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リニア工事の残土処理どうなる? 条例施行で注目

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で発生する残土処理。7月に県盛り土規制条例が施行されたことで、その行方に注目が集まっています。議論の進捗や他地域の残土処分例を1ページにまとめました。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 片瀬菜摘〉

静岡市の燕沢は盛り土「不適」 川勝知事が残土置き場予定地視察

 川勝平太知事は8日、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事に関連して大井川上流域の東京電力田代ダムや残土置き場予定地を視察した。最も規模が大きい残土置き場が計画されている静岡市葵区の燕(つばくろ)沢について、川勝知事は「(地盤の)深層崩壊の可能性がある場所で不適だ」との考えを示した。

残土置き場予定地の燕沢でJR東海の担当者(左端)から説明を受ける川勝平太知事(右)=8日午後、静岡市葵区(写真部・小糸恵介)
残土置き場予定地の燕沢でJR東海の担当者(左端)から説明を受ける川勝平太知事(右)=8日午後、静岡市葵区(写真部・小糸恵介)
 川勝知事は燕沢でJR東海の担当者から、残土を約65メートル積み上げる盛り土構造について説明を受けた後、「過去に何度も土砂崩れを起こした地質学的知見があり、盛り土する場所としてふさわしくない」と述べ、計画の変更を求めた。JR東海は静岡工区のトンネル工事で約370万立方メートルの残土発生を見込み、このうち360万立方メートルを燕沢近くの川沿いに積み上げる計画を示している。
 自然由来の重金属を含み、汚染対策が必要となる「要対策土」を燕沢より下流の藤島沢に置く計画については、川勝知事は要対策土の盛り土を原則禁止する県盛り土規制条例が施行されたことに触れ、「なかなか厳しい」と強調した。その上で「新しい事態に即した対策を(県の有識者会議で)議論してほしい」と求めた。
 視察に同行した同社の宇野護副社長は「現段階で藤島沢(残土置き場)の撤回は考えていない」とし、「懸念は十分承知している。事業者としてできることはやっていく」と述べた。
 川勝知事は、同社がトンネル湧水の県外流出対策として提案している田代ダム取水抑制案については、実現に向けて関係者と調整するよう求めた。工事車両の通行ルートとして新設予定の県道南アルプス公園線のトンネルを巡っては、静岡市が残土の処分場3カ所を選定したと明らかにした上で、処分場決定の遅れが工事の進ちょくに影響していると批判した。
 〈2022.08.09 あなたの静岡新聞〉

JR想定の処理方法、条例により原則禁止に

 熱海市の土石流災害を受けて静岡県盛り土規制条例が7月に施行されたことで、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で発生する残土の処理方法に注目が集まっている。自然由来のヒ素などの重金属を含み、汚染対策が必要とされる「要対策土」の盛り土が原則禁止されたためだ。JR東海は、適切な措置が講じられていると知事が認めれば例外的に盛り土を可能とする「適用除外」を受けることを念頭に現地での存置計画を維持したい考えだが、県は「具体的に協議しているわけではなく(適用除外と)判断できない」と慎重な姿勢を崩していない。

JR東海が示しているリニア工事残土置き場
JR東海が示しているリニア工事残土置き場
 「これまでのJRの説明では処理できなくなる」。県の難波喬司理事は2日、都内で開かれた国土交通省専門家会議会合後の記者会見で、JR東海の要対策土処理計画への考えを問われ、きっぱりと答えた。
 JRは静岡工区のトンネル掘削工事で発生する残土について、すべて大井川上流域の川沿いに永久存置する方針を示している。要対策土については藤島沢(静岡市葵区)に置き場を設ける計画で、有害物資が漏れ出し、大井川の水質に影響を与えないようにするための盛り土構造について県有識者会議で協議している。
 県は条例の「適用除外」を受けるための要綱を定め、厳格な有害物質流出防止措置や管理の継続性、モニタリング体制の整備などを規定している。要綱では、盛り土ができる場所を「事業区域内」と定めるが、県は工事箇所(千石ヤード地点)から6キロほど下流の藤島沢が区域内と言えるのか「現状の事業計画では認められない」(担当者)とみている。
 JR東海中央新幹線静岡工事事務所の永長隆昭所長は「条例の原則と適用除外がある。具体的な条件を出して県と話していきたい」と語る。

 ■JRの存置計画 流域住民不安 
 リニアトンネル工事静岡工区で発生する残土すべてを大井川上流域に置くJR東海の計画を巡っては、流域の住民や利水者からも不安の声が上がる。
 島田市の茶農家紅林貢さん(74)は「水質悪化の恐れがあると世間に認知されるだけで大きな風評被害を受ける」とした上で、「JRは流域住民の声に耳を傾け、よほど慎重に対応してもらわないと困る」と訴える。
 大井川から取水し、菊川市や掛川市の農地に供給する大井川右岸土地改良区の浅羽睦巳事務局長は「流出してから『想定外だった』と言われても、取り返しがつかない。専門家の意見をよく聞いて、より踏み込んだ対策を」と求める。

