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「吉商本舗」惜しまれつつ閉店 高校生運営のチャレンジショップ

 富士市の吉原商店街の空き店舗を活用し、市立高生(旧・吉原商高)のビジネス部が運営していたチャレンジショップ「吉商本舗」が今年3月末で営業を終了しました。2004年の開店から約18年間、地域のにぎわい創出や海外支援などさまざまな挑戦を繰り返してきました。「吉商本舗」の営業終了までの取り組みを1ページにまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・安達美佑〉

富士市立高生が運営 コロナ影響で3月閉店

 富士市の吉原商店街の空き店舗を活用した市立高ビジネス部のチャレンジショップ「吉商本舗」が3月末で約18年の店舗営業を終了した。同校によると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で店舗運営が困難になったという。高校生の常設店舗運営は全国的にも珍しく、商店街関係者からは惜しむ声も上がっている。

18年余りの歴史に幕を下ろし昨年度末で閉店した吉商本舗=富士市の吉原商店街
18年余りの歴史に幕を下ろし昨年度末で閉店した吉商本舗=富士市の吉原商店街
 吉商本舗は校名変更前の吉原商高時代の2004年7月に開設。実業高校の商品開発やイベント販売が活発になる中、地元のNPO法人の支援で高校生が仕入れから販売、経理など実践的に商売を学ぶ部活動として始まった。商業ビジネス部が週4日、駄菓子などを販売。生徒自らが中国で買い付けた雑貨の販売や地元店舗とのコラボ商品開発など、歴代部長が店長として事業展開し、まちに活気を与えた。近年は放課後児童クラブや高齢者施設への訪問販売を強化していた。
 同校によると、新型コロナの行動制限などで活動が不安定化し、20年度は仕入れ後に大量のロスが発生。21年度は1日も開店できなかった。固定費がかさむ中で閉店を決断した。当面、屋号の「吉商本舗」は残し、商品開発や訪問販売を継続する。顧問の宮城幸史教諭は「吉商本舗は本校が現在進める探究学習や地域交流の礎を作った。店は閉めるが、生徒の活動を応援してほしい」と話した。
 初代部長で大学時代に同商店街でフェアトレードショップを出店した経験もある東絵美さん(34)は「地域の方に良くしてもらい貴重な経験ができた」と振り返り、「よくここまで続けられた」と後輩の努力をたたえた。

 ■まちに新風、若者刺激
 吉商本舗が約18年もの間、店を構えた富士市の吉原商店街周辺では近年、新規出店が相次いでいる。市活性化策の効果のほかに、関係者は「吉商本舗の功績も大きい」と話す。
 NPO法人東海道・吉原宿によると2016年以降、年平均10店を超える70店以上が出店した。唐揚げ、カレー、コーヒーなど専門店も多く、若い事業主が増えつつある。20年に出店した衣装制作「アトリエテチ」は、店主小川浩子さん(37)が毎月展示会を開催し、作家とのつながりを育む。今春には空き店舗約30カ所でのアート企画も展開され、新風を吹き込んだ。
 吉商本舗は、同商店街衰退の象徴的出来事だった2003年の旧ヤオハンビル壁崩落事故の翌年に開店した。シャッター街での高校生の店舗運営は注目を集め、当時を知る商店主は「若者の姿が刺激になった」と話す。
 同世代の若者も触発された。現在、リノベーション事業などを手掛ける吉原マネジメントオフィス社長の鈴木大介さん(34)もその一人。部員の活動を手伝ううちにまちの活性化に取り組むようになった鈴木さんは「高校生が店舗経営をする面白さに引かれ、大学生や若者が集まる土壌ができた。何かができる雰囲気の原点に吉商本舗がある」と出店が進むまちの現状を喜ぶ。
 〈2022.6.6  あなたの静岡新聞〉

“生きた教育”と商店街のにぎわい創出へ 2004年開店

 ※2004年7月25日 静岡新聞朝刊から

福引などが人気を集め、ごった返す店内=富士市吉原の「吉商本舗」
福引などが人気を集め、ごった返す店内=富士市吉原の「吉商本舗」
 富士市立吉原商高の商業ビジネス部が、空き店舗を活用して常設運営するチャレンジショップ「吉商本舗」が(2004年7月)二十四日、同市の吉原商店街でオープンした。商店主らもメンバーとなっているNPO東海道・吉原宿が支援、準備を進めてきた。
 高校生が短期間、店舗を開設する試みは多いが、常設運営は全国的にも例が少なく、同NPOによると、県内では初めて。夏休みが終わっても放課後を利用して、長期的な経営を目指す。
 この日は、吉原商高生やPTA、商店街関係者、行政関係者ら百人余りが集まり、「吉商本舗」を中心にずらりと並んでテープカットを行い、オープンを祝った。
 扱う商品は駄菓子やジュース、アイスクリームなど。初日とあってオープン直後から、店内は多くの客でごった返し、スタッフの女子高生九人は大忙し。オープン記念の福引が人気を集め、長い列ができた。二百円、五百円、千円などパック詰めにしたお菓子類も順調な売れ行きを見せた。
 吉原商高は店舗運営を通して“生きた教育”を目指し、同NPOは高校生の若い感性を生かした店舗運営を、空き店舗が目立つ商店街のにぎわい創出につなげたい考え。両者の狙いが合致し、今年三月から高校生をNPOが支援する形で、取扱商品や店舗レイアウトなど、話し合いながら決めてきた。市や富士商工会議所も高校生の意欲的な取り組みに注目、支援の輪を広げた。
 ※内容、表記などすべて掲載日時点

