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地元の”生命線” 浜松「原田橋」崩落から7年

 浜松市天竜区佐久間町の天竜川に架かる国道473号「原田橋」の崩落から、1月31日で7年が経過します。発生から5年後の2020年には新たな橋が完成し、地域住民は地元の”生命線”とも言える橋の重要性を改めて実感しています。事故当時の様子やこれまでの経緯を振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・安達美佑〉

新橋は佐久間の“生命線” 重要性実感

 浜松市天竜区佐久間町の天竜川に架かる国道473号「原田橋」が土砂崩れで崩落し、市天竜土木整備事務所の職員2人が亡くなった事故から31日で7年。発生から5年後の2020年には新たな橋が完成し、地域住民は地元の“生命線”とも言える橋の重要性を改めて実感している。

2020年2月に開通した新たな「原田橋」。周辺では道路の拡幅などの工事が進む=30日午後、浜松市天竜区佐久間町
2020年2月に開通した新たな「原田橋」。周辺では道路の拡幅などの工事が進む=30日午後、浜松市天竜区佐久間町
 旧橋の崩落後、河川敷に仮設道路が整備されたが、大雨による増水や佐久間ダムの放流でたびたび通行止めとなった。住民は迂回(うかい)時、JR飯田線や林道を利用した。ただ、鉄道は1~2時間に約1本の運行間隔。橋を通れば約10分の道のりも、林道では50分ほどかかった。
 町が東西に分断された影響は、通勤・通学以外にも産業や医療など広範囲に及んだ。天竜商工会佐久間支所によると、高齢の牛乳配達員が廃業したり、そば店の来客が減少したりするなどの影響があったという。佐久間町森林組合では、最長で20日ほどにわたった仮設道路の通行止めの影響などで、木材の運搬に支障をきたした。
 医療面では本来、地元の国民健康保険佐久間病院で対応可能な救急患者が、遠方の市街地の病院まで搬送されるケースがたびたびあった。三枝智宏院長(58)は「患者さんを世話する家族の方々も往来に苦労されていたようだ」と振り返る。5年の月日を経て開通した新橋を「本当に待望の橋」と表現する。
 原田橋の西側、浦川地区に住む天竜商工会佐久間支部の笹野訓子支部長(65)は「橋の存在の大きさを思い知った」と回想する。対岸の病院や高校、協働センターまでは迂回路を通らざるを得ない場合も多く、住民はさまざまな不便に直面した。現在は「大雨でも普通に通勤できるようになって良かった」と実感する。新橋の周辺では、道路の拡幅などの工事が進む。笹野支部長は「付近の道路と接続して、さらに便利になれば」と期待する。
 〈2022.1.31 あなたの静岡新聞〉

​山崩れで橋崩落 落石調査中だった浜松市職員2人死亡

 31日(※2015年1月)午後5時10分ごろ、浜松市天竜区佐久間町川合の国道473号のつり橋「原田橋」付近で土砂崩れが発生し、天竜川に架かる同橋が川に崩れ落ちた。橋の上に車を止めて作業していた、いずれも市天竜土木整備事務所職員の男性(57)、男性(45)が崩落に巻き込まれた。2人は近くの市立佐久間病院に搬送されたが、約2時間後に死亡が確認された。

土砂崩れで崩落した直後の原田橋と転落した乗用車=31日午後5時20分ごろ、浜松市天竜区佐久間町
土砂崩れで崩落した直後の原田橋と転落した乗用車=31日午後5時20分ごろ、浜松市天竜区佐久間町
 天竜署によると、2人の死因は落下の衝撃で、胸などを強く打ったことによる外傷性血気胸とみられる。57歳男性職員は車内で、45歳男性職員は車から約8メートル離れた場所で発見された。2人は写真を撮るなど崩落前に起きていた落石など山の斜面の状態を確認していたという。
 同署によると、山の斜面が幅約50メートル、高さ100メートルにわたって崩落した。原田橋は50年以上前に架けられ、老朽化のため通行規制中だった。長さは約140メートル、幅約5・5メートル、川からの高さは約20メートルで、土砂崩れの衝撃で橋を支えるワイヤごと崩れ落ちた。その後も断続的に崩落が続いているとみられる。架け替え中の南側の新橋も一部損壊した。
 同署によると、同日午後2時15分ごろ、交通整理していた警備員が断続的に細かい石が道路上に落ちるのを確認したため、同署に通報した。現場付近は午後2時45分に通行止めにしていた。
 現場はJR飯田線中部天竜駅から西に約1キロ。佐久間ダムに近い、愛知県境付近の山間部。

