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サッカー王国”静岡” 再建への道筋は?

 かつてサッカー王国として、日本サッカー界をけん引してきた静岡県。1988年のワールドカップフランス大会では、静岡県出身選手が10人選出されましたが、昨年は1人だけでした。関係者は危機感を募らせ、王国再建へ長期的な取り組みの重要性を訴えています。静岡新聞社運動部・寺田拓馬記者の記事を元に王国”再建”に向けた動きをまとめます。

合同トレセン、新リーグ創設… 小学生年代強化の動き

 サッカー王国の復権を目指し、静岡県内で小学生年代の強化に力を入れる動きが広がっている。支部をまたいだ合同トレセンや静岡県内トップチームを集めたSリーグなどを創設する一方、「指導者の育成と周囲の声掛けが重要」と大人の意識改革も進める。関係者は「かつてのようにワールドカップ(W杯)へ静岡県勢を多数送り出すには入り口の小学生から」と未来志向で取り組む。

J2清水アカデミーコーチの指導でプレーする静岡市セントラルトレセンの選手=同市清水区の鈴与三保育成グラウンド
J2清水アカデミーコーチの指導でプレーする静岡市セントラルトレセンの選手=同市清水区の鈴与三保育成グラウンド
 静岡市サッカー協会(県協会中部支部)と清水サッカー協会(県協会中東部支部)は4月から、市内全域から有望な小学生を集めた「セントラルトレセン」を開始した。支部をまたぐトレセンは県内初。5、6年生計36人が参加し、月1回練習会を行い、国内大会参加や海外遠征も計画している。
 練習会場と指導者の確保にはJリーグ2部(J2)清水エスパルスが全面協力。無償で鈴与三保育成グラウンドを提供し、中学生年代を担当するアカデミーのコーチ計5人が指導に当たっている。エスパルスの伊達倫央育成部長(56)は「市民球団として地域の子どもを広く教えたい。この中からいずれユース、トップチームに入る選手が出てくれれば」と期待する。
 同市内の指導者は練習会の見学が可能。同市サッカー協会の鳥羽俊秀理事長(62)は「プロの指導方法を学んで自分のチームに持ち帰ってほしい」と波及効果を期待する。
 選手個人とともにチームを強くしようと、県内全域から小学生年代のトップチームが参加する「Sリーグ」も本年度から本格始動した。S1、S2と2部に分かれ、各リーグ12チームが総当たりで2回通り試合する。1年ごと両リーグの上位と下位3チームを入れ替え、競争を促す方式。
 試合運営で大切な役割を担うのが相互尊重とフェアプレーの精神を浸透させる「マッチ・ウェルフェアオフィサー」。各試合に1人配置し、ベンチの指導者や応援席の保護者らの声掛けが適切か注意を払う。静岡市清水区の強豪クラブ高部JFC代表で同リーグを取り仕切る設楽幸志委員長(47)は「勝つためじゃなく選手を褒めて伸ばすのが大切。県内の小学生が目標とするリーグに育てると同時に、サッカーの楽しさを普及し裾野を広げたい」と意欲を燃やす。
 〈2023.5.16 あなたの静岡新聞〉

練習前まずは勉強 清水東高サッカー部JY、名門復活の力に

 サッカーの名門復活は学習から-。清水東高サッカー部が今季創設したジュニアユースチームが、練習の前に学習塾の教材を使って自習に取り組む独自プログラムを展開している。高校生のサッカー部員が中学生の学習を支援する体制も整え、同部OBでゼネラルマネジャーの斎藤賢二さん(49)は「文武両道は清水東の伝統。サッカーだけでなく社会で活躍する人材を地元から輩出したい」と目標を掲げる。

