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インフルエンザ拡大 大切な人を守るために気を付ける点は?

 静岡県は11月30日、5シーズンぶりにインフルエンザ患者が1医療機関当たり30人を超す「警報レベル」に達したと発表しました。過去最も早い警報入りで、検査薬や薬の不足なども懸念されます。抗インフル薬の服用による異常行動に発展する可能性もあり、子どもを見守る環境にも注意しなければなりません。現在の感染状況を含めてまとめました。

静岡県内警報入り 過去最も早く 低年齢の家族感染目立つ

 静岡県は11月30日、定点医療機関から直近1週間に報告されたインフルエンザの患者数が1医療機関当たり30・96人となり、警報レベルの開始基準値(30人)を超えたと発表した。前週の1・4倍。「警報入り」は5シーズンぶりで、記録が残る2002年以降だと09年に並んで最も早い。

インフルエンザ患者数
インフルエンザ患者数
 地区別では東部が43・94人と警報レベル、中部は21・05人、西部は26・00人でいずれも注意報レベル。保健所別では御殿場が134・33人、東部38・80人、富士35・53人で警報レベルとなった。御殿場の多さは患者数が多い定点医療機関があるためで、感染者数が実数報告される学級閉鎖数では突出していない。1日当たりの患者数は推計4400人。年代別では6~14歳の割合が高く、増加が顕著だった。
 例年は注意報から警報までは数週だが、今シーズンは1カ月半と長め。県感染症管理センターの後藤幹生センター長は「このままゆっくり拡大し、ピーク後もゼロにならず、通年性のインフルエンザとして患者が多い年になる可能性がある」とした。型別検出状況は6月までA型H3が大半だったが、10月以降はA型H1型が3割、11月からはB型もみられ始めた。県は「型の置き換わりが進む可能性がある」として四つのタイプの免疫が付くワクチンの利用検討を呼びかけている。
 閉鎖した学級数、閉鎖にかかる患者数はともに過去最多を更新している。
 定点当たり患者数が最多だったのは2019年の69・42人。「警報入り」は10人を下回るまで継続する。
〈2023.12.1 あなたの静岡新聞〉

対応に追われる医療機関 処方や検査の薬不足への懸念も

 静岡県が11月30日、速報値として発表した直近1週間のデータによると、インフルエンザ患者数は推定1日4400人と、前週の3100人から一気に増加した。発熱した人を受け入れる地域の診療所では同期間、検査や診断、処方など、急増する患者への対応に追われた。検査薬や薬の不足への懸念も聞こえてくる。

インフルエンザの児童を診る佐野正院長。この後、服薬に関する説明などを行った=静岡市駿河区のキッズクリニックさの
インフルエンザの児童を診る佐野正院長。この後、服薬に関する説明などを行った=静岡市駿河区のキッズクリニックさの
 11月下旬に当番医を務めた静岡市清水区の吉永医院は、平時に駐車場で行う検査では時間がかかるとして、この日限りで診療所内に専用スペースを開設して対応した。インフル陽性者は50人おり、家族の複数で感染した事例が目立ったという。新型コロナウイルスの患者も10人と一定数いて、先に感染した家族の情報などをもとに検査の種別を判断した。県の発表では直近1週間のコロナ患者は1日250人で、最少だった前週を上回った。吉永治彦院長は「今後コロナとの同時流行が始まった場合、検査態勢が追いつかなくならないかが心配」と話す。
 今季は低年齢の患者の割合が高いのが特徴。最新のデータだと6歳以下が3割近くみられる中で、小児科では、抗インフルエンザ薬のドライシロップが今後不足するのでは、との懸念が広がっている。厚生労働省は11月、シロップの代わりに大人向けのカプセルを外して乳糖と混ぜ、処方する調剤法の周知を、各都道府県などに依頼した。同市駿河区の「キッズクリニックさの」でも、入手困難の事態に備え、薬局に具体的な調剤方法を伝えたという。佐野正院長は「不足を想定したくはないが、徐々に現実味を帯びてきている」と見据える。
 異例の早さで警報レベルまで患者が増えたことで「ワクチンを予約して、打つ前にかかったが、取り消した方が良いか」との相談も相次いで寄せられている。「1シーズンで複数の型が流行するため、4価ワクチンを打つ意味はある、と説明している」という。
〈2023.12.1 あなたの静岡新聞〉

