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静岡県と静岡市、リニア工事巡っても食い違い 対立の背景は

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事を巡り、静岡県の川勝平太知事と静岡市の田辺信宏市長との間で主張の食い違いが生じています。工事車両の通行ルートとして静岡市葵区に新設される県道南アルプス公園線トンネル工事の進捗や残土処理を巡るもので、これまで政治課題や選挙などで衝突を繰り返してきた両者が再び、意見対立を見せています。背景には工事を巡る市とJR東海との基本合意が影響しているとの指摘が。対立の構図を整理します。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 吉田直人〉

食い違う主張 まずは概要を整理

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に伴い、工事車両の通行ルートとして静岡市葵区に新設される県道南アルプス公園線トンネルを巡る川勝平太知事の発言に、同市が困惑している。工事の進捗(しんちょく)や工事で発生する残土の処理問題に関する知事の独自の見解には「事実と異なる部分が多い」というのが市側の主張だ。

南アルプス公園線トンネルを巡る川勝知事の発言と静岡市の主張
南アルプス公園線トンネルを巡る川勝知事の発言と静岡市の主張
 

工事の動き


 川勝知事 8月9日の定例記者会見で「残土処理の用地交渉は市の役割。(2018年の基本合意から)何の動きもなかった」と、残土置き場が決まらないことが工事の進捗に影響していると市を批判した。同23日の会見でも「(トンネルは)まだ1ミリも掘られていない」と指摘した。
 静岡市 「残土処理はJRの役割」(道路計画課)とし、市はJRに協力する立場と強調する。同課の担当者はJRによる地質調査やトンネルの詳細設計、市による保安林解除の手続きなどに時間を要したとし「この規模のトンネル工事が合意から4年で着工できたのは、むしろスムーズと言える」との認識を示す。
 

清水港で利用


 静岡市 残土は地元の道路や土地の改良での活用を前提。処分しきれない分は県の清水港埋め立て事業で利用することを視野に県、JRと協議している。
 川勝知事 清水港での利用について「JR担当者は問題だという見解だった」「無理筋な話」などと批判。
 市の担当者は「協議内容は県も把握しているはず。どうしてそこまで批判するのか」と困惑。「JRからも『問題』だとの見解は聞いていない」と首をかしげる。
〈2022.09.05 あなたの静岡新聞〉を編集

対立の背景は「基本合意」の遺恨?

 川勝知事の発言の背景には、4年前に市とJR東海が結んだ基本合意への不満があるとの見方も出ている。

 

基本合意


 2018年6月、リニア中央新幹線南アルプス工事の工事車両通行ルートとして、JR東海が同市葵区の県道南アルプス公園線と県道三ツ峰落合線を結ぶトンネルを整備し、建設費約140億円も全額負担することで市と基本合意した。新設するトンネルは全長約4・6キロ。21年12月、掘削工事に向けたヤードの整備などを行う準備工事に着手した。23年度初めの掘削工事開始、25年度末の供用開始を目指す。工事に伴い発生する残土は32万立方メートルを見込む。
 

住民反発で県道トンネルに変更


 リニア工事に伴う道路整備を巡っては、当初、JRは葵区井川地区と川根本町を結ぶ市道閑蔵線のトンネル整備を提案したが、井川地区の住民が強く反発し、田辺信宏市長も同調。JRが地元要望を尊重するとして県道トンネル整備で合意した経緯がある。
 市がトンネルの設置を要望していた区間は、急カーブが多く、車同士がぎりぎりですれ違う狭い道路。市はトンネルがあれば事故や交通規制を回避でき、工事関係者や地元住民の安全につながると主張していた。
 

基本合意に県は抗議


 市とJRが合意した当時、県は突然の合意発表に不快感を示し、合意内容や記者会見での田辺市長の発言に抗議のコメントを出す事態になった。
 最近の知事発言について、静岡市の関係者は「当時の不満が尾を引いている可能性がある」と推測。別の関係者は「来春の静岡市長選を意識しているのでは」との見方を示した。
 2022.09.05 あなたの静岡新聞/2018年6月20日 静岡新聞夕刊を編集

再び注目 市道閑蔵線のトンネル整備

 

 川勝知事 8月23日の定例記者会見で、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で働く作業員の安全確保に必要だとして、田辺信宏静岡市長に対し「市道閑蔵線のトンネル整備を(JR東海に)働きかけてほしい」と注文した。
  8月8日の東京電力田代ダム視察を踏まえて「“命の道”の整備が極めて重要だと認識した」と述べた。川根本町の要望もあるとして、地元の静岡市が事業者のJRに整備を働きかけるよう求めた。
 田辺市長 8月29日の定例記者会見で、「今すぐにJR東海に働きかけをすることは慎重な判断を要するが、検討の余地はある」と述べた。
  田辺市長は「市道閑蔵線の整備は周辺の首長から望む声があるのは承知している。広域観光の観点からも重要な道路」との認識を示し、2011年度から、市が井川側からの拡幅工事を進めていると説明した。

 市道路計画課によると、市道閑蔵線の全長約6キロのうち、現在1・1キロの工事が完了しているという。
※2022.08.24 /08.30 あなたの静岡新聞を編集
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