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新型コロナ、感染症法「5類」へ引き下げ 日常生活どう変わる?

 岸田文雄首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、2023年春に季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げると表明しました。3年にわたり続けてきた政府の新型コロナ対策は平時に向け大きな転換点を迎えます。引き下げが私たちの生活に及ぼす影響や、静岡県内の反応を1ページにまとめました。

4月の引き下げへ作業本格化 医療公費負担は段階的に縮小

 岸田文雄首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを今春に5類に引き下げると表明したことを受け、政府は20日、移行に向けた作業を加速させた。早ければ4月の移行を目指し調整を進めるが、自治体が統一地方選の対応に追われることから5月になるとの見方もある。

感染症法上の位置付け(2023.1.20静岡新聞夕刊より)
感染症法上の位置付け(2023.1.20静岡新聞夕刊より)
 厚生労働省は専門家による感染症部会を23日に開き、時期の具体化の議論を始める。複数の関係者によると、部会の議論を踏まえ、政府は見直す措置の対象や時期をまとめた工程表を作る方針。現在全額となっている医療費の公費負担は段階的に縮小するとみられる。
 岸田首相は記者団に、移行の時期やその決定は「できるだけ早いタイミング」とする意向を示した。加藤勝信厚労相は記者会見で「医療提供体制や公費負担、患者負担の支援は段階的に移行する」と述べた。
 現在の位置付けは最も幅広い措置が可能な「新型インフルエンザ等感染症」。5類への引き下げによりさまざまな措置が緩和される方向で、国民の感染対策の意識低下が懸念される。加藤氏は「自主的な取り組みに移行するが必要性は変わらない」と述べ、手指の消毒や換気など基本的な対策の徹底は続けるよう呼びかけた。
 〈2023.1.21 静岡新聞朝刊〉

日常生活どう変わる? マスク原則不要、緊急事態宣言の対象外に

 岸田文雄首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付け引き下げを表明。コロナ禍の象徴だったマスクは原則不要となる見通しで、平時の生活に戻す方向へと大きくかじを切った。緊急事態宣言ももうなくなる。幅広い病院で患者を受け入れることで医療逼迫(ひっぱく)の解消を目指すが、うまくできるかどうか不透明な部分も多い。

