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不適切盛り土公表 静岡県内163カ所 注目点は

 静岡県は県内にある不適切盛り土の位置情報を公表しました。総数は、熱海土石流後の盛り土総点検や「盛り土110番」への通報で把握した207カ所のうち、是正措置の完了を確認した44カ所を除く163カ所です。ただ、避難判断に直結する「土砂量」の情報が欠けているとの指摘があるほか、熱海土石流の起点付近の「第三の盛り土」が含まれていません。注目ポイントをまとめます。

163カ所公表 規模は「調査中」 土砂災害警戒区域に16カ所

 静岡県は28日、県内にある不適切盛り土の位置情報をホームページで公表した。総数は、熱海土石流後の盛り土総点検や「盛り土110番」への通報で把握した207カ所のうち、同日までに是正措置の完了を確認した44カ所を除く163カ所。危険性を判断する上で重要な情報になる盛り土の規模は「詳細を調査中」(県盛土対策課)として盛り込まなかった。

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 熱海土石流で崩れ残った伊豆山の盛り土や静岡市葵区杉尾、日向の盛り土など30カ所について安全確保の緊急性が高い盛り土と判断している。28日に県庁で開いた記者会見で同課の担当者は、本年度中に安全性把握調査や盛り土行為者に対する行政指導を進めるとした。国のガイドラインを参考に盛り土の規模に関する調査も進め、判明次第情報を更新する。
 位置情報などの公表は、周辺住民が不適切盛り土の存在を認識し、豪雨時などの避難計画を立てる時に役立てることや、不適切盛り土行為を抑止することが狙い。同課の望月満課長は「直ちに崩落し、人的・物的被害が及ぶ盛り土は現在確認されていない」としつつ、「地震、大雨などで崩落するリスクはゼロではない」と述べ、県民に対して盛り土の性状変化を気にかけるよう呼びかけた。
 公表したのは地番まで含む位置情報のほか、盛り土の形状、行政の対応状況、対応する法令などに関する情報。文字情報を一覧にして示し、地図も掲載した。
 全体の約8割が富士山麓など県東部に集中した。盛り土の形状別では、谷地形に造られ、崩壊した時の影響が最も大きい「谷埋(たにうめ)タイプ」が8カ所あった。人家が近くにあり土砂災害の恐れがある「土砂災害警戒区域」には16カ所、同区域の上流域に当たる「土石流危険渓流」には35カ所で不適切盛り土が造成されていた。熱海土石流で崩落した盛り土と同じ、谷埋タイプで土石流危険渓流に造られていたのは5カ所だった。
 県は半年に1回程度、不適切盛り土の是正状況や新たに把握した不適切盛り土の情報を更新する。(政治部・尾原崇也)
 〈2023.04.29 あなたの静岡新聞〉

当初は場所黒塗り非公表 所有者特定、訴訟懸念を理由に

 熱海土石流後の盛り土総点検で判明した静岡県内の不適切な盛り土196カ所に関し、静岡新聞社が具体的な場所の情報を開示するよう県に求めたところ、県は16日までに、「土地所有者が特定される」ことを理由に非公表とした。所有者や開発業者から訴訟を起こされる恐れもあるとするが、熱海土石流では盛り土の存在が下流域の住民に事前に知らされず、逃げ遅れた27人と関連死1人の犠牲につながった。国土交通省は「自治体には公表をお願いしている」としている。

県が具体的な場所を黒塗りにして提示した「不適切な盛り土」の一覧表。土地所有者が特定されることを理由に挙げた(右上)
県が具体的な場所を黒塗りにして提示した「不適切な盛り土」の一覧表。土地所有者が特定されることを理由に挙げた(右上)
 盛り土総点検は一昨年の土石流後に全国で実施。本県は排水施設の不備や届け出と異なる造成などの盛り土が196カ所あるとし、関係法令別と地域別(東中西部と伊豆)の箇所数を発表したが、個別の場所や危険度の評価、是正状況などを公表していない。  本紙の請求に対し、県は不適切盛り土の一覧表を開示したものの、盛り土の所在地を市町名までしか示さず、字名や地番を黒塗りにして伏せた。県盛土対策課の担当者は「公表基準を現時点で整備していない。今後、検討したい」と説明している。
 県によると、緊急性のある盛り土の場所は市町が地元自治会などに周知したという。ただ、徹底されているかは不明で、どのように緊急性を判断したのかも示していない。
 国交省の吉田信博参事官(宅地・盛土防災担当)は取材に「公表しても法的に問題はない。住民避難に役立つなど、個人情報を出すだけの公益性があると自治体が判断するかどうかだ」と述べた。
「大規模造成地」は地図掲載 静岡県内市町 対応に矛盾

 同じ盛り土でも、一定規模以上など国の要件に当てはまる「大規模盛土造成地」は地震対策として全国的に公表済みだ。造成地のある県内の市町は具体的な場所を地図上に掲載して各市町のホームページで明らかにしている。業者などから訴訟を起こされた事例は確認されていない。
 法令に抵触する可能性がある「不適切な盛り土」に関しては、県が訴訟リスクを理由に非公表としたが、対応の矛盾が浮き彫りになっている。
 大規模盛土造成地を公表する静岡市の担当者は取材に「違法性はなく、危険であることを示しているのではない」と断った上で「今のところ公表の弊害はない。今後、経年劣化の状況や耐震性などを調査して結果を発信したい」と答えた。

