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41年ぶり「直木賞」/放送技術で「エミー賞」… 静岡県勢の受賞、文化・文芸・学術編 ~2023年まとめ~

 この1年、さまざまな分野で静岡県内の企業、団体、個人が活躍し、それぞれ高い評価を得てきました。中には世界一、世界トップクラスや、また、日本一というものがありました。素晴らしい栄誉に輝いた功績を改めて称えるとともに、この1年を振り返ってみます。ここでは「文化・文芸・学術」に関連するものの一部をまとめました。

直木賞に永井紗耶子さん「木挽町のあだ討ち」 島田市生まれ 静岡県関係41年ぶり

 第169回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、永井紗耶子さん(46)=島田市生まれ=の「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」(新潮社)が直木賞に選ばれた。

第169回直木賞に決まり、受賞作「木挽町のあだ討ち」を手に笑顔を見せる永井紗耶子さん=19日午後、都内
第169回直木賞に決まり、受賞作「木挽町のあだ討ち」を手に笑顔を見せる永井紗耶子さん=19日午後、都内
 静岡県関係者の同賞選出は第87回(1982年)の「時代屋の女房」の村松友視さん(旧清水市出身)以来。本県生まれとしては第83回(80年)の志茂田景樹さん(伊東市出身)までさかのぼる。
 永井さんは1977年生まれ、横浜市育ち。2010年「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞しデビューした。昨年の第167回直木賞では「女人入眼」が候補入りした。「木挽町のあだ討ち」は今年の山本周五郎賞も受賞している。
 受賞作は、江戸を舞台にしたミステリー仕立ての小説。芝居小屋のそばで起きたあだ討ちの真相を尋ねに来た若い侍に対し、女形や小道具職人ら芝居に関わる面々が証言。あだ討ちを巡る人間模様やそれぞれの心情が徐々に明らかになっていく。軽妙な文体ながら武家社会のつらさや芝居小屋に集う人々の人生の苦楽も丁寧に描写している。
 直木賞選考委員の浅田次郎さんは永井さんの作品について「繊細で、技巧的に素晴らしい仕上がり」と評した。
 直木賞には垣根涼介さん(57)の「極楽征夷大将軍」(文芸春秋)も選出。芥川賞は市川沙央さん(43)の「ハンチバック」(「文学界」5月号)に決まった。賞金は各100万円。贈呈式は8月下旬に都内で開かれる。
帯まつりのおはやし「ルーツ」  時代小説「木挽町のあだ討ち」で第169回直木賞に決まった永井紗耶子さん(46)=島田市生まれ=が19日、都内で記者会見し、「恐悦至極。恐れと喜びが極まってくるというのは、こういう感じかなって思った」と語った。物語の題材にもなっている歌舞伎に興味・関心を持つきっかけとなった一つが、今も見物に足を運ぶ島田帯まつりの「おはやしの音だった」と明かし、「自分のルーツがある場所とゆかりのある作品が書けて良かった」と満面の笑みを浮かべた。
 生まれ故郷では、多くの書店やファンがデビュー当時から支えてくれた。「『そんなに私の作品を仕入れて大丈夫ですか』というぐらい仕入れて応援してくれた書店の方たちがたくさんいた。手作りのポップを作ってくれたりしたのも存じ上げている」と振り返り、「ここまで温かく見守ってくれたことに感謝している」と感慨を込めた。
 「歴史時代ものは難しい」というハードルを感じさせない作品にしようと意識し、読みやすさには自信を持っていた。それでも、5月の山本周五郎賞、そして今回の直木賞と「遠く見上げていた賞が来ることまでは正直、考えていなかった」と打ち明ける。「望外」「大変光栄なこと」と言葉を丁寧に紡ぎながら受賞の栄誉をかみしめ、今後も「賞の名に恥じぬよう、精進していく」と誓った。
(東京支社・関本豪)
〈2023.7.20 あなたの静岡新聞〉
「楽しい作品届ける」 直木賞の永井紗耶子さん 都内で贈呈式
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直木賞の贈呈を受ける永井紗耶子さん=25日午後、東京都内(写真部・二神亨)

