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訪問診療、老犬ホーム…ペット高齢化で広がる支援

 ペットの犬や猫の平均寿命が伸びています。医療技術の進歩やインターネットの普及により飼い主の知識が高まったためとみられるということです。家族の一員であるペットと長い時間を過ごせることは喜ばしいことですが、老いたペットの通院や介護が飼い主の負担になるのも事実です。飼い主の高齢化も重なれば、深刻な問題に発展することも。高齢ペットの支援の広がりをまとめました。

清水町の動物病院、訪問診療導入 ペットの通院ストレス軽減

 ペットの高齢化が進む中、清水町の動物病院が家庭に出向く訪問診療を新たに始めた。静岡県獣医師会によると、会員内で積極的に取り組む例は聞かれていないという。飼い主の負担軽減や、体力が低下する高齢のペットのストレスを減らすことにつながる利点もある。ペットの寿命は医療技術の進歩などで飛躍的に伸びており、需要は高まりそうだ。

訪問診療をする松居裕介院長(左)。チワワのちびもリラックスした様子=2月中旬、三島市内
訪問診療をする松居裕介院長(左)。チワワのちびもリラックスした様子=2月中旬、三島市内
 訪問診療を取り入れたのは清水町の予約制動物病院「ハッチどうぶつクリニック」。松居裕介院長(31)は「ペットの不調でもやもやしたまま生活してほしくない。解決する手助けになれば」と導入の理由を話した。
 「せきに変わりないですか」。2月中旬、三島市内で小型犬チワワのちび(犬の年齢で14歳)の様子を見ながら、松居院長は飼い主岩渕そのえさん(49)に尋ねた。松居院長は心音を聞いたり全身のチェックをしたりして診察を行い、持参した薬を手渡した。岩渕さんは「(通院時よりも)リラックスしている感じ。他の飼い主との間でも訪問診療があったらいいと話していた」と喜んだ。
 高齢のペットはストレスが出やすかったり病気が直りにくかったりするため、体調に合わせてこまめな通院や健康診断が推奨される。
 訪問診療では、多頭飼いの家庭や、点滴など毎日の通院が必要なペット、飼い主が高齢者の家庭の受け皿になることも想定する。精密検査や手術はできないが、血液の採取など基本的な診療は可能。ただ、想定外の病気の場合は薬を持参できないなどの課題もある。松居院長は「家に行くと飼い主が話しやすくなるメリットもある。通院できない人を無視するわけにはいかない」と意気込む。
〈2023.3.6 あなたの静岡新聞〉

ペットの犬猫 平均寿命が最長に 21年全国調査

犬猫平均寿命の推移
犬猫平均寿命の推移
※2021年12月23日 静岡新聞朝刊より
 ペットフード協会(東京)は22日、2021年の全国犬猫飼育実態調査(推計値)の結果を発表した。飼育されている猫の平均寿命は15.66歳、犬は14.65歳と、統計を取り始めた10年以来、最長となった。10年と比べ、猫が1.30歳、犬が0.78歳伸びた。

 平均寿命から算出した医療費などを含む生涯必要経費は、猫が153万5678円、犬が244万8784円。前年比でも猫は約30万円、犬は約38万円増加した。

 調査では、「生活に喜びを与えてくれる存在」として「ペット」を挙げた猫の飼育者は28.6%と、「家族」(26.4%)を上回り、ペットの存在が大きくなっている様子がうかがえる。

 単身世帯の増加を受け、同協会は今年から単身世帯と2人以上の世帯を分け、新たな方法で飼育数などを推計した。それによると、猫は894万6000匹、犬は710万6000匹。従来の推計方法では犬と猫の飼育数が逆転したのは17年だったが、新たな方法では14年に既に逆転していたことになる。

高齢ペットのケア 全国的に二ーズ高まる

老犬介護ホーム「アスル」でチョコ(手前)らの介護をする小野洋子代表=2月、福岡県古賀市
老犬介護ホーム「アスル」でチョコ(手前)らの介護をする小野洋子代表=2月、福岡県古賀市
 ※2021年3月4日 静岡新聞朝刊より
 高齢や病気などで日常生活が難しくなった犬を、飼い主に代わって介護する有料の「老犬ホーム」のニーズが高まっている。ペットを飼う高齢者が増える中、飼い主が亡くなったり、「老々介護」で疲弊したりして行き場を失うペットも。ホーム運営者側は「ペットや自身の老後を考えた上で、飼う決断をしてほしい」と呼び掛ける。
  広い一軒家でのんびり暮らす、寝たきりや認知症の犬約10匹。「介護に疲れ、泣きながら助けを求めてくる飼い主さんもいます」。福岡県古賀市の老犬介護ホーム「アスル」の小野洋子代表(47)が打ち明ける。アスルでは介護度の高い老犬を中心に受け入れ、最期まで手厚くケアする。
  一時預かりしている柴犬のチョコは16歳。人間だと85歳ぐらいで、認知症を患っている。飼い主の60代夫婦は夫が闘病中で、妻が一人で面倒を見てきたという。チョコは歩行器を使ってなんとか起き上がることができる状態で、小野さんや仲間の犬が寄り添う。
  預かっている犬の多くは介助なしでは食事や排せつができず、夜通し鳴き続けることもある。数時間ごとのオムツ交換や投薬もあり、見守りは24時間体制だ。リハビリにも力を入れるが、みとりの瞬間が訪れることも。「常に最善のケアを目指し、志を持って命を預かっている。それでも『無料で預かってほしい』などと無責任な相談もある」と、小野さんは残念そうに話す。
  子供の独立や配偶者との死別などを機にペットを飼う高齢者は多く、後に世話ができなくなった犬や猫を預かる譲受飼養業が急増している。環境省によると、2013年には20施設だった登録件数は、20年4月時点で178施設と、9倍近くに膨れあがった。
  自宅での介護を支える取り組みも進む。愛知県あま市の「シニアドッグケアホームこころ」では長期の預かりに加え、体調が悪くて施設に通えないペットを訪問介護でサポートしている。
  京都市の「シニアペットケアステーション」は、飼い主の仕事中に介護が必要な犬を預かるデイサービスなどを提供。病院の診断書などを基にケアし、食事の与え方などを考える。
  一般社団法人「老犬ホーム協会」(熊本県菊池市)の緒方心代表理事(44)は「もしもの時に備え、日頃から相談先の確保や医療費の準備を進める必要がある」と強調。業界内のルールがまだ整っていないため、サービスの質に大きな差があるとして「預ける前に施設を見学し、介護方針などをしっかり確認してほしい」と訴える。
地域再生大賞