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川勝知事の給与返上問題 不信任案提出に発展 緊迫の県議会

 川勝平太知事のいわゆる「コシヒカリ発言」を巡る給与返上問題は静岡県議会6月定例会最終日に、最大会派の自民改革会議が知事の不信任決議案を提出する事態に発展しました。採決に至る緊迫した舞台裏を追うとともに、発端となった知事の給与返上問題と2021年11月のコシヒカリ発言を振り返ります。

不信任案は否決 可決ライン「51」に1票届かず

 川勝平太知事は12日の静岡県議会6月定例会最終本会議で、いわゆる「コシヒカリ発言」を巡って2021年11月に給与返上を表明したままになっていることについて陳謝し、9月定例会に給与返上の関連条例案を提出する意向を表明した。これに対し、最大会派自民改革会議は「県政に混乱を招き、静岡県のイメージを悪化させた」などとして、法的拘束力のある知事不信任決議案を急きょ提出した。出席議員68人による採決が13日未明に行われ、賛成50票、反対18票で、可決ラインの51票に届かず、否決された。

川勝平太知事の不信任決議案の記名投票=13日午前0時45分、県議会
川勝平太知事の不信任決議案の記名投票=13日午前0時45分、県議会
 自民が可決に持ち込むには、知事に近い議員の切り崩しが必至だったが、わずかに届かなかった。
 川勝知事は12日の最終本会議での報告で、「県議会、県民に十分に考えを伝えず、不信を抱かせてしまった」と頭を下げた。その上で「当時、条例案の議会への提案に向けて努力や調整をしたが、議員からの『辞職勧告決議は給与返上を求めるためのものではない』との意見を踏まえ、提案を見送った」と給与返上の表明後の経緯を説明。「条例案を提案したいとの思いはその後も全く変わっていない」と釈明した。
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 今月5日の県議会総務委員会で委員から「言行不一致」などの指摘があったことを受け、「県議会で給与返上の条例案を審議してもらえる環境に変わった」と、条例案提出の再表明の理由を述べた。
 自民の増田享大代表は知事不信任決議案の提出理由として、知事報告を「保身のための虚偽説明」と断じ、「不適切発言に対する自らのペナルティーでさらに虚偽発言をしたことは、県民の生命と財産を預かる職責にある者として、発言の信頼性を根本的に損なう」と説明した。
 不信任決議案の可決には、議長を含めた議員数の3分の2以上が出席し、出席者の4分の3以上の賛成が必要。定数68人全員が出席した場合、51票が可決ラインだった。
 県議会の会派構成は自民40人、知事に近いふじのくに県民クラブ18人、公明党県議団5人、無所属は5人。
 〈2023.07.13 あなたの静岡新聞〉

未明の採決 緊迫の舞台裏 自民の批判やまず、ふじは擁護姿勢

 川勝平太知事のいわゆる「コシヒカリ発言」を巡る給与返上問題は12日、県議会最大会派の自民改革会議による知事不信任決議案の提出に発展した。慎重論も根強かったが、「言行不一致」「県民との約束をほごにした」などと会派内の批判はやまず、6月定例会の最終本会議は一気に緊迫した。知事に近い第2会派のふじのくに県民クラブは擁護する姿勢を見せつつ、質疑で「経過説明がなかった」と苦言を呈し、議会の責任にも言及した。

川勝平太知事の不信任決議案提出に向け、議員総会に臨む自民改革会議の議員=12日午後9時42分、県庁
川勝平太知事の不信任決議案提出に向け、議員総会に臨む自民改革会議の議員=12日午後9時42分、県庁
 自民は川勝知事の給与返上に関する報告後、役員会や議員総会を断続的に開催し、対応を協議した。強硬派のベテラン議員は「返上を約束しながら県民にうそをついた。不信任(決議案)を出すべきだ」と発言。他の議員からも「周り(の支援者)からは知事を辞めさせないのかという声が多い」「百条委員会を開くべきだ」と厳しい声が上がった。
 自民は長年にわたり川勝知事と衝突を繰り返してきた。2021年にはコシヒカリ発言を巡って不信任決議案提出を探ったものの、可決ラインの「51」議席に届かないとして、法的拘束力を持たない知事辞職勧告決議案を可決した経緯がある。
 川勝知事の釈明と給与返上表明を受けて質問した伊丹雅治氏(三島市)は「周囲との調整不足から県政に大きな混乱を招き、信頼感の低下、イメージの悪化につながっていることを自覚すべきだ」と糾弾した。
 かつて辞職勧告決議案に賛成した公明党県議団。牧野正史氏(静岡市駿河区)は昨年1年間で給与返上のための条例案を提出する機会はあったと指摘し、「今回の行動が県民の怒りと失望を買っている。危機管理能力が欠けているのではないか」とただした。
 ふじのくに県民クラブは伴卓氏(富士市)が質問に立った。川勝知事が次回9月定例会に給与返上の条例案提出を申し出たことを「遅まきながら会派としても理解する」としながら、「県議会もこの1年半、質問をして進捗(しんちょく)を確認し、意見を申し上げなかったことを反省している」と自戒を込めて語った。知事の言動によって議場が紛糾する場面があったことにも触れ、「どうか言葉には十二分に気をつけ、職責を果たしていただきたい」とたしなめた。