 第169回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)の贈呈式が25日、都内で開かれ、江戸を舞台にした時代小説「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」で直木賞に選ばれた永井紗耶子さん(46)=島田市生まれ=に正賞の懐中時計などが贈られた。
 永井さんはスピーチでデビューからを振り返り、「弱音を吐いては途中で筆を投げ出しそうな私を支えてくれた」と編集者、書店関係者などへの感謝の言葉を繰り返した。受賞作に対する温かい選評を読んだり、多くの応援の声を聞いたりして「これが手応えというやつなのかな、と感じている」と明かし、「大きな賞をいただき、これからも書き続けていくことができるのはすごくうれしく思っている」と笑顔を見せた。
 今後に向けては「精進していく。楽しい作品を届けていきたい」と意気込みを語った。
 「極楽征夷大将軍」の垣根涼介さん(57)も直木賞を受賞した。芥川賞は「ハンチバック」の市川沙央さん(43)。
 (東京支社・関本豪)
〈2023.8.26 あなたの静岡新聞〉
直木賞「やっと受け取る覚悟できた」 永井紗耶子さん(島田生まれ)語る
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「小学生の時、帯まつりの上踊りをやりたかったが、身長が高くなりすぎて」と明かす永井紗耶子さん=東京都内

 江戸時代、芝居小屋の裏手で起きた復讐[ふくしゅう]劇の真相を描いた「木挽町[こびきちょう]のあだ討ち」で第169回直木賞を受賞した時代小説作家、永井紗耶子さん(島田市生まれ)。贈呈式も終え「やっと作家として受け取る覚悟ができた。これを機に新しいチャレンジをしたい」と意欲を語った。
過去と現在 通底する作品
 舞台は、芝居町として知られる江戸の木挽町。若侍、菊之助が父親のあだ討ちを果たした顛末について芝居小屋で働く5人が語る。木戸芸者、立師、女形ら、語り手が背負ってきた人生行路も明らかになっていく。「芝居小屋は、身分の上下なく楽しめる娯楽であり、いろいろな階層の人がなだれ込む交差点。時代性をくみ取るのに最も面白い場所」と見る。
 それぞれの登場人物が抱える過去は、現在の社会規範にも通底する。ヤングケアラーの子どもたち、サービス残業する会社員-。「彼らの行動は善意だけではなく、社会的圧力や美徳によるところが大きい。日本人の良さとも言われるが、それは本当に耐え忍ぶべきか」と疑問を投げかける。
 「江戸の人々も、重すぎる忠義や親孝行による自己犠牲はつらかったはず。美しい物語とは割り切れない」。あだ討ちに苦悩する菊之助と、しなやかに生きる芝居小屋の人たちが絶妙な距離感で活写される。
 永井さん自身、心身に不調を来した経験も踏まえ、「『私はつらいよ』と言える世の中になってほしい」と望む。「推し活」しかり、自分の居場所を見つけることも手だてという。
 「芝居や物語が、『こんな世界もあるのだ』と知る機会になればいい」。情報過多の現実から離れた架空の世界に、読み手のセーフティーエリアがある。「『この物語には共感できない』という答えでもいい。自分にボールをぶつけ、自問自答する時間こそ大切」と説く。
 永井さんが中高生の時に夢中になった歴史小説は、男性作家による雄々しい物語。「今でも絶大な人気を誇り、面白い。ただ登場する女性は脇役で、すっと出てきて主人公に振られても裏切られても、相手のことがずっと好き。でも、そんな人なんていない」
 2022年の第167回直木賞にノミネートされた「女人入眼[にょにんじゅげん]」は、源頼朝の娘大姫の入内を巡る北条政子らの駆け引きを描いた。江戸城大奥を舞台にした「大奥づとめ よろずおつとめ申し候」は、意志を持って生きる女性を示した。近年、日本の歴史学分野で女性研究者が増え、丁寧に女性の姿が研究されてきているという。「世間のイメージを覆す新解釈を盛り込んでいきたい」と語る。
 永井さんの母の出身地である島田市には、幼少からたびたび訪れてきた。島田大祭・帯まつりのおはやしが「木挽町-」やデビュー作「絡繰[からく]り心中」の題材となった歌舞伎に通じるなど、静岡県内が物語の舞台や素地となった。
 7月に連載を終えた新聞小説「きらん風月」は、日坂宿で晩年を過ごした江戸後期の戯作者、栗杖亭鬼卵[りつじょうていきらん]の物語。「諏訪原城(島田市)の歴史を調べる中で実は私の先祖と縁があると分かった。元老中の松平定信と会ったという逸話にも興味が湧いた」と明かす。
 静岡は東西文化の交差点であるとの思いを強くする。「戦国時代は名だたる武将が戦い、江戸になると旅人が東海道を行き交った。宿場町ではだんな衆が文人や画家を育てている。鬼卵もその一人と言える」
 今後は「骨太な歴史物、『木挽町-』のような技巧的な仕掛けの物など、題材はたくさんある。現代と過去がつながるような物語を書きたい」と抱負を語る。

