之郷
 後遺症外来は、新型コロナ感染を診断されてから、おおむね2カ月が経過しても倦怠(けんたい)感、呼吸困難感、せき、味覚嗅覚障害、不安感、脱毛、記憶力の低下などの症状が残り苦しむ人を対象にする。症状に応じた検査をし、必要ならば関係診療科につなぐ。毎週木曜午後の予約制で、診療所などの紹介が必要。
 今後も後遺症に悩む人が増えると見込まれる中、昨年夏から同感染症の軽症者を受け入れてきた地域の医療機関として、後遺症診療を手掛けるべきと西ケ谷和之院長らが開設を模索してきた。
 ことし1月に後遺症外来を開設した聖マリアンナ医科大病院から派遣され、蒲原病院でも総合診療科外来を担当する土田知也医師が診療を担う。土田医師によると、後遺症は感染者の7割、軽症者でも3割に現れるとの報告がある。原因や治療法にまだ不明な部分が多く、医療機関は対応に苦慮している。聖マリアンナ医科大病院では4月中旬時点で全国から患者約100人が来院している。
〈2021.4.28 あなたの静岡新聞〉 ⇒元記事

コロナ後遺症、40代以下多く 医師「回復後は運動控えて」

 新型コロナウイルスに感染し、検査で陰性となった後も倦怠(けんたい)感や息苦しさといった後遺症に長期間苦しむ人が相次いでいる。コロナ自体は軽症だったのに、後遺症で寝たきりになるケースも。専門外来を置く医療機関は少なく、医師は「40代以下が特に多い。政府も深刻な問題と受け止め、対策が必要だ」と指摘している。

  「いつまで続くのか」。昨年11月末に感染した介護関連会社社長秋本可愛さん(30)=東京都=は2カ月たった今も味覚障害に悩まされている。感染から約1週間で倦怠感や体の痛みが治まってきたころ、味覚と嗅覚を突然失った。問い合わせた耳鼻科には「何もできない」と言われ、別の耳鼻科で漢方薬を処方されたが、治らない。最近は温かい食べ物に異臭を感じるため、食事がつらい。「情報が少なく、漠然と恐怖を感じている人も多い」とツイッターで体験談を公開している。
  後遺症の研究は米国やイタリアなどで進んでいる。国内では国立国際医療研究センター(東京)が昨年、退院患者に電話でインタビューし、63人が回答。その結果、発症から4カ月後でも呼吸苦や倦怠感、嗅覚障害が続き、数カ月後に脱毛があるケースも判明した。
  昨夏からオンライン外来で後遺症の相談に応じる北里大東洋医学総合研究所(東京)の小田口浩所長(58)は「確立した治療法はなく、対症療法が中心。現場の医師も対応に苦慮しているのが現状だろう」と話す。
  全国の後遺症患者約700人を診察した「ヒラハタクリニック」(東京都渋谷区)によると、患者の95%は倦怠感を訴え、80%以上に気分の落ち込みや思考力の低下があった。年代別では40代が患者の約3割を占め、半数近い人が10~30代だった。女性は男性の約1・4倍多い。平畑光一院長(42)は「免疫が暴走して臓器を攻撃する『サイトカインストーム』が後遺症の一因ではないか」とみる。女性は「自己免疫疾患」が多いため、後遺症が出る可能性があるという。
  中には散歩しただけで悪化するケースもあり、回復後は運動を控えることが重要。「無理に体を動かした結果、寝たきりになり、職場を解雇された例もある。後遺症の患者が不利益を受けないように周知するなど、国や行政が本腰を入れて対策に取り組んでほしい」
〈2021年2月1日付静岡新聞夕刊「コロナ後遺症 40代以下多く 医師「国が対策を」〉

専門医Q&A 後遺症には対症療法と精神サポート

 静岡県内で新型コロナウイルスの感染が広がり始めて1年。世界中の研究者が瞬時に情報を共有しているおかげで、感染症の実態は既に明らかになっている。それでもなお、多くの人が不安を抱え、過剰ともいえる感染対策を受け入れながら生活しているのが現状だ。今回は、県立こども病院の荘司貴代感染対策室長による新型コロナインタビュー連載の番外編。読者の質問に荘司室長が答えるQ&Aとともに、静岡新聞の「こち女」と「NEXT特捜隊」が行った新型コロナに関するアンケート結果を紹介しながら、社会のストレスを軽減する手だてを探りたい。


 【Q】コロナの終息はいつ頃でしょう。インフルエンザのように、これからもずっと、なくなることはないのでしょうか。(御殿場市、52歳女性)
 【A】感染症の流行は、原因となる病原体に対して免疫がある人(抗体を持つ人)が増えない限り、終息しません。免疫をつける方法は、自然に罹患[りかん]するかワクチンを打つかの、どちらかです。
 例えばはしかは、95%の人に免疫がなければ流行します。免疫のない5%には、ワクチン接種前の乳児や、白血病で免疫が極端に弱い人が含まれますが、流行しないことで、彼らも感染から守られます。日本ではしかが流行しないのは、高齢者は昔自然に罹患しており、若い人はワクチンで免疫をつけているおかげです。
 新型コロナの場合、具体的に何%の人に免疫があれば流行しないのか、分かっていません。インフルのように、ウイルスの変異を予測しながら製造されるワクチンを、毎年打つことになるかもしれません。

