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災害級の大雨に備え マイ・タイムラインやハザードマップで見直そう

 活発な梅雨前線と台風2号による記録的な大雨で静岡県内各地は被害に見舞われました。最も災害の危険度が高い避難情報「緊急安全確保」が発令されたほか、ハザードマップで土砂災害警戒区域に指定されていた地域で被害がありました。改めて日頃の備えと、住まいの地域の危険性について把握する必要があります。ハザードマップや事前行動計画表「マイ・タイムライン」を活用した防災についてまとめました。

よく聞く「緊急安全確保」「ハザードマップ」 基礎をおさらい

 ■緊急安全確保

 災害時に自治体が発令する避難情報のうち、最も災害の危険度が高い「警戒レベル5」に相当する。災害が発生または切迫し、住民は命の危険が迫っているため、直ちに身の安全を確保しなければならない。2021年に運用が始まり、静岡県内で過去に発令されたのは熱海市伊豆山で発生した大規模土石流、2022年9月の台風15号の2例。6月2日の大雨では沼津、磐田、袋井の3市に発令された。自治体の避難情報には、レベル3相当の「高齢者等避難」、レベル4に当たる「避難指示」がある。レベル4までに避難を済ませる。
 〈2022.09.03 あなたの静岡新聞〉

 ■ハザードマップ
 「ハザードマップ」は、災害ごとの危険性を示した地図を指す。地震、津波、洪水浸水、土砂崩れなど、さまざまな種類がある。ハザードマップに、避難所や医療機関などの情報を加えた地図を「防災マップ」という。
 防災マップのことをハザードマップと呼ぶ市町もある。各市町が全戸配布済みだが、毎年配布するわけではないので、手元にない時は市町に問い合わせる。インターネットでも見られる。「静岡県GIS」は全種類のマップを網羅している。ただ、1級河川など大きな川の洪水浸水域は載っていないため、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」も確認する。(伊豆田有希)
 〈2020.10.02 静岡新聞夕刊「自宅の被災リスク知ってますか?『その時』に備え 防災 5つの基本 家族で共有」から〉

マイ・タイムラインって? 個人や家庭ごとにまとめる事前行動計画

 大雨で発生する河川氾濫による洪水などから身を守る効果的な避難方法について、時系列で個人や家庭ごとにまとめた事前行動計画表「マイ・タイムライン」。県はモデル地区での成果などを踏まえて本年度(※2020年度)、各地への普及に向けた取り組みを加速する。市町職員らを対象にした住民向けワークショップの手引書も新たに用意し、マイ・タイムラインの作成を進めて水害時の「逃げ遅れゼロ」を図りたい考えだ。

 静岡県は昨年度、モデル地区になった藤枝市の瀬戸川流域をはじめ、袋井市の太田川近郊で近隣住民らを交えた活動を開催。地理的な環境が比較的似ている近隣住民が集い、意見交換しながら自分に合った避難のタイミングや方法を検討するマイ・タイムラインワークショップの有効性を確認した。
 ワークショップの手引書では、住民が①防災知識を有する講師役から地域の水害リスクを学ぶ②洪水時に得られる情報の入手手段や避難判断の方法を知る③実際にマイ・タイムラインを作成する―の3段階で理解を深める構成を掲げている。県は今後、活動主体となる市町の防災担当職員や地域の防災リーダーらに向けて手引書を使った講習も予定する。
 県危機対策課の酒井浩行課長は、ワークショップ形式の普及活動について「手間は掛かるが、地域ごとに異なるリスクを知って各自の避難行動の目安を考える有効な手段」と説明。市町職員らを対象にマイ・タイムライン研修会を開いた県河川企画課の望月嘉徳課長は「地域でのコミュニケーションをきっかけに水害を『わがこと』として捉えられる」と利点を強調する。
 普及に向けた取り組みを既に始めた自治体もある。静岡市は昨年12月、オリジナルのマイ・タイムライン資料を公表。市内3カ所の河川流域地区で開いた住民説明会では、想定される最大雨量(千年に1度レベル)に合わせて改定した洪水・土砂災害ハザードマップやマイ・タイムラインの活用法を解説した。
 同市危機管理課の杉村晃一係長は、比較的簡単に作成できるシンプルな行動計画表を目指したとした上で「避難時の注意点や防災情報の意味など、マイ・タイムラインの作成によってハザードマップの裏面に示す内容も知ってほしい」と期待を込めた。
 〈2020.4.12 静岡新聞朝刊・夕刊〉