 ながい・さやこ 1977年島田市生まれ、横浜市育ち。新聞記者、ライターを経て2010年に「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞してデビュー。「商う狼」で新田次郎文学賞。「木挽町のあだ討ち」は山本周五郎賞も受賞。
(教育文化部・岡本妙)
〈2023.9.4 あなたの静岡新聞〉
 

動 画

  • 芥川賞に難病の市川沙央さん 直木賞は垣根涼介さん、永井紗耶子さん

放送技術貢献 エミー賞受賞 寺西静岡大特任教授喜び 

 光を電気信号に変換する半導体デバイスのイメージセンサーに使われる「埋め込みフォトダイオード」技術の発明と開発の功績で、「第74回技術・工学エミー賞」(全米テレビ芸術科学アカデミー主催)を受賞した静岡大電子工学研究所の寺西信一特任教授(69)が24日、浜松市中区の同大浜松キャンパスで記者会見し、「技術者として最高の賞をいただいた。大変名誉なこと」と喜びを語った。寺西氏はNEC(日本電気)勤務当時の1980年に埋め込みフォトダイオード技術を発明し、87年ごろに商品化に至った。高性能化を進め、携帯電話用カメラに広く搭載されるなど日常生活に根付いた。その後は世界で生産されるイメージセンサーのほぼ全てで使用されるなど必須技術となった。

会見で喜びを語る寺西信一特任教授=24日午後、浜松市中区の静岡大浜松キャンパス
会見で喜びを語る寺西信一特任教授=24日午後、浜松市中区の静岡大浜松キャンパス
 エミー賞はカメラの小型、軽量化や解像度、画質向上などテレビ技術の革新的な開発に貢献したとして同社とともに受賞した。
 寺西氏は約45年にわたるイメージセンサー研究開発の経験や技術の特徴を説明した上で、「技術者の社会的地位を向上させたい。講演の機会などを活用し、子どもや若者に技術、科学にもっと関心を持ってもらえるよう伝えたい」と期待を込めた。
〈2023.4.25 あなたの静岡新聞〉
寺西・静岡大特任教授 NHK放送文化賞 イメージセンサー技術  静岡大は3日、同大電子工学研究所の寺西信一特任教授(69)がNHKの放送文化賞を受賞したと発表した。
 放送事業の発展や放送文化の向上に功績があった人を表彰する賞。寺西特任教授は光を電気信号に変換するイメージセンサーの技術「埋め込みフォトダイオード」を発明し、放送用カメラの小型・高性能化に寄与したことなどが評価された。埋め込みフォトダイオードは現在もスマートフォンのカメラなどで活用されている。
 寺西特任教授は放送業界に与えた業績を顕彰する「第74回技術・工学エミー賞」(全米テレビ芸術科学アカデミー主催)を2月に、英国のエリザベス女王工学賞を2017年に受賞している。
〈2023.3.4 あなたの静岡新聞〉

島田のプロ奏者大塚さん 津軽三味線で世界一 「名前刻めてうれしい」

 島田市のプロ津軽三味線奏者・大塚晴也[はれるや]さん(22)が5月3、4日に青森県弘前市で行われた「第41回津軽三味線世界大会」の個人A級部門で初の世界一に輝いた。優勝記念品を前に大塚さんは「尊敬する先輩方と並んで優勝旗に名前を刻むことができてうれしい」と喜んだ。

津軽三味線世界大会の個人A級部門で世界一に輝いた大塚さん=島田市
津軽三味線世界大会の個人A級部門で世界一に輝いた大塚さん=島田市
 祖母の影響で幼少の頃から三味線や琴に親しみ、小学2年で津軽三味線と出合った。愛知県豊橋市の師匠に弟子入りし、小学生の頃から数々の全国大会で優勝経験を持つ。
 大切にしているのは演奏を楽しむこと。世界大会の大舞台でも優勝をあまり意識せず、会場の雰囲気を楽しみながらリラックスして臨んだ。
 実力者がそろう個人A級には24人が参加した。大塚さんは制限時間4分間で津軽三味線の代表曲「津軽じょんがら節」を披露し、巧みなばちさばきで聴衆を魅了した。
 優勝発表で名前が呼ばれた時は「ホッとした」と振り返る一方、「ミスもあったので内容自体には満足していない」と飽くなき向上心を見せる。島田市の自宅に帰る車中では大会の演奏動画を何度も見返した。
 現在、全国各地で活躍する津軽三味線奏者のプロ集団「べべん」の一員として活動中だ。「目標は世界大会の連覇。津軽三味線の魅力を伝える活動にも取り組みたい」と意欲を示した。
(島田支局・池田悠太郎)
〈2023.5.11 あなたの静岡新聞〉
三味線世界V 知事に報告 島田の大塚さん
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津軽三味線世界大会の初優勝を報告した大塚さん(中央)、治美さん(右)=県庁内