 【Q】ワクチン接種が進んでいる諸外国では、感染状況がどう変わっていますか?(函南町、59歳女性)
 【A】日本でも導入されたファイザー社製のmRNAワクチンは、臨床試験の段階で、発症を95%減らす効果が確認されていました。
 イスラエルでは、2月上旬までに、重症化しやすい70歳以上の84%が、2回の接種を終えました。感染、発症、入院、重症化、死亡の全ての数が減少しています。50歳未満は10%。人工呼吸器を必要とした症例は、50歳未満を1とした時、70歳以上は5.8から1.9に、67%減りました。
 ワクチンによる免疫の持続期間や、変異株への有効性などはまだ確認されていないため、接種したからといって一気に流行前の生活に戻せるわけではありません。接種率と流行状況をみながら、徐々に制限を解除していくことになるでしょう。

 【Q】子どもは感染しても無症状が多く、無症状なら他人にうつすリスクが少ないといいます。子どもの窮屈な生活制限を緩めてもらえないでしょうか。(伊豆の国市、38歳女性)
 【A】ご指摘の通り、子どもが感染しても、無症状か風邪以下で、元気いっぱいです。国内の累計感染者数のうち、10歳以下は3%未満。ほとんどが大人から感染しています。子どもにとってのコロナ被害は、子どもらしい生活を奪われていること。文部科学省の調査によると、昨年の児童生徒の自殺者数は前年比1.4倍です。
 学校や幼稚園、保育園の先生は、文科省の衛生管理マニュアルに従って感染対策をしています。流行レベルに応じて、活動を制限したり緩和したりします。「距離が保てない時の会話ではマスクを」などとあり、内容は妥当だと思います。もし、流行状況に合わない過剰な対応だと思うときは、学校や学校医と相談しましょう。
 私は静岡市教委の相談に応じていますが、現場で過剰な対応が行われる背景に、保護者からの過剰な要求もあると感じます。対策と人権侵害は紙一重。根拠のない対策や制限は、感染者への差別にもつながります。

 【Q】後遺症と、その治療について教えてください。(藤枝市、42歳女性)
 【A】回復後もさまざまな症状が現れることは、他の病気でもあります。新型コロナに感染して回復した人の調査は各国で行われていますが、現れる頻度や症状にはばらつきがあります。だるさや息苦しさ、せき、嗅覚障害、脱毛のほか、関節痛や頭痛、めまいなど、さまざまです。
 発症から10日たてば人にうつさないので職場復帰はできますが、後遺症で復帰が遅れる方もいます。狭心症や肺がんなど、急いで治療が必要な病気が隠れていないか確認したうえで、後遺症と考えられる時には、対症療法や精神的なサポートを行います。

 【Q】基礎疾患があると重症化しやすいといわれますが、その可能性は明らかになっていますか。(三島市、46歳男性)
 【A】重症化のリスクとなる基礎疾患には、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満があります。日本糖尿病学会、日本透析医学会など、各学会のウェブサイトで、感染した場合のリスクや注意点を詳しく説明しています。ワクチンの順番がきたら、機会を逃さず接種してください。新型コロナを含め、他の病気の既往歴がある方も、接種することに問題はありません。

 ■アンケート「あなたの今、教えて」
 身近に感染者「怖い」9割 1年経てもストレス
 299人が回答したアンケート「県内流行1年『あなたの今』を教えてください」では、ウイルスの侵入経路遮断を意識しながら感染対策をしている人が83%だった。一方で、身近な他人の感染が分かったら「怖い」もしくは「不安だ」と感じる人は90%、外出時に感染しないかいつも気になる人は半数近くに上った。
 感染を防ぐための知識は持っているのに、流行から1年たった今も、家の外で他人と過ごすときにはストレスを感じ続けている人が多いことがうかがえる。新型コロナに対する日常のストレスを減らすために必要なことは何か。2人の専門家に尋ねた。

 >過剰な対策はやめて
 堀成美さん(東京都看護協会危機管理室アドバイザー、感染対策コンサルタント)
 感染症の歴史を振り返ると、流行時には必ず社会に不安が生じ、偏見や差別が起きている。拡大初期に、一部の重症化事例や死亡事例を見聞きすることで、いったん不安が植え付けられると、そう簡単には消えない。
 必要なのは、知識だけではない。不安に思っている人をサポートする受け皿。不安を口にしてもばかにされず、疑問に答えてくれる窓口。感染者への誹謗[ひぼう]中傷が問題になっているが、中傷する側の根底にあるのは不安だ。
 今、最も優先すべき目標は、マスクを着ければできる催しまで中止にするなどの過剰な制限をなくし、社会の混乱を小さくしていくこと。混乱がある限り、経済は停滞し、子どもたちの学びの場は失われる。各団体や組織が、身内で行われている対策を列挙して、本当に必要かどうか皆で確認しながら、負荷を軽減していく時期に来ている。

 >実態を正しく知って
 岩井一也さん(静岡市立静岡病院感染管理室長、日本感染症学会評議員)
 アンケート結果から、新型コロナを、実態以上に怖い病気だと捉えている人が多いと感じた。「自分が重症化するのでは」と心配している人が回答者の半数以上もいる。まず、病気の実態を正しく知ることが不可欠だ。
 重症化するのは60代の入院が必要な感染者のうち1.4%、70代でも2.1%(3月3日時点)にすぎない。がんや脳梗塞で亡くなる人の方がはるかに多い。自分の日常にある他のリスクと比較してみることをおすすめする。
 この1年、院内で感染が広がらないために、対策をどう徹底してきたかと問われることがあるが、実は逆。やり過ぎの対策を、いかにそぎ落とすかが大切だ。社会でも、入店前の体温測定やレジカウンターのビニールカーテンなど、感染ではなく風評被害を防ぐための対策が続けられているが、「ゼロリスク」を目指していては、皆、持たない。社会全体で、必要最小限の対策を続けていこう。

 ※アンケートは2月26日~3月1日に実施。回答者の75%が40~60代、68%が女性で、全世代の男女の考えを反映した結果ではない。
  〈2021.3.14 あなたの静岡新聞〉 ⇒元記事
地域再生大賞