2022年9月の豪雨 浜松の事例から学ぶ

 2日(※2022年9月)、浜松市や磐田市周辺を突然の豪雨が襲った。浜松市浜北区、東区などで道路が冠水して8路線が一時通行止めとなり、住宅など96軒が浸水被害を受けた。市は市内を流れる2級河川の馬込川流域約17万世帯41万人に対し、5段階の大雨・洪水警戒レベルで最高の「緊急安全確保」を初めて発令した。発令の判断や手続きは適切だったのか。当日の状況を時系列で追った。

局地的な短時間の大雨の影響で冠水した道路=2日午後、東区有玉南町の交差点
局地的な短時間の大雨の影響で冠水した道路=2日午後、東区有玉南町の交差点

警戒レベル最高 最善の行動とは
 市危機管理課は災害の発生が迫ると、市民への情報発信を第一に考え、体制を整える。今回も前夜に市内に大雨注意報が発表されたことを受けて「情報収集体制」に入り、職員2人が雨雲や河川の水位の確認を進めた。
  2日午前11時48分。注意報が大雨警報に変わった。ここで「準備室体制」に切り替え、人員を8人ほどに増やした。通常は水位観測所で観測された水位の情報を基に避難指示を出すが、今回の決め手となったのは、浜北区の矢矧[やはぎ]橋河川監視カメラだった。明らかに、急激に水位が上昇する馬込川の様子が視認されたという。
  「上流域で強い雨が降った以上、至る所で洪水被害の可能性がある」。午後0時55分、職員全員で対応に当たる「連絡室体制」を取るとともに、洪水推定区域の広範囲に警戒レベル4の「避難指示」を出した。市の人口の半数以上を対象にした避難指示だった。
  この点について危機管理課の小林正人課長は「高層階に住む人など水害への安全が確保できている場合、ハザードマップなどを参考に、避難の必要性は各自で判断してほしい」と個人の判断力の大切さを強調する。
  避難指示のわずか20分後、矢矧橋で堤防と同じ高さまで水位が上がったことを確認し、市は最高レベルの「緊急安全確保」を発令した。「初めてという意識より、被害を防ぐために必要な判断で、迷いはなかった」と小林課長は振り返る。「既に災害が発生し、予断を許さない状況という意味合い」と危険度の高さを説明する。その一方で、市民の水害に対する防災情報の浸透や対応についての知識には、課題を感じているという。
  河川の氾濫には、本流の堤防が決壊するなどして起こる「外水氾濫」と、本流の水位が上昇したために、道路の側溝や小さな水路の水が本流に注ぎ込めずにあふれ出る「内水氾濫」がある。県浜松土木事務所によると、2日の浸水被害は内水氾濫によって引き起こされた可能性が高い。このため、比較的小規模な冠水で済んだが、水が勢いよく流れている箇所や足元の視界不良などで転倒し、負傷する危険性もある。
  幸いにもけが人の報告はなかったが、市の「緊急安全確保」発令後に、矢矧橋付近などに川の水位を確認しに訪れた人や、道路の冠水部分の水位が上昇している段階で道を歩く人が見られたという。小林課長は「最善の行動を取ってもらえるよう、啓発や情報発信に力を入れる」と話す。

避難や持ち出し品 事前に決めておく
 浜松市内を流れる馬込川と安間川は七夕豪雨を含む過去50年間、堤防が決壊する外水氾濫は起きていない。だが、県浜松土木事務所の長谷川欣之次長は「9月2日の時間118ミリの雨量には耐えられても、もう数十ミリ多かったら何が起こったか全く予想できない」と警鐘を鳴らす。
  突然の豪雨などに伴う水害に備えるため、浜松市は市民が災害時に自身や家族の行動をあらかじめ時系列で決めておく「マイ・タイムライン」の作成を推奨している。
  情報の入手手段や想定される被害、避難のタイミングと場所、非常持ち出し品などの項目を家族で話し合い、用紙1枚にまとめることで早期の避難や被害軽減につなげる取り組みだ。マイ・タイムラインのひな型は、市のホームページなどからダウンロードできる。
  日頃から、自宅や学校、勤務先周辺のハザードマップを確認し、洪水浸水想定区域や危険箇所を認識しておくことが重要だ。豪雨や台風接近が予想される場合は、雨量や水位データ、河川監視カメラの映像を見ることができる県の「サイポスレーダー」なども参考になる。(浜松総局・北井寛人)
〈2022.09.25 静岡新聞朝刊〉
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