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「ほうじ茶の香りがするまち」に 富士市、ブランド化へ取り組み加速

 すっきりとした味わいと香ばしい風味が特徴のほうじ茶。茶葉を強火で炒ることで苦みや渋みが和らぎ、飲みやすいと近年注目を集めています。富士市では、市内の茶農家や飲食店などと幅広く連携し、ほうじ茶の魅力向上に努めています。富士市のほうじ茶ブランド化に向けたこれまでの動きを1ページにまとめます。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・安達美佑〉

富士宮の醸造所、ほうじ茶ビール開発 今後最高級茶で挑戦

 富士宮市大鹿窪のクラフトビール醸造所「フジヤマハンターズビール」が富士市産のほうじ茶を使用した「富士のほうじ茶ビール」(税込み730円)を製造した。全国の取扱店にも好評で、ほうじ茶の香りのするまちを目指す、地域や農家の盛り上げに協力する。

地域の盛り上げに役立てようと生産した富士のほうじ茶ビール=富士宮市大鹿窪
地域の盛り上げに役立てようと生産した富士のほうじ茶ビール=富士宮市大鹿窪
 富士市がほうじ茶のブランド化を図る中、利活用促進に取り組む市内の商店主らからのラブコールに応え、これまでも紅茶や番茶を使ったビールを得意としてきた深沢道男代表が初めてほうじ茶のビールを手掛けた。
 麦汁の煮沸過程で茶葉をそのまま添加したほか、香りを残すため発酵段階でも茶葉を入れた。2月下旬に出来上がったビールは香ばしい香りと甘いを風味があり、ほうじ茶に似た琥珀(こはく)色をしている。深沢さんは「派手さはないが、どこかホッとする日本らしい味に仕上がった」と表現した。
 初回は缶ビール約700本分を生産し、在庫は無くなりつつある。今後、富士市の農家が生産する最高級ほうじ茶「凜茶」を使って醸造を試みる。同醸造所やネット通販で購入できる。
 〈2022.3.13 あなたの静岡新聞〉

富士市、21年6月「ほうじ茶宣言」 認知度向上へ

 富士市の小長井義正市長は3日(※2021年6月)の定例会見で、同市産の茶葉を使ったほうじ茶を積極的に展開する「富士市ほうじ茶宣言」をした。市内の茶農家や飲食店などが幅広く連携して認知度向上を図り、「ほうじ茶の香りがするまちを目指す」と宣言した。「富士のほうじ茶」として、地域団体商標の登録申請も進める方針。

富士市ほうじ茶宣言に伴い、共同開発商品を発表する茶農家の山田さん(中央)と企業代表者=富士市役所
富士市ほうじ茶宣言に伴い、共同開発商品を発表する茶農家の山田さん(中央)と企業代表者=富士市役所
 同市は、低迷する茶産業の活性化のため、茶産地としては珍しいほうじ茶のブランド化を2020年度から開始。茶農家自らが製茶や火入れをする最高品質のほうじ茶の製品化に取り組んできた。
 中核を担う特製のほうじ茶は、一番茶の茎のみを時間をかけて選別し、浅いりと深いりの茶葉をブレンドして香りが豊かな最高品質に仕上げた。「凜茶(りんちゃ)」と銘打ち、夏用の水出しほうじ茶と合わせて8月に販売する。
 凜茶を使った地元企業との共同開発商品も発表した。富士宮市の富士高砂酒造は香りを生かしたリキュール「ほうじ茶スピリッツ」を6月中に販売開始。富士市の「MID」は味と香りを20倍濃縮し、水や酒で割って楽しめるリキッド「優茶(ゆうちゃ)」の販売を始めた。
 今後、富士市産のほうじ茶を使った「ほうじ茶グルメ」や菓子の開発などを進める。
 JA富士市茶レンジャーほうじ茶部会の山田典彦さん(44)は「多くの方に参画していただき、ほうじ茶を通じ、茶産業だけでなく地域全体の活性化につながれば」と話した。
 〈2021.6.4 あなたの静岡新聞〉

茶価低迷打破へ 起死回生に向けた異例の挑戦

 富士市の製茶機メーカーの倉庫に、焙煎(ばいせん)した香ばしい茶が薫る。「一番茶はやはり格段に香りがいい」。ほうじ茶開発に向け、火入れで色付いた茶葉の見た目や香りを吟味する若手茶農家に笑顔が広がった。

