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伊豆の国の山車横転事故 現場で何が

 伊豆の国市田京の市道で3日午前、山車が横転し1人が死亡、18人が重軽傷を負った事故。詳しい状況や事故の経緯が明らかになってきました。コロナ禍で祭りが3年連続で中止され、運行方法などの継承に影響したのではないかとの指摘も上がっています。事故当時、現場で何があったのか。5日現在分かっている情報をまとめました。

1人死亡18人重軽傷 方向転換でバランス崩したか

山車が横転した現場=3日午前11時45分すぎ、伊豆の国市田京(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
山車が横転した現場=3日午前11時45分すぎ、伊豆の国市田京(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 3日午前8時40分ごろ、伊豆の国市田京の市道で「高さ3メートルの山車が転倒し、人が落ちた。けが人がいる」と119番があった。伊豆中央署や駿東伊豆消防本部によると、山車が横転し、運行に携わっていた現場近くに住む販売業の男性(72)が胸や腹を圧迫されて、死亡した。ほかにも山車の上から転落したり巻き込まれたりして、6歳から75歳までの男性18人が重軽傷を負った。
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事故現場

  新型コロナウイルスの影響で山車を出しての祭りの開催は4年ぶりだった。現場は緩やかな下り坂。山車が坂の上で方向転換する際に何らかの原因でバランスを崩したとみられ、同署は業務上過失致死傷容疑も視野に、詳しい状況や経緯を調べている。
 同署や事故を目撃した付近の住民などによると、30~40人が山車に付いている2本の縄を引いて巡行し、山車の上には約10人が乗っていた。路上には車輪の跡とみられる曲がりくねった白い線が残り、山車が路上を蛇行した後に横転した可能性がある。重傷者はいずれも伊豆の国市の30~50代の男性5人で、肋骨(ろっこつ)や左腕などを骨折した。ほかの13人は頭や顔、腕、腰に打撲などを負った。
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 死亡した男性とともに山車を引いていた男性によると、坂の上で左に曲がるため方向転換する際に異変が起きた。山車はバランスを崩し、坂を下り始めて横転したという。現場は注意が必要な箇所として知られ、例年は前方から木製の「てこ棒」を入れ、山車を引く縄を山車の下を通して後方から引っ張りブレーキをかけながら下っていたという。
 関係者によると、この日は現場近くの広瀬神社で秋祭りが行われていて、山車は付近の公民館を午前8時ごろ出発。田京区の山車2台のうち、1台が横転した。山車の巡行は田京5地区の当番制で5年に1度回ってくるという。
<2023.11.4 あなたの静岡新聞>

勢いよく下り坂突入か 直後に揺れ、制御不能に

山車が横転した現場。車輪跡と思われる白い線は大きく曲がりくねっている=4日午前10時ごろ、伊豆の国市田京
山車が横転した現場。車輪跡と思われる白い線は大きく曲がりくねっている=4日午前10時ごろ、伊豆の国市田京
 伊豆の国市田京の市道で山車が横転し、1人が死亡、18人が重軽傷を負った事故で、山車が勢いよく下り坂に突入した可能性があることが4日、関係者や目撃者への取材で分かった。亡くなった販売業の男性(72)=同所=は山車の右前方で縄を引いていたといい、坂道で制御できなくなった山車に巻き込まれたとみられる。伊豆中央署は業務上過失致死傷容疑も視野に入れ、現場の状況を精査し、関係者に話を聞くなどして捜査を進める。
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横転した山車や人の動き

 事故当時現場にいた目撃者の50代男性によると、山車は橋を渡った後、坂を登る方向に当たる右に向かおうとした際、「今年はそっち行かねえよ」との声がどこからか飛んだ。声と同時に引き手が駆け出し、山車は左旋回して向きを変えて、勢いをつけたまま下り坂に突入した。そのすぐ後に「ドカン」と山車が揺れて「危ない」との声が響き、ほとんどの引き手が縄を離し左側の路肩へ逃げた。山車は勢いをつけたまま上下に跳ねながら蛇行し、右側の斜面に衝突。跳ね上がるように左側面を下にして横転したという。
 祭典の運営に関わったことのある60代男性などによると、かつては坂の上にある住宅街も巡回していたが、10年ほど前から行かなくなり、現在のコースになったという。
 現場には、山車が下り坂にさしかかったとみられる箇所の右端にアスファルトの段差がある。目撃者の男性によると、その周辺で「ドカン」と山車が揺れたという。山車の左側の縄を引いていたという60代男性は「段差のようなものでバランスを崩して落下し始めた」と話した。
 現場に残る車輪の跡は、坂を下り始めた後に左から右に向かって曲がり、山車が衝突した痕跡が残る斜面に向かって続いている。捜査関係者は、山車が斜面に衝突した拍子に横転したとみている。
<2023.11.5 あなたの静岡新聞>

「久しぶりの開催 影響か」識者の見解は

■防災システム研究所の山村武彦所長の話

 山車を運行している側がリスクについての対応策をどこまで考えていたかが重要。(新型コロナ禍で)4年という歳月がたち、久しぶりの開催だったことも影響しているのではないか。ベテランも参加したり、予行練習をしたりといった配慮もしていたと思うが、操縦や危機管理をする担当者間の連携ができていなかった可能性がある。大きな山車は重心が高いため、状況に応じてスピード調整ができるような訓練が必要だ。今年はコロナ禍が落ち着き、各地で祭礼が本格的に再開されている。久しぶりの再開で参加者が気持ちのコントロールをできていないケースもある。各地に通ずる問題として、祭りの安全対策を練り直すことが急務だ。
<2023.11.4 あなたの静岡新聞>

現場に花、手を合わせる地元住民も

事故現場を訪れ手を合わせる地元住民=4日午後4時半ごろ、伊豆の国市
事故現場を訪れ手を合わせる地元住民=4日午後4時半ごろ、伊豆の国市
 悲惨な事故から一夜明けた4日、現場の道路脇には花が手向けられ、手を合わせる地元住民の姿があった。
 報道を見て手を合わせに来たという地元の70代男性は「若い時に何回も見に来た。久しぶりにやって、まさかこんなことが起きるなんて。思い出のある祭りだから、こんな形になって残念」と下を向いた。
 道脇に手向けられた花にみかんを添え、手を合わせた近くに住む70代女性は「亡くなった方やけがをした人が本当に気の毒。何でこんなことになってしまったのか」と悔やんだ。
 現場の路上には山車の車輪の跡と思われる曲がりくねった白い線や血痕のようなもの、捜査関係者によって引かれたとみられる印などが残り、事故の悲惨さを物語っていた。
<2023.11.5 あなたの静岡新聞>
地域再生大賞