公表は是正の促進・誘導につながる  元県危機管理監の岩田孝仁静岡大防災総合センター特任教授の話 付近の住民に場所を周知しているのなら、土地所有者の個人情報を理由に非公表とする県の対応はおかしくないか。公表すれば、住民が自発的に避難する際の判断材料になるほか、所有者に対し不適切な盛り土の是正を促進・誘導することにもつながる。熱海土石流が発生した本県は全国に先駆け、率先して公表すべき立場にある。
 〈2023.02.17 あなたの静岡新聞〉

熱海土石流起点付近「第三の盛り土」は含まれず

 熱海市伊豆山で2021年7月に発生した大規模土石流の起点近くに残されている「第三の盛り土」が、静岡県の公表した「不適切盛り土」163カ所に含まれていなかったことが12日までの市や県への取材で分かった。この盛り土は10年以上前に擁壁が崩れ、土砂流出も発生しながら放置されていたが、市は「不適切」に該当しないとして県に報告していなかった。

残土が積み上げられ、擁壁が一部崩壊していた「第三の盛り土」=2010年11月、熱海市伊豆山(市の公文書から抜粋)
残土が積み上げられ、擁壁が一部崩壊していた「第三の盛り土」=2010年11月、熱海市伊豆山(市の公文書から抜粋)
 県は、許可を受けた際の開発計画と異なっていたり崩壊が発生していたりする盛り土を「不適切盛り土」とし、各市町の把握している情報を集約。4月下旬に地番などの位置情報や位置図をホームページで公表した。各市町は盛り土総点検などで把握した箇所を県に報告。熱海市は21年の土石流で落ち残った盛り土と、南側尾根の斜面にある「第二の盛り土」は「不適切盛り土」と報告していた。
 「第三の盛り土」は土石流で崩落した盛り土北側の別流域に造成された。神奈川県小田原市の開発業者が都市計画法や森林法などの許可を受けたが、工事中に排水施設の不備などが見つかって熱海市や静岡県から是正指導を受けた。業績悪化に伴い工事を中断し、14年4月に業者は解散。崩壊した擁壁や高さ10メートルを超える盛り土が残されたまま緑化が進んでいたとみられる。関係法令の許可は20年に現土地所有者に引き継がれた。
 熱海市や県の公文書によると、08年5月に近くの道路に土砂が流れ、近隣住民から市に苦情が寄せられた。10年7月には別の業者が造成地に土砂を運び込んだ。ただ、市や県が現場で詳細調査をしたり、是正を完了させたりした記録は残っていない。
 市の担当者は「現状で違法性が確認されていないことから不適切盛り土に該当しないと整理している。今後、違法性が確認できた場合は不適切盛り土として公表することも考えられる」とコメントした。

市、県 詳細調査なく 異なる法令所管  「不適切盛り土」として公表されていなかった熱海市伊豆山の「第三の盛り土」は、市が都市計画法、県が森林法でそれぞれ許可を出した造成地。ところが、市も県も開発業者の工事中断に伴い、長年にわたって是正指導をやめていた。異なる法令を所管する市と県のどちらが業者を指導するのか明確にならないまま、盛り土崩壊の危険性を判断する詳細な調査をしない状況も続いていた。
 複数の関係者によると、県と市、土地所有者の協議は2021年7月の土石流発生後に中断。協議が再開されたのは今年3月で、市に権限がある都市計画法の対応を先行することがようやく決まったという。
 県の担当者は「市が対応すべきなのに、対応してこなかった」と強調。不適切盛り土の公表に関しても、「公表しないのか」と市に報告を促したが、拒否されたとしている。(社会部・大橋弘典)
 〈2023.05.13 あなたの静岡新聞〉

「谷や勾配に注意」 土屋智静岡大名誉教授への一問一答

 静岡県が28日にホームページで公表した県内の不適切盛り土情報。土石流のメカニズムに詳しい土屋智静岡大名誉教授(砂防学)が取材に応じ、周辺住民の避難判断に直結する「土砂量」の情報が欠けているとし、追加の情報提供が行政側に求められると指摘した。公表情報で盛り土の位置は特定できるため、県民にはそれぞれの場所の地形から危険度を見極めるよう呼びかけた。一問一答は次の通り。

 ―公表情報のどこに着目すべきか。
 「県が公表した情報のうち重要なのは『位置図』。土砂の不法投棄(盛り土)がどのような場所にあり、人家や集落とどのぐらい離れているのかを確認してほしい。盛り土が沢や谷を埋めている場合は水が集まりやすいため注意した方がいい。熱海土石流で崩れた盛り土は谷を埋めていた。尾根を削って平らな場所にあれば危険性は比較的低い」
 ―住民は避難行動にどのように生かせばいいか。
 「流域ごとに特徴を把握しないといけない。盛り土の下流側に人家があるかどうか、盛り土から人家までの距離と勾配もポイントになる。熱海土石流のように距離が1、2キロ離れていても、勾配が急であれば土石流が到達する。また、土砂の量が多いほど下流側に到達しやすくなる。勾配の目安は15度。15度以上の地形が下流側に続いていれば、盛り土が崩れると土石流として流れ下る。15度より緩やかであれば流下する土砂の勢いは徐々に弱まる」
 ―公表の意義は。
 「位置図は見えにくい場所に作られる盛り土を住民に知ってもらい、避難開始に向けた一歩になる。次のステップとして盛り土の規模、土砂量の情報が必要になるだろう。また、土砂で埋まる前の地形が沢や谷だったのか見極めは難しく、航空写真や3次元点群データなどで昔の地形と比較する必要がある」(社会部・大橋弘典)
 〈2023.04.29 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