 議会空転、未明に採決
 川勝平太知事の給与返上問題への対応を巡って12日の県議会6月定例会最終本会議は、会議時間を大幅に延長するなど異例の展開となった。最大会派自民改革会議の協議は難航し、知事不信任決議案の提出を決めたのは同日午後6時過ぎ。前後して、本会議再開と、調整のための休憩を繰り返し、議会は空転した。県政史上初となる知事不信任決議案の採決は未明に持ち込まれた。
 川勝知事が同日午前、給与返上に対する考えを報告した後、議会運営委員会は知事報告への質疑を3会派の3人が行うことを決定。県当局は当初、最終本会議の再開は午後2時前後と見込んだが、実際には同5時前。規則で定めた会議時間(午前10時半~午後5時)の終了間際で、直後の議運委で13日午前0時までの延長を決めた。
 知事報告を受けて自民は12日昼過ぎから役員会、議員総会を立て続けに開き、対応方針の協議を重ねた。重鎮らは対決姿勢を示す必要があるとして不信任決議案提出の構えを見せたが、会派内でも賛否があり、意見の差が大きかったとみられる。執行部は当選1期の若手県議も含めて意見聴取するなど協議に時間をかけ、同日午後6時ごろに開いたこの日4回目の議員総会でようやく不信任決議案の提出を決めた。3会派の質疑が始まったのは午後7時前だった。
 県議会事務局によると、会議時間の延長は新型コロナウイルス感染症の緊急対応が必要となった2020年4月、5月の両臨時会以来。過去には08年に静岡空港問題を巡る議論で午後10時46分に閉会した記録が残る。

静岡県議会6月定例会最終本会議ドキュメント
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給料返上しないまま 22年の所得等報告書で再注目

 いわゆる「コシヒカリ発言」で、2021年11月の静岡県議会臨時会で知事辞職勧告決議を受けた川勝平太知事が自らのペナルティーとして当時の給料と期末手当(ボーナス)の返上を表明していたが、返上しないままでいることが4日までに、分かった。

川勝平太知事
川勝平太知事
 3日までに公開された22年の所得等報告書で、21年に続き、22年も給料やボーナスが減額されていなかった。
 知事は当時、辞職を否定した上で、21年12月分の給料と期末手当の計446万円を返上する意向を示した。返上には新たな条例の制定が必要で、同年の県議会12月定例会での条例案提出を巡って県当局と県議会側が調整した。最大会派自民改革会議が「返上をもって責任を果たしたことにならない」などとして条例制定に反対する構えを見せ、知事は条例案提出を見送った。
 その後も「知事として職責を果たす」などと県議会や記者会見で説明し、条例案提出に向けた動きはしなかった。
 「コシヒカリ発言」は、21年10月の参院静岡選挙区補欠選挙で、川勝知事が野党系候補者の応援演説で御殿場市を「コシヒカリしかない」などとやゆし、「明確な差別発言」と非難が集中した。
 〈2023.07.05 あなたの静岡新聞〉

問題の発端「コシヒカリ発言」を振り返る

 川勝平太知事が2021年10月23日に浜松市で行った参院静岡選挙区補欠選挙での山崎真之輔氏に対する応援演説の全文は次の通り。

参院補選の応援演説での発言について釈明する川勝平太知事=2021年11月9日、静岡県庁
参院補選の応援演説での発言について釈明する川勝平太知事=2021年11月9日、静岡県庁

 「浜松やらまいか大使」の川勝平太でございます。今回の補選は、静岡県の東の玄関口、人口は8万強しかないところ、その(御殿場)市長をやっていた人物か。この80万都市、遠州の中心浜松が生んだ、市議会議員をやり、県議会議員をやり、私の弟分。県民の県民による県民のための県民党党首川勝と自称したところ、この青年(山崎氏)は実質幹事長をしてくれた。こういう青年。どちらを選びますか?
 こちらは食材の数も430のうち3分の2以上がある。あちらはコシヒカリしかない。ただ飯だけ食って、それで農業だと思っている。こちらにはウナギがある。シラスもある。三ケ日みかんもある。肉もある。野菜もある。タマネギもある。なんでもある。もちろんギョーザもある。そういうところでですね、育んできたこの青年を選ぶのか。はっきりしてます。
 なんといっても政治家は実行力が重要ですが、彼(山崎氏)は現場を検証し、そして実行し、スピードがある。今もっとも必要なスピードは何かというとワクチン接種であります。64歳以下のワクチン接種率。彼(若林氏)が市長をしているときには30%以下しかなかった。ところがこちらは彼の恩師、康友君(鈴木康友浜松市長)はその2倍やってた。これがですね、ちゃんとこの青年の中に入っておる。だから実行力もある。その後、(御殿場市が)勝又という市長になってから私が厳しく言ったのでちゃんと上がってきた。実行力も彼です。
 ですからですね、これはよろしいですかみなさま。浜松、遠州、その中心。ここ。経済はここが引っ張ってきた。あちらは観光しかありません。それしか知らない人間。そんな人間がですね、静岡県全体の参院議員になってどうするんですか。ダメです。
 ですから浜松の代表、地域の意地を見せる、遠州の代表、そして静岡の代表、いま彼は、静岡県民クラブ(ふじのくに県民クラブ)の無所属ですが、県民クラブには元自民党の人も、民主党とか立憲民主とか国民民主とか、いろんな人が入ってる。来るものは拒まない。この青年が国会に行けば、ふじのくにづくり国民会議の代表になる。そういう意味でですね、このしんちゃんをしっかりとみなさんの代表として参議院に送ってください。よろしくお願いいたします。
地域再生大賞