知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

熱海土石流 行政側に多くの不手際指摘

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害を巡り、静岡県と熱海市の行政対応の在り方を検証していた第三者委員会が中間報告をまとめました。行政側のさまざまな不手際を指摘したものの、「大規模崩落は予想できなかった」との結論を示しました。人災とも言われる災害の発生原因や責任の所在にどこまで踏み込んだのでしょうか。関連する記事をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・尾原崇也〉

土地所有者の変遷、人事異動…現場の危機感にほころび

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害を巡り、静岡県と市の行政対応の在り方を検証する第三者委員会(委員長・青島伸雄弁護士)は28日、中間報告書を公表し、源頭部の盛り土崩落について、「県と市は危険性を認識していたが、大規模崩落の予想はできなかった」との結果を示した。ただ、熱海市の内部検証が完了していないため、県土採取等規制条例や森林法に基づく対応の検証結果は盛り込まれなかった。

熱海土石流災害を巡る行政対応検証の中間報告骨子
熱海土石流災害を巡る行政対応検証の中間報告骨子
 会合後に記者会見した青島委員長の説明や報告によると、県と市は前土地所有者によるずさんな施工状況を現認し、崩落の危険性については共通認識があったが、昨年7月に発生したような大規模崩落を予想した関係者はほとんどいなかった。
 中間報告は、2011年2月に土地所有者が変わって土砂搬入が一段落したことや、のり面の緑化の進行、人事異動で後任者への引き継ぎが不十分だった点を挙げ、「現場を注視する姿勢が急激に薄れていった」と指摘。青島委員長は「残土がそのまま放置された状況の現場で、大規模崩落の危険性を想像できなかったことは誠に残念」と強調した。
 三者委は河川管理者としての県の対応も検証した。逢初川源頭部は河川法上、行政による行為制限の区域ではないが、盛り土が撤去されなかったことに関して「県と市の関係部署が連携して対応すべきだった」との考えを示した。
 検証は県と市が公開した行政文書や職員への聞き取りを中心に実施した。盛り土が造成された源頭部のみを対象として、隣接する宅地造成地などは含まれていない。
 中間報告を受け、難波喬司副知事は「県の対応として十分でなかった点が多々あり、残念。内容を精査して対応したい」と述べた。熱海市の金井慎一郎副市長は市の内部検証を4月中に完了させるとした。三者委は5月以降、最終報告書をまとめる。
 〈2022.3.29 あなたの静岡新聞〉

多くの結論は先送り 熱海市の作業に遅れ

 熱海市伊豆山の大規模土石流で、静岡県や同市の行政手続きのあり方を検証している第三者委員会。28日に開かれた第3回会合では、同市による内部調査が遅れていることが影響し、県土採取等規制条例など多くの個別具体的な検証結果の報告は先送りされた。市の検証作業が完了し、委員会の最終報告が出るのは5月以降になりそうで、遺族からは早期の取りまとめとともに、災害防止などにつながる具体的内容の提示を求める声が上がった。

中間報告の内容を説明する青島伸雄委員長(右)=県庁
中間報告の内容を説明する青島伸雄委員長(右)=県庁
 県は2021年12月末の初会合時までに、検証結果の取りまとめ時期の見通しを21年度内としたが、熱海市の調査作業が復興や市議会が設けた百条委員会への対応のために遅れた。中間報告では、県土採取等規制条例や県風致地区条例、森林法に関する個別の論点に加え、県と熱海市の連携・協力体制に関する報告を「市の結果を踏まえて調整」として結論を持ち越した。
 金井慎一郎副市長は4月中を目標に作業を完了すると強調した一方、中間報告への受け止めについては「市の結果が出せていないので感想は差し控える」と述べるにとどめた。
 第三者委員会の青島伸雄委員長は最終報告書の取りまとめに向け、「事情は聞いているが、なるべく早くとお願いしている。おそらく(検証作業の)メインはこれからになる」と捉えた。
 遺族、被災者でつくる「被害者の会」会長で、母の陽子さん(77)=当時=を亡くした瀬下雄史さん(54)=千葉県=は、中間報告で県と市の連携不足や縦割り行政の弊害が浮き彫りになったとして「不作為を認めたと言えるのでは」と一定の評価を示した。
 県の公文書では、住民の生命財産に危険が及ぶ可能性があるとの認識を市と共有していたことが記されている。瀬下さんは「危険の原因排除が難しかったのであれば、住民にリスクを周知すべきだった」と改めて憤り、市には「復旧復興計画の前提に今回の検証があるはず。地域の安全安心を確保するため、しっかりとした検証結果を早く出してほしい」と強く要望した。
 〈2022.3.29 あなたの静岡新聞〉

盛り土、全国1000カ所で不備 大雨で崩落の危険性

 政府は28日、全国を対象とした盛り土総点検の最終結果を公表した。1089カ所で不備が確認され、うち516カ所では必要な災害防止措置が確認できなかった。大雨などで崩落する危険性もあるため、各自治体が詳細な調査を実施し、法令に基づく是正を求める。

 総点検は熱海土石流被害を受け、自治体職員が主に目視で点検。3月16日時点で、調査対象の99・9%となる3万6310カ所で完了した。
 不備はほかに「廃棄物の投棄などが確認された」のが142カ所。「許可・届け出などの手続きがとられなかった」のが728カ所、「手続き内容と現地の状況に相違があった」のが515カ所だった。
 〈2022.3.28 あなたの静岡新聞〉

盛り土とは

 宅地や道路整備などで斜面を平たんにしたり、谷や沢を埋めたりする工事。別の建設現場で出た残土処理のために土を盛る場合もある。地盤の状況によっては、大雨や地震で崩れ落ちないよう土地を支えるコンクリートの擁壁や、雨水の排出設備といった対策が必要になる。昨年7月に発生した熱海市の土石流では、不適切な盛り土造成が被害を拡大させたとされる。政府は3月、違反法人に最高3億円の罰金を科すなど厳罰化した盛り土規制法案を閣議決定した。

 〈2022.3.29 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