火入れ機を使って仕上がりの違いを確かめる若手茶農家=富士市中里
火入れ機を使って仕上がりの違いを確かめる若手茶農家=富士市中里
 茶産業の起死回生に向けて市は新年度(※2020年度)、若者中心に人気が高まるほうじ茶のブランド化を始める。国の地方創生推進交付金を活用し、当初予算案に約600万円を計上した。初年度は製品開発支援や市場調査、試験販売に取り組み、21年度に本格販売を目指す。全国の茶産地で自治体を挙げてほうじ茶のブランド化に取り組む事例はない。意欲ある農家との協働で最上級のほうじ茶の特産化に挑む。
 同市は茶産出額県内7位の隠れた茶どころ。しかし、他地域より一番茶の出荷が遅れるため、価格は県内平均額より格段に安い。深刻な茶価低迷で15年の作付面積はピークだった1990年の6割にまで減少。「もはや生活できないレベル」(市担当者)に下がった19年春の一茶価格が挑戦を後押しした。
 高品質の煎茶を追求する茶産地では番茶を加工するほうじ茶は軽視されてきた。だが、縮む煎茶市場に対し、ほうじ茶市場はこの10年間で3倍以上に拡大した。市担当者は「県民には意外だが、全国ではほうじ茶を飲む地域の方が多い」と指摘し、入れ方が簡単でスイーツなどの商品展開も広がるほうじ茶の可能性を強調する。
 お茶教室開催などで消費拡大に自主的に取り組んできた同市の若手茶農家グループ「茶レンジャー」の山田典彦さん(42)も「お客さんが喜び、収入につながるのであれば、何でも挑戦する」と前向きに捉える。海外市場も視野に仲間と協議を重ねる。
 茶を知り尽くした農家が自ら加工に携わり、地元の茶葉と機械で仕上げた産地ならではの最上級品の生産がブランド確立の鍵。富士ならではの特徴を出せるかが課題となる。
 日本や静岡の象徴とされる富士山と茶畑の絶景。富士市が誇る景色を維持できるか、この挑戦が命運を握る。
 〈2020.2.15 静岡新聞朝刊〉

フィナンシェに「富士のほうじ茶」使用 プロレスラー近藤さん

 富士市出身のプロレスラー近藤修司さん(44)が地元にオープンしたフランス由来の焼き菓子フィナンシェの専門店「バターブラザーズ」(同市国久保)が、人気を博している。近藤家の次男修司さんと、地元で美容院を営む三男孝幸さん(38)が強力タッグを組み、洋菓子の世界でも輝きを放つ。

フィナンシェ店を地元でオープンしたプロレスラー近藤修司さん=富士市国久保
フィナンシェ店を地元でオープンしたプロレスラー近藤修司さん=富士市国久保
 近藤さんは「キングコングラリアット」を武器に、複数の団体で活躍してきた。現在は無所属で「ドラゴンゲート」や「DDT」の試合に出場する。
 年齢を重ねる中で事業運営を考え、洋菓子で成功する友人に相談。フィナンシェを勧められ、孝幸さんを誘って2021年10月に開業した。近藤家が協力して店を切り盛りする。
 十分焦がしたフランス産発酵バターを入れた焼きたての香ばしさが売り。表面のサクサク感としっとりした生地が好評で、プレーンとショコラの通常商品のほか、抹茶やほうじ茶、キャラメルサンドなど曜日別商品もある。ほうじ茶は富士市がブランド化を目指す「富士のほうじ茶」を使用。13日までの限定商品「苺の富士さん」は、酒が飲めず、甘党の修司さんが好物の富士産イチゴを使った。
 地元愛は強く、「静岡や富士を代表し、東京にラリアットをかますつもりで乗り込んだ」という2月の都内大手百貨店のイベントでも手応えを得た。
 「プロレス団体の副社長経験も経営に生きている」と話す修司さんは「アントニオ猪木のような絶対的エースのプレーンがあるから、個性あるラインアップが通用する」と味に自信を見せる。今後は夏に向けバターを使った新商品の開発も検討する。
 〈2022.2.12 あなたの静岡新聞〉
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