子どもの異常行動に注意 「飛び降りようと」「外に走り出す」 施錠や見守りで対策を

 インフルエンザにかかった子どもの異常行動に気をつけて―。静岡県内では今シーズン、1日当たり約3300人の患者が推定され、その8割を10代以下が占める。重大事案は全国で年間50~80件程度あり、長年この重大事案を分析してきた国の調査データからは、抗インフル薬の服用にかかわらず飛び降りなどの事故が起きる可能性がうかがえる。識者は「子どもの誰にでも起きる可能性を想定しておくべき」とし、見守りや就寝環境のチェックを呼びかけている。

異常行動による事故を防ぐための対策例
異常行動による事故を防ぐための対策例
 国の調査グループが分析した2006年以降の15年間のデータによると、異常行動は「突然立ち上がって部屋から出ようとする」「興奮して窓を開け、ベランダから飛び降りようとする」「人に襲われる感覚が生じ、外に走り出す」など。平均年齢は8~10歳だが、中学生の年代の割合も一定数みられた。性別はいずれの年も男子が過半数を占め、多い年は8割を占めるなど、女子よりも男子が多かった。
 発熱から2日目以内に起きるケースが7~9割で、眠りから目覚めて急に、という事例が多い。異常行動に至った子の最高体温の平均は39度ほどで、インフルエンザ患者の体温として特別に高いわけではなかった。
 抗インフルエンザ薬の服用については特定の種類や組み合わせが突出しておらず、「全て服用なし」は年によって異なるが、6~25%だった。分析グループの代表を務めた小児科医の岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所長)は「本人は行動時の記憶がなく、家族が抱きかかえるとはっと、われに返る。発生の瞬間を見逃さないよう気をつけてほしい。中学生の男子など、力が強い子だと制止を振り切られる可能性がある。悲しい事故を防ぐためには施錠などの対策も欠かせない」と指摘する。
 年齢的に個室で寝ている子が想定されることや、新型コロナウイルス禍以降に浸透した、家族にうつらないよう隔離する感染対策も、岡部医師は「見方を変えると、発見が遅れるリスクになりうることを踏まえておいてほしい」とも。各住宅でできる対策は「窓に格子がある、ベランダに面していない部屋、一戸建てなら1階など、子どもを寝かせる場所を選ぶ」「各部屋の窓や玄関を施錠する」などで、子どもが不慣れで簡単に開けにくい補助鍵の活用も有効だという。
〈2023.11.12 あなたの静岡新聞〉

「風邪に抗生物質」親の6割誤解 耐性菌出現に専門家警告

 抗菌薬(抗生物質)が風邪に効くという間違った考えを持っている親が約6割に上ることが、国立国際医療研究センター病院の調査で分かった。専門家は、抗菌薬の誤った使い方で薬剤耐性菌の出現につながると注意喚起している。

抗菌薬(抗生物質)の効果
抗菌薬(抗生物質)の効果
 同病院の薬剤耐性(AMR)臨床リファレンスセンターが小学生未満の子どもを持つ20~59歳の親500人を対象に行ったインターネット調査によると、子どもが風邪をひいたら抗菌薬を飲ませたいと思うかという問いに、44%の親が飲ませたいと答えた。
 同センターによると、風邪やインフルエンザの原因はウイルスで、細菌をやっつける抗菌薬を飲んでも効かない。のどの痛みや鼻水にも効果がないという。
 抗菌薬の効果について聞いたところ「ウイルスをやっつける」という問いに対し67%が「当てはまる」と答えた。ほかに「風邪に効く」は56%、「風邪が早く治る」は50%、「熱を下げる」は45%がそれぞれ当てはまると答えた。いずれも当てはまらないが正解。
 41%の親が「家に抗菌薬を取っておいたことがある」と答え、64%が「取っておいた抗菌薬を子どもに使ったことがある」と回答した。
 同センターの藤友結実子情報・教育支援室長は「抗菌薬は風邪に効果はなく、下痢や発疹などの副作用が起きることがある。不要な抗菌薬を飲むことで薬剤耐性菌の出現につながる可能性があり、本当に抗菌薬が必要な病気のときに、使える抗菌薬がないという事態が起こりえる」と指摘している。
〈2023.10.3 あなたの静岡新聞〉
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