 <メモ>JR東海はリニア南アルプストンネル工事静岡工区で約370万立方メートルの残土発生を見込み、燕(つばくろ)沢など大井川上流部の6カ所に置き場を設ける計画を示している。同工区での要対策土の発生量は数値を示していない。県有識者会議の委員は「そもそも水源地に有害物質を含む盛り土を永久存置するのは不適切」として、有害物質を土から分離する「オンサイト処理」の現地実施を求めている。一方、JRは設備を置く敷地が確保できないことなどを理由に応じていない。
 〈2022.08.07 あなたの静岡新聞〉

「要対策土」処分、他県の例は? 岐阜県御嵩町

※2021年7月31日 あなたの静岡新聞より

リニア中央新幹線工事の現場事務所が置かれる「ヤード」。奥にリニア工事の残土の恒久処分予定地がある=7月中旬、岐阜県御嵩町(画像の一部を加工しています)
リニア中央新幹線工事の現場事務所が置かれる「ヤード」。奥にリニア工事の残土の恒久処分予定地がある=7月中旬、岐阜県御嵩町(画像の一部を加工しています)
 岐阜県中南部に位置する御嵩(みたけ)町。7月中旬、町の中心を流れる可児川の上流部、美佐野地区の山林を訪ねた。木が伐採され、地山がむき出しになっている一角が見えた。リニア中央新幹線工事の現場事務所や濁水処理施設が置かれる「ヤード」の造成現場だ。
 「この林の奥にJR東海が要対策土の恒久処分地を計画している」。同町議の岡本隆子さん(67)はヤードに目を向けながら説明した。「要対策土」とは自然由来のヒ素などの重金属を含み、汚染対策が必要とされる土壌。町には今、要対策土を含むリニア工事の残土を、美佐野地区に恒久的に置く計画が持ち上がる。
 可児川は町民が農業用水として使う。岡本さんは「有害物質が漏れ出して河川に流出することはないのか」と懸念する。町は約30年前、住民投票で産業廃棄物処理施設計画を拒んだ歴史がある。「町内に有害なものを置くことに対して、町民は敏感」という。
 同町のリニアトンネル工事で発生する残土の量は90万立方メートル。JRはヤードに隣接する民有地と町有地に置き場を計画する。町有地は用地取得して要対策土を含む残土を、民有地には通常の残土を搬入するという。
 町によると、当初は通常の残土の受け入れをJRと協議していたが、2019年8月、JRから町と町議会に対し、要対策土の恒久管理の説明があった。JRはその後、要対策土対策として遮水シート2枚と不織布3枚を交互に重ねて土にかぶせる案を示した。町は町有地売却に慎重で、結論を出していない。
 今年7月中旬、JRは町民を対象にした要対策土の恒久処分計画の説明会を初めて開いた。2日間で計約150人が参加。参加者によると、二重遮水シートの耐久性など安全面の質問が相次いだ。熱海市伊豆山の土石流災害の直後で、盛り土の安定性に不安の声も上がった。
 美佐野地区前自治会長の纐纈(こうけつ)久美さん(68)は「シートの破損箇所をどう特定するのか」と疑問をぶつけたが、納得のいく回答は得られなかった。「(14年の)環境影響評価公表時点で要対策土が出るのは分かっていたはず。もっと早く丁寧な対応や説明が必要だったのでは」と憤り、「負の遺産が残っては困る」と訴える。
 町の生物アドバイザーを務める女性(62)は、町有地周辺に希少植物「ハナノキ」が分布していることを心配する。「将来子どもたちに残したいのは有害な残土ではなく、豊かな自然」と言い切る。

 ■岐阜・御嵩町 残土の処分場設置を町長容認
※2021年9月10日 静岡新聞朝刊より
 JR東海のリニア中央新幹線工事に伴う残土を巡り、岐阜県御嵩町の渡辺公夫町長は9日、町有地への残土の恒久処分場設置を受け入れる前提で同社と協議入りすると表明した。9日の町議会本会議の答弁で明らかにした。町はこれまで、JR側の環境保全策が不十分だとして拒否する考えを示していた。
 渡辺町長は答弁で、環境保全策などに関して「専門家の話を聞き、一定の理解はできた」と指摘。一方で「反対の声もあるが、ほかに解決策がない」として消極的な賛成だとも強調した。議会とも協議を重ね、「JR側に対して求めるべきところは求めていく」と述べた。
 JR東海によると、工事予定地の土には自然由来のカドミウムやヒ素が含まれ、残土は汚染対策が必要な「要対策土」扱いになる。計画では町内で発生した残土を、町有地約7ヘクタールと私有地を中心とした約6ヘクタールの2カ所に搬入する予定で、要対策土は町有地で処分することになっている。
 JR東海は9日、「現在行っている現地調査の結果を踏まえ、町と協議を進めていきたい」とのコメントを出した。来春には住民説明会を予定しているといい、「引き続き丁寧に説明する」としている。同社は岐阜県ではほかに中津川市などで処分場を計画している。
地域再生大賞