感染対策 マスクは屋内でも原則不要に
 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行すれば、屋内でもマスク着用が原則不要となり、自分や家族が感染しても行動制限がなくなるなど、感染対策は大きく変わりそうだ。
 政府や専門家は、基本的感染対策として、新型コロナの流行が始まった直後からマスクの着用を国民に呼びかけてきた。昨年5月に基本的対処方針を改定し、屋外では原則不要としたが、屋内では距離が確保でき会話がない場合を除いてマスク着用を推奨してきた。加藤勝信厚生労働相は20日の会見で「今までより絞った着け方をお願いする方向で議論する」と述べた。専門家の意見を踏まえ、発熱やせきなどの症状のある人や、高齢者ら重症化リスクの高い人と接する場合を除き、屋内でも原則不要とすることを検討している。
 また岸田文雄首相は「感染者や濃厚接触者の外出自粛について見直す」と言及。国が定めた感染者で7日間、濃厚接触者で5日間の待機期間はなくなる。ただし専門家は、感染者は引き続き人と会う外出を控えることが必要だと訴える。特に高齢者施設や医療機関で働く人は、今後も慎重な対応が求められそうだ。
 ワクチンについて、政府は感染拡大防止の重要な手段と考えており、引き続き積極的な接種を求めていく方針だ。
 現在は、予防接種法に基づく「特例臨時接種」として費用は全額国費負担となっているが、3月末で期限を迎える。今後、費用の自己負担を求めるかどうかは接種間隔の検討も併せて進める。
行動制限 緊急事態宣言の対象外へ
 政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」に引き下げれば、緊急事態宣言を定めた新型コロナ対応の特別措置法の適用対象から外れる。不要不急の外出自粛や飲食店の休業要請といった強力な感染防止対策が取れなくなり、感染力の強い新たな変異株が登場した場合に緊急対応が遅れかねないとの懸念がある。
 現行の分類「新型インフルエンザ等感染症」は、患者の入院勧告や濃厚接触者の行動制限など最も幅広い措置が可能だ。感染拡大時に首相が緊急事態を宣言すれば、該当区域の都道府県知事は法的根拠を持って、スポーツなどイベントの無観客や施設の使用制限の要請、指示が出せる。
 安倍、菅両内閣では、2020年4月と21年の1、4、7月に計4回の緊急事態宣言が発令された。岸田内閣発足後はワクチン接種が進んで重症化率が低下。政権が景気回復を重視した事情も重なり、宣言は一度も発令していない。安倍、菅内閣当時、厳しい行動制限を強いられた国民の不満が高まり、支持率下落の一因となった教訓も踏まえた。
 ただ、新型コロナは現在も新たな変異株が見つかっている。病原性が比較的高いタイプが流行すれば、医療現場や社会の混乱は必至。分類を再び引き上げるには一定の手順を経る必要がある。政府関係者は「緊急事態宣言という感染防止の『伝家の宝刀』が封印されてしまう」と不安視する。
医療機関 患者受け入れ、徐々に拡充
 新型コロナウイルス感染症患者の診療は現在、都道府県が発熱外来に指定した医療機関に限定され、患者が集中して医療逼迫(ひっぱく)を招く一因となっている。「5類」に引き下げた後は季節性インフルエンザと同様に、多くの医療機関で患者を受け入れられるようになるとの期待は大きいが、政府はコロナに対応する医療機関を徐々に広げていく考えだ。
 季節性インフルエンザは原則として、全ての医療機関で患者の診療が可能。加藤勝信厚生労働相は20日の記者会見で、コロナについても「幅広い医療機関で対応してもらう状況をつくる必要があるが、分類を見直せばすぐにそうなるわけではない」と説明した。
 院内感染のリスクをぬぐい去れない医療機関が念頭にあるとみられ、現場の実態を踏まえながら、段階的に移行していく考えを示した。
 政府はコロナ患者に対応していない診療所などに対し、患者の受け入れ体制整備を支援する方針。
 またコロナの入院患者のために、都道府県は各医療機関に病床確保を要請している。政府は病床を確保する医療機関への財政支援や、患者の医療費に関する公費負担の在り方についても段階的に見直す方針。支援が過剰だとの声がある一方、必要以上に縮小すれば医療機関や患者からの反発を招きかねず、難しい判断を迫られそうだ。
 〈2023.1.21 静岡新聞朝刊〉

静岡県内関係者 歓迎の声 ワクチン促進や恐怖心の是正、必要

 岸田文雄首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」に引き下げると表明した20日、静岡県内の関係者からは歓迎する意見が聞かれた。県民生活は大きな転換期を迎えることになり、5類移行までにワクチン接種の促進など“準備”が必要だと指摘。日常回帰に向け、コロナ禍で浸透した「過度な恐怖心の是正が不可欠」との反応もあった。

矢野邦夫医師
矢野邦夫医師
 「もっと早くても良かったくらい」
 浜松市感染症対策調整監の矢野邦夫医師は首相の決断に賛同した。その上で、行動制限の廃止で感染者はある程度増えると予測。高リスク者を中心にワクチン接種が一層重要になるとし、5類移行が見込まれる今春までに「(高リスク者の)5回目接種率を9割超にすべきだ」と述べた。
 医療や社会活動の制限見直しとともに、新型コロナに対する過剰な警戒心や予防策も改善されなければ本来の日常には戻らない-との声も。
 静岡市立静岡病院感染管理室長の岩井一也医師は「弱毒化してもウイルスをひたすら遠ざけようという風潮は一向に変わらなかった」と振り返り、「コロナは一般的な風邪の一つと認識すべきだ」と強調した。県病院協会の毛利博会長はコロナへの抵抗感は医療従事者も根強く、一部の医療機関が5類移行後もコロナ診療を避ける実態が続かないか懸念する。「(治療を受けられない)コロナ難民を出さないよう指導力が試される」と引き続き行政と連携する姿勢を見せた。
 県健康福祉部の後藤幹生参事は感染が落ち着く傾向がある春先の引き下げを「妥当」と評価。内服薬や入院、ワクチン接種にかかる公費負担、実費負担を整理する必要性を説いた。(社会部・河村英之、佐野由香利)
 〈2023.1.21 あなたの静岡新聞〉
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