女子生徒経営者が中国で買い付け 通訳を介し交渉

 ※2005年9月5日 静岡新聞夕刊から

中国の雑貨商人と交渉する吉商本舗の高校生=中国・義烏市
中国の雑貨商人と交渉する吉商本舗の高校生=中国・義烏市
 富士市の吉原商店街で常設店舗「吉商本舗」を経営する市立吉原商業高商業ビジネス部の女子生徒が、夏休みを利用して、中国浙江省の巨大雑貨卸売市場「義烏市場」を“買い付けツアー”に訪れた。女子高生の視点から「売れる」と見込んだ雑貨や文房具など二十種類約六千点を買い付けた。商品は吉商本舗の「中国フェア」で販売するという。
 吉商本舗は昨年(2004年)七月、実践的な商業体験や地域交流を目的に富士市などが出資し、高校生が経営する県内初の常設店舗として開店。駄菓子やTシャツ、手作りアクセサリーなどを販売してきた。部員は現在十五人。杉本絵美部長(三年)をはじめとする引退を控えた三年生四人と若園耕平顧問(44)らが(2005年)八月二十六日から五日間、中国を訪問した。
 義烏市場は約四万店の各種雑貨店がひしめき合う世界最大級の問屋街。日本よりも格段に安い値段で数千個単位で売買されている。四人は通訳を介し、実際にバイヤーとして交渉にあたった。杉本部長は中国人の売買交渉を見て「言葉のやりとりが激しく、けんかしているようだった」と圧倒されたというが、最終日には「いくら」「もっと安く」などの中国語も交えて値引き交渉を楽しむまでになった。
 商品は、ブタやウシなどの動物の顔をかたどったマグカップやクマのキーホルダー、アクセサリー風のお守りなど、女子高生ならではの目利きで購入。安価のシャープペンやボールペン、ペンライトなどを含め総額約十五万円分の商品を買い付けた。
 同行した若園顧問は「経営者としての芽が出てきている」と生徒の成長ぶりに目を見張った。
 ※内容、表記などすべて掲載日時点

アフリカ・マラウイのエイズ対策を支援 検査センター設立

 ※2007年4月17日 静岡新聞朝刊から

マラウイと通信し、贈呈式を行った若園教諭(左から2人目)と生徒ら=名古屋市のJICA中部
マラウイと通信し、贈呈式を行った若園教諭(左から2人目)と生徒ら=名古屋市のJICA中部
 富士市立吉原商高生が同市吉原商店街で運営するチャレンジショップ「吉商本舗」の力で、アフリカ・マラウイに「自発的カウンセリングHIV検査(VCT)センター」が設立されることになった。
 フェアトレードの収益金や、市民からの寄付金で建設資金を集めた。同センターは六月末に完成する予定で、国民の14%がエイズに感染している同国のエイズ対策に一役買いそうだ。
 吉商本舗がマラウイの支援を開始したのは平成十八年九月。顧問の若園耕平教諭がJICAの青年海外協力隊の研修で同国を訪れたことがきっかけだった。エイズで年間八万人以上が命を落としている同国。親が死に、生活費もままならない子供も多い。この現状を目の当たりにした若園教諭は、現地の子供が作った民芸品を販売し、利益を生活向上に役立ててもらう「フェアトレード」を思い立った。
 生徒らはビーズアクセサリーなどを吉商本舗で販売し、原価を現地に送金。利益は積み立てて建設資金に充てた。目標には若干、足りなかったが、文化祭などで同国について紹介したこともあり、活動に賛同した市民から善意が寄せられ、二十万円に到達した。
 同センターは感染予防や、二次感染を防ぐため、エイズ検査やカウンセリングなどが無料で受けられる施設。県病院の前に建設され、現地ボランティアの手で運営されることになった。エイズについて学びたいという子供が多く、重要性を認識されながらも、資金不足で建設できなかったため、JICAマラウイ事務所の諸永浩之次長も「日本の多くの人がエイズに関心を持ち、協力してくれた。子供たちも喜んでいる」と感謝する。
 生徒らはこのほど、名古屋市のJICA中部でテレビ会議システムを利用して現地と通信し、贈呈式を行った。現地の子供からは「ありがとう」と感謝の言葉を受け、歌のプレゼントもされた。
 吉商本舗の杉森理美部長(三年)は「多くの子供を救い、マラウイに笑顔が増えてほしい」と期待を込める。吉商本舗は今後もフェアトレードを続け、同センターの維持費を集める計画だ。
 ※内容、表記などすべて掲載日時点
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