 青森県で5月に開かれた第41回津軽三味線世界大会で初優勝した島田市の津軽三味線奏者大塚晴也さん(23)がこのほど、県庁に川勝平太知事を訪ね、喜びと今後の抱負を語った。
 世界一の栄誉を報告した大塚さんは「力強さ、繊細さを持ち合わせ、個性が出せるのが三味線の魅力」と語り、練習や演奏を楽しむことが結果につながったと喜んだ。近年は指導にも熱心に取り組んでいるとし「県内でも大会を開催し、三味線をもっと普及したい」と意欲を見せた。
 喜びの報告と併せ、大会で演奏した「津軽じょんがら節」を披露した。生演奏に聞き入った川勝知事は、「本場でなく静岡出身で優勝できるのは素晴らしい」と拍手を送った。
 同大会は外国人も含めて約200人が出場し、大塚さんは実力者がそろう最高レベルの個人A級部門でトップに輝いた。三味線教室の講師を務める祖母治美さん(73)の影響で幼い頃から三味線に親しみ、歴史がある同大会には中学2年から出場してきたという。
〈2023.7.18 あなたの静岡新聞〉
島田に響く、世界一の音色 聴衆を魅了 がい旋公演
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地元公演でリラックスした表情を見せる大塚さん=島田市地域交流センター歩歩路

 青森県で5月に開かれた津軽三味線の世界大会で優勝した島田市の津軽三味線奏者大塚晴也さん(23)が12日、同市の地域交流センター歩歩路で優勝記念公演を開いた。約180人が来場し、大塚さんが奏でる“世界一”の音色に浸った。
 大塚さんは実力者がそろう最高レベルの個人A級部門でトップに輝いた。この日は地元住民を前にリラックスした表情で臨み、大会で演奏した「津軽じょんがら節」や自身作曲のオリジナル曲などを披露した。巧みなばちさばきに観客から盛大な拍手が送られた。
 「たくさんの人の協力でこのようなすてきな場を用意していただいた。感謝の気持ちを胸に、今後もいろんなことに挑戦したい」と意気込んだ。大塚さんは現在、全国で活躍する津軽三味線奏者のプロ集団「べべん」の一員として活動しているほか、島田市で津軽三味線教室も開いている。
(島田支局・池田悠太郎)
〈2023.8.13 あなたの静岡新聞〉

袋井の創作絵本「おうさまのメロンはどこへいった?」 初の大臣賞 全国広報コンクール

 袋井市が手がけた創作絵本「おうさまのメロンはどこへいった?」が、2023年の全国広報コンクール(日本広報協会主催)広報企画部門で最高位の特選に選ばれ、総務大臣賞を受賞した。全国各地から集まった広報企画のアイデアなどを競う審査会で、同市では初の快挙。市は受賞を契機にさらなる情報発信へとつなげるとしている。

全国広報コンクールで総務大臣賞などを受賞した「おうさまのメロンはどこへいった?」
全国広報コンクールで総務大臣賞などを受賞した「おうさまのメロンはどこへいった?」
 同部門には68点の応募があり、静岡県内自治体では唯一の入賞だった。「おうさまの-」は地域資源を生かしたPR事業の一環で、2021年に生産開始100周年の節目を迎えた特産のクラウンメロンを題材とした絵本の募集企画から誕生した。市内外から寄せられた100点以上の作品の中から最優秀賞に輝き、現在は全国の公立図書館に配布したり、ふるさと納税の返礼品のクラウンメロンに同封したりするなど、メロンと同市の知名度の向上に貢献している。
 同協会によると、こうした取り組みを通じて多くのターゲットに長期にわたって目に触れることができる点、企画を丁寧に練り上げ、実施した点が高く評価された。加えて地域の活性化や課題解決のヒントにもなり得るとして、全10部門の中から3点のみ選ばれるBSよしもと賞にも選出された。
 市は今後も絵本を活用したプロモーション事業を行う方針。シティプロモーション室の原田敏明室長は「大人から子どもまで地域の魅力を知ってほしいという思いで企画した。受賞を励みにしてこれからもさまざまな取り組みを提案していきたい」と強調した。
(仲瀬駿介)
〈2023.5.4 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