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ボッチャ・杉村英孝選手 4度目のパラリンピックへ飛翔

 必殺の「スギムライジング」をひっさげ、東京パラリンピック金メダルに輝いた、ボッチャの杉村英孝選手(伊東市出身)。パリ代表選考会を兼ねた日本選手権では惜しくも優勝を逃しましたが、4度目のパラリンピック出場が内定しました。決勝を戦った広瀬隆喜さんは長年のライバルであり、日本代表としてパリでも共に戦います。10年以上世界と渡り合い、前回王者としての活躍に期待がかかる杉村選手の歩みを振り返ります。

【東京パラリンピック】日本勢初の金メダル

※2021年09月02日静岡新聞朝刊

個人(脳性まひBC2)決勝 第3エンド、ボールを投げる杉村英孝=有明体操競技場(写真部・二神亨)
個人(脳性まひBC2)決勝 第3エンド、ボールを投げる杉村英孝=有明体操競技場(写真部・二神亨)
 個人(脳性まひBC2)決勝で、杉村英孝(伊豆介護センター)がワッチャラポン(タイ)に5-0で勝ち、ボッチャで日本勢初の金メダルを獲得した。メダルは2016年リオデジャネイロ大会のチーム(脳性まひ)の銀メダルに続き2個目。杉村は第1エンドに2得点し、その後もリードを広げ完勝した。

正確無比 目標球にぴたり
 日本ボッチャ界が初めて獲得した個人戦のメダルは金色に輝いていた。「すごく重みを感じる。上位陣はミスがない。球数を使わず、いかに優位に立っていくかを考えていた」。表彰式を終えた杉村は誇らしげだった。
 杉村も、前回王者ワッチャラポンも正確無比のショットが武器。この日、すごみを見せたのは杉村だった。
 第1エンドで2点を先行。会場を沸かせたスーパーショットは第2エンドの5球目だ。相手の赤球をはじきつつ、自分の青球をジャックボールにぴたり。第3、4エンドも前回王者に重圧を掛け続け、ともに6球目をノースロー。最後まで主導権を握り続けた。
 杉村は使命感を胸に戦っていた。「最高の相手との戦いで、ボッチャの面白さを皆さんに見せたかった。ボッチャってすごいなと思ってもらえたのでは」
 前回リオデジャネイロ大会で団体銀メダルを獲得し、競技を取り巻く環境は大きく変わった。草の根レベルで裾野が広がり、100人に満たなかった日本選手権の出場者は倍以上に。東西の地区予選会が実施されるようになった。今秋の全国障害者スポーツ大会は中止が決まったが、ボッチャは正式競技として採用される予定だった。「この流れを止めてはいけない」。日本のエースとしての自覚を持って決勝のコートに上がっていた。
 ボッチャ界に新たな歴史が刻まれ、村上監督も興奮を隠せなかった。「杉村を目指し、越えようと思う選手が出てくることが日本の強化につながっていく。大きな一歩だ」

【リオパラリンピック】夢と勇気のメダル 同僚ら興奮、感動

※2016年09月13日静岡新聞朝刊
 リオデジャネイロ・パラリンピックでボッチャ日本代表チームが同競技日本人初のメダルとなる銀メダルを獲得した。主将の杉村英孝選手(34)=伊東市=やコーチの内藤由美子さん(40)=沼津市=の職場では、関係者が決勝の戦況を見守りながら懸命に声援を送った。
 