自習後は清水東高のグラウンドに移ってサッカーの練習に取り組む
自習後は清水東高のグラウンドに移ってサッカーの練習に取り組む
 学習する場所は学校近くに借りた「寺子屋」。活動は週5日で、平日は夕方、土日は午前中から集まって自習した後、同校グラウンドなどでサッカーの練習や試合を行う。平日の自習時間には高校サッカー部員の「勉強係」が交代で必ず1人つき、中学生の質問に対応している。
 ジュニアユースの1期生は静岡市清水区を中心に市内から通う中学1年生17人。サッカーの実技とともに、国語、英語、数学の学力テストで選抜した。清水飯田中1年で副主将の滝口慶哉君は「勉強習慣が付き、塾に行かなくても学校のテストでいい点が取れる」と胸を張る。
 県内では高校サッカー部が運営に関わるジュニアユースが既に数多く存在し、人工芝のグラウンドを持つチームもある。清水東高のグラウンドは土で練習環境に恵まれているとは言えないが、進学校の特長を生かそうと学習と組み合わせたプログラムを考えた。
 チームと提携しているのは秀英予備校(本社・同市葵区)。中学生が秀英予備校のロゴと清水東高サッカー部のエンブレムが入ったポロシャツとトレーニングウエアを着て通う条件で、教材提供に合意した。
 同校サッカー部は1980年代を中心に冬の全国選手権1回、全国総体4回の優勝を誇るなど、輝かしい歴史を持つが、近年は県タイトルから遠ざかっている。同校サッカー部前監督でジュニアユースの指揮を執る岡田秋人さん(65)は「学習の成果はサッカーでも個の工夫や状況判断などプレーに現れる。サッカーも学習もやり続ける力を伸ばしていきたい」と意欲を高める。
 〈2022.7.15 あなたの静岡新聞〉

高校生審判員を育成 審判のレベルアップ⇒選手のプレー技術向上へ

 ※2023年2月20日 あなたの静岡新聞から

オフサイド判定について実技講習を受ける高校生審判員ら=静岡市駿河区の草薙球技場
オフサイド判定について実技講習を受ける高校生審判員ら=静岡市駿河区の草薙球技場
 サッカー王国再建は審判育成から―。静岡県サッカー協会がユース世代の審判員育成に力を入れている。静岡県の18歳以下の3級審判員は52人(1月末時点)で、全国で2番目に多い。関係者は「試合には必ずレフェリーが必要。優秀な人材を数多く育て、競技人口の裾野拡大につなげたい」と意欲を高める。
 フラッグを持ち、ライン沿いを疾走する高校生審判員たち。2月上旬、静岡市駿河区の草薙球技場には22歳以下で3級資格を持つ審判員が集まり、オフサイド判定について実技講習を受けた。同市葵、駿河両区を管轄する中部支部が3年前から年6回実施する勉強会の最終回で、支部の垣根を越えてユース審判員が参加した。
 「正確な判定には正しい位置取りが大事」。講師を務めたのは2021年まで最高資格の国際審判員として実績を積んだ唐紙学志さん(44)。10人ほどのスタッフが選手役を担って試合での際どい場面を再現し、受講生は自分が下した判定が正しいか映像で確認を繰り返した。
 審判員は1~4級に分かれ、試合を主催する協会の規模で必要な資格が異なる。高校生審判員が目指すのはJリーグ1部(J1)、そしてW杯の舞台。清水東高で控えGKだった池田遼介さん(3年)が「責任重大だが、試合をコントロールするのが面白い」と笑顔を見せれば、中学時代の大けがで選手を断念した丸田一翔さん(静岡北高3年)も「ずっとサッカーに関わりたいと審判を選んだ。2級、1級、国際資格と上を目指したい」。2人とも進学後も審判員を続ける決意を固めている。
 史上初めて清水、磐田が同時にJ2降格し、静岡の存在感低下が懸念されている。1級資格を持ち、現在もJ1で副審を務める唐紙さんは「審判のレベルが上がれば、選手はプレーに集中でき技術も向上する」と指摘した上で「国内外で活躍するレフェリーを育て、静岡のサッカーを発展させたい」と情熱を燃やす。

 ■選手並みの走力も必要
 静岡県で1級資格を持つ審判員は9人(全国212人)、女子1級は2人(同53人)と狭き門(2022年4月現在)。資格取得には学科と実技の試験だけでなく、体力テストでインターバル走と短距離走を行い、選手並みの走力が求められる。
 県サッカー協会審判委員会は各種の研修会開催に加え、高校生審判員をU-12(12歳以下)県大会決勝などに派遣して経験を積ませている。渡辺裕年委員長(61)は「トップクラスの人材を輩出するのと同時に、審判員として生涯に渡って競技に関わるサッカーファミリーを増やしたい」と方針を示す。
地域再生大賞