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牧之原 園送迎バス3歳児死亡 全国で増える保育施設事故

 牧之原市で9月5日、幼稚園の送迎バスに約5時間にわたり置き去りにされたとみられる女児(3)が死亡しました。福岡県中間市では2021年、保育園の送迎バス内に放置された男児が死亡するなど、同様の事案は過去にも発生しています。今回の事件のこれまでに判明している概要と全国の保育施設における発生状況などをまとめました。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 松本直之〉

バス内に置き去り、熱中症か 業務上過失致死疑いで捜査

 5日午後2時15分ごろ、牧之原市静波の認定こども園「川崎幼稚園」で、「送迎バスに子どもが取り残されていて意識がない」と110番があった。園児は同市静波の女児(3)で、搬送先の市内の病院で死亡が確認された。バスの中に置き去りにされ、熱中症になったとみられる。牧之原署は業務上過失致死の疑いを視野に捜査を進める。

送迎バス車内の園児が死亡した川崎幼稚園=5日午後5時40分ごろ、牧之原市静波
送迎バス車内の園児が死亡した川崎幼稚園=5日午後5時40分ごろ、牧之原市静波
 捜査関係者によると、園の送迎バスは18人乗りのワゴン車タイプ。死亡した女児を含めて6人を迎え、同日午前8時50分ごろ、園に到着した。降車させた後は付近の駐車場に止めていて、帰宅時間に職員がバスを移動させる際に気付いた。約5時間にわたって車内に取り残されていたとみられる。
 朝の迎えの際、バスには園児のほか、運転手の男性理事長(73)と添乗の70代女性派遣社員がいた。同署は園児を降車させる際の確認状況や女児の乗車位置などを慎重に調べる。気象庁の観測によると、同日の牧之原市の最高気温は30・5度だった。
 2021年7月29日には、福岡県中間市の双葉保育園の送迎バス内で男児(5)が見つかり、死亡する事件が発生した。県こども未来課によると、川崎幼稚園は15年4月にこども園の認定を受けた。22年5月25日時点で園児158人が在籍している。

繰り返された悲劇 保護者、関係者絶句

 牧之原市静波の認定こども園「川崎幼稚園」で5日、送迎バス内に置き去りにされたとみられる園児の女児(3)が死亡した事件。昨年7月に福岡県で保育園の送迎バスに取り残された園児が熱中症で死亡し、国が安全管理の徹底を求める通知を出していた中で再び悲劇が起きた。「あってはならないこと」「まさか」-。園を知る関係者や保護者らは絶句した。

送迎バス車内の園児が死亡する事件が発生した川崎幼稚園。駐車場(左)には警察により規制線が張られた=5日午後5時50分ごろ、牧之原市静波(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
送迎バス車内の園児が死亡する事件が発生した川崎幼稚園。駐車場(左)には警察により規制線が張られた=5日午後5時50分ごろ、牧之原市静波(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 5日夕方、現場の園周辺には規制線が張られて物々しい雰囲気に包まれた。同園に子どもを迎えに来た保護者によると、送迎バスとみられるワゴン車がシートで覆われていた。一部の保護者には翌日の休園を知らせるメールが入り、市の職員らも慌ただしく事情の確認に追われた。
 関係者によると、同園の男性理事長(73)は先代の父親から園の運営を引き継ぎ、運営法人が市内の別の保育園の指定管理を担うなど経営を広げていたという。牧之原署によると、事件当日は男性理事長自身が送迎バスを運転していた。
 理事長を知る男性は「地域からの信頼は厚かったので(置き去りは)まさか、という感じだ。管理者である理事長自身が確認を怠っていたとしたら問題」と話した。同園に娘が通っていたという40代の女性は「(当時は)園に到着すると運転手がバス内の拭き掃除を行い、園児がバスを降りたか確認していた。事故は信じられない」とうつむいた。
 同日は市内の観測点で最高気温が30・5度に達する真夏日で、女児は登園時から約5時間にわたってバス内に閉じ込められていた可能性がある。2歳の娘を市内の別のこども園に通わせる男性(29)は「ニュースを聞いてぞっとした。園側には、子どもの命を預かっているという責任をあらためて感じてもらいたい」と語気を強めた。
 〈2022.9.6 あなたの静岡新聞〉

厚労省が全国の自治体に出していた通知とは

 ①子どもの欠席連絡等の出欠状況に関する情報について、保護者への速やかな確認及び職員間における情報共有を徹底すること
 ②登園時や散歩等の園外活動の前後等、場面の切り替わりにおける子どもの人数確認について、ダブルチェックの体制をとる等して徹底すること
 ③送迎バスを運行する場合においては、事故防止に努める観点から、
 ・運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと
 ・子どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること
 等に留意いただくこと。
 ④ 各幼稚園等においては、「学校安全計画」「危機管理マニュアル」について、適宜見直し、必要に応じて改定すること。
 〈2021.8.25 厚労省事務連絡から抜粋 ※原本


 <メモ>近年の同種の事案 2021年7月29日、中間市の双葉保育園の送迎バス内に約9時間置き去りにされた男児=当時(5)=が熱中症で死亡した。バスは当時の園長が1人で運行。園は家族への出欠確認をしていなかった。  2007年には北九州市の保育園で、車両に放置された園児が死亡。17年にさいたま市の幼稚園で、18年には北海道の保育所で、送迎バスに園児が数時間取り残されるケースがあった。
家宅捜索のため双葉保育園に入る福岡県警の捜査員=2021年8月1日、福岡県中間市

保育事故2347件で最多 バス置き去り含め死亡5件

 内閣府は7日、2021年に全国の保育所や幼稚園、認定こども園で子どもがけがなどをする事故が2347件あったと発表した。前年比332件増え、現在の集計方法となった15年以降で最多。このうち子どもが死亡したケースは5件で、睡眠中や、送迎バス内の置き去りによって起きた。

保育事故件数の推移
保育事故件数の推移
 事故増の背景には、保育現場の慢性的な人手不足があるとみられる。事故が起きた場合に、施設から自治体への報告を義務付けた制度が設けられており、内閣府の担当者は「報告制度が施設側に浸透してきた」とも指摘。「再発防止の取り組みを続けたい」と話した。
 死亡事故5件は20年と変わらない。認可外保育施設で3件、認可保育所で2件起きた。発生時の状況は睡眠中が1件、その他が4件。年齢別に見ると0歳が1件、1歳が2件、2歳が1件、5歳が1件だった。
 死亡のうち1件は、21年7月に福岡県中間市で当時5歳の園児が送迎バス内に置き去りにされ、熱中症により死亡した事件。内閣府は他の4件の詳細を公表していない。園庭で遊んでいて死亡した例が含まれるという。
 15年からの死亡事故の累計は60件に上る。
 死亡を除く2342件の8割を骨折が占めた。やけどが10件、意識不明の例は14件あった。
 21年1~12月に起きた事故に関する自治体の報告を、内閣府が集計した。死亡事故と、治療に30日以上かかるけがなどを伴う事故が対象となる。
 〈2022.7.8 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