 杉村選手が働く伊豆介護センター(伊東市)では決勝のインターネット速報を流した。現地に同行した稲葉雅之社長から通信アプリで届く戦況報告も読み上げられた。おそろいのTシャツを着た父稔さん(71)や同僚ら約30人が集まり、投球結果が判明するたびに一喜一憂した。
 後援会副会長を務める社員の荻野耕介さん(39)は「メダル獲得は快挙。試合映像はなかったが、一丸になって応援できた」と興奮した様子で話した。鈴木好美さん(45)は「いつも身近にいる同僚が世界一を懸けて戦ったことに感動した」と笑顔を見せた。稔さんは「良く頑張った。個人戦で負けた悔しさを晴らしてほしい」とエールを送った。
 内藤さんが勤務する「かぬき学園」の運営法人「あしたか太陽の丘」(沼津市)では、職員や利用者らが横断幕を作って試合の推移を見守った。職員の坂井直美さん(43)は「利用者のボッチャ競技への意欲も増している。東京ではぜひ金メダルを目指して」とエールを送った。
 杉山嘉章理事長(63)は「素晴らしい戦いで皆が希望をもらった」と代表チームをたたえ、「内藤さんも裏方として、これまでの努力や苦労が報われたのでは」とねぎらった。​

ボッチャ決勝の戦況を見守る杉村選手の父稔さん(前列左から2人目)と職場の同 僚=13日午前、伊東市の伊豆介護センター
ボッチャ決勝の戦況を見守る杉村選手の父稔さん(前列左から2人目)と職場の同 僚=13日午前、伊東市の伊豆介護センター

初の日本一は2013年

※2013年02月01日静岡新聞朝刊

念願のボッチャ日本一になった杉村さん=伊東市の伊豆介護センター
念願のボッチャ日本一になった杉村さん=伊東市の伊豆介護センター
​ 国内最高峰の第14回日本ボッチャ選手権大会が25~27日、大阪市で開かれ、伊東市在住でロンドン・パラリンピック代表の杉村英孝さん(30)=静岡ボッチャ協会、伊豆介護センター勤務=が初優勝した。7回目の出場で念願の日本一をかなえた杉村さんは「パラリンピックを経験し、自信を持って大会に臨むことができた」と、喜びをかみしめた。

 杉村さんが出場したのは、上肢で車いす操作可能な脳性まひの人対象の「BC2」という、最も選手層が厚いクラス。国内トップの16人がリーグとトーナメントで戦った。
 杉村さんの決勝の相手は同大会6連覇中の広瀬隆喜さん(28)=千葉市原ボッチャクラブ=。これまで杉村さんが一度も勝ったことがない、日本の絶対的エースを前にしても、杉村さんは最後まで集中を切らさず、3―1のスコアで息詰まる接戦を制した。
 昨年9月のパラリンピックでの経験が飛躍につながった、と杉村さんは感じている。「海外の強豪選手はどんな苦境でも落ち着いている。精神力がいかに重要な競技か、あらためて感じた」と話し、最も重要な第一投をこれまで以上に集中して投じるようになったという。「優勝がまぐれと言われないように、もっと技術を高めて日本のボッチャを強くしていきたい」と、さらなる飛躍を誓った。
 ボッチャは運動機能障害がある人向けの競技で、白い的球に持ち球をどれだけ多く近づけるかを競う。ロンドン・パラリンピックで杉村さんが主将を務めた日本チームはベスト8に進出した。
 

13年前、初の世界舞台へ意気込み

※2011年07月26日静岡新聞朝刊

 8月18日から北アイルランドで行われる障害者スポーツ「ボッチャ」のワールドカップ(W杯)に出場する。「伊東から世界へ!」という夢に向かって練習に熱を入れている。29歳。

 ―ボッチャの魅力は。
 「脳性まひ者や四肢重度機能障害者のために考案されたスポーツだが、障害の重さや年齢にとらわれず、誰もが自分の意思で、対等に勝負できる。自分のイメージ通りにボールを投げられたときの喜びは格別」

 ―W杯への抱負は。
 「来年のロンドンパラリンピックの出場権を懸けた最後の大会。初めてのW杯だが、同じ障害を持つ方々に勇気を届けられるように、全力で戦ってきたい」

 ―障害者スポーツを取り巻く環境は。
 「諸外国では国や企業の支援が充実しているが、日本は環境が整ってなく、遠征費用などを自己負担しているのが実情。障害者スポーツの知名度を上げる努力をしながら、多方面からのサポートをお願いしたい」
地域再生大賞