 ■市幹部沈痛「優秀な職員」
 浜松市によると、死亡した職員2人は、31日は非番だった。現場の警備員の通報を受けて、急きょ出勤し、状況を確認するため現地に向かった。午後4時20分ごろ、職場の市天竜土木整備事務所に通行止めを継続すると電話をしてきたのが最後の連絡となった。
 57歳男性職員は職場の取りまとめ役。45歳男性職員は落下した橋に代わる新しい橋の建設を担当し、民間業者との折衝に当たっていた。
 事故を受けて市役所では土木部の職員らが登庁し、情報収集など対応に追われた。午後9時半から緊急記者会見を開いた朝倉義孝土木部長は、公務中の職員2人の死亡に「2人とも現場の事務所の先頭に立って保全・管理に当たり、大変優秀な職員だった。このような形でなくしたことは残念でならない」と沈痛な表情で話した。
 落橋の原因については「旧橋の老朽化は考えにくい」とし、「これだけの崩土は想定しておらず、落橋は予想できなかった」と述べた。
 〈2015.2.1 静岡新聞朝刊〉

地域の“足”難渋 通勤や救急搬送

 浜松市天竜区佐久間町の国道473号のつり橋「原田橋」が土砂崩れで崩落し、市職員2人が死亡した事故で、会社や学校が始まった週明けの2日(※2015年2月)、現場付近の通行止めで生活道路が分断され、地域住民の通勤・通学などに大きな影響が出た。消防などの公共機関も臨時の対応を迫られている。

電車利用客が増え、通勤者らが集まる改札口=2日午前7時45分ごろ、浜松市天竜区佐久間町のJR飯田線中部天竜駅
電車利用客が増え、通勤者らが集まる改札口=2日午前7時45分ごろ、浜松市天竜区佐久間町のJR飯田線中部天竜駅
 市消防局は同日までに、原田橋西側の川合、浦川両地区などで火災や救急事案が発生した場合、天竜消防署佐久間出張所でなく、同市北区の北消防署から出動する体制を決めた。橋東側の同出張所から迂回(うかい)路を利用すると通常10分程度の移動に約2時間半もかかるためだ。北消防署引佐出張所からは40分程度だという。
 応援協定に基づき、隣接する愛知県の新城市消防本部にも協力を要請。最寄りの新城消防署東栄分署(同県東栄町)から両地区まで20分ほどで駆け付けることができるという。
 橋の東側に位置するJR飯田線中部天竜駅は同日朝、車通勤の代わりに電車で出勤する住民で混雑した。普段は車で病院へ出勤する川合地区の女性(42)は「これまでより早く家を出る日が続く」と困惑した表情で話した。
 一方、原田橋周辺は依然として斜面の状態が安定せず、落石などが続いて現場に近寄れないことから、浜松市は同日、ヘリコプターや小型無人機を使って上空からの監視を続けた。
 〈2015.2.2 静岡新聞夕刊〉

崩落から5年 2020年に原田橋開通

 浜松市天竜区佐久間町の国道473号原田橋が29日(※2020年2月)、2015年1月に発生した土砂崩れによる旧橋の崩落事故から5年を経て開通した。天竜川を挟んで二分されていた地域を一つに結ぶ住民待望の交通路。橋のたもとの同町川合地区では開通式典が開かれた。

開通となった原田橋=29日午後、浜松市天竜区佐久間町(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
開通となった原田橋=29日午後、浜松市天竜区佐久間町(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 行政関係者や住民代表者、旧橋の崩落事故で命を落としたいずれも市職員の男性=当時(57)=と男性=同(45)=の遺族ら約70人が出席した。冒頭で、亡くなった2人に対して一同が黙とうをささげた。鈴木康友市長は、同町などで昨年3月に整備された三遠南信自動車道佐久間道路の効果で地域の交流人口の増加が見られることに触れ、「原田橋は佐久間川合インターチェンジへのアクセス道路。地域の発展、活性化に機能してほしい」と述べた。
 57歳男性職員の妻(54)は、娘2人とその子どもらと参加。式典後の渡り初めで200メートル下流の旧橋崩落現場に向かって手を合わせ、「本当の意味でお疲れさまと伝えた」と涙を流した。
 午後4時ごろに開通すると、多くの車が行き交った。道路との接続部分の工事が続くため片側交互通行での供用開始となったが、年度内に2車線通行が可能になる。
 新しい原田橋は長さ284メートル、幅員8メートル。歩行者や自転車は1メートル幅の路肩を通行する。

 ■住民、地域再興へ前向き
 開通した原田橋は、天竜川の増水で度々通行止めが行われてきた河川敷内の仮設道路に代わって町の東西を結ぶ基幹道路となり、通院や通学、介護福祉サービス、救急・災害対応など生活基盤に安定をもたらす。橋のない5年間の苦労で心が沈んでいた住民からは、地域再興に向けた前向きな声が上がった。
 「地域の利便性が一気に向上した」。同町川合地区に住む山下邦敏さん(68)は、さっそく車で橋上を走った。同地区は学校や医療・介護の拠点が天竜川対岸にあり、仮設道路の通行止めに悩まされてきただけに喜びもひとしお。「新橋開通で子育て世代の移住があればうれしい。橋の効果を最大限生かすために、みんなでまちづくりの工夫も考える必要がある」と指摘する。
 原田橋と三遠南信自動車道佐久間道路を使えば、広い範囲の通勤が可能になる。佐久間地区自治会連合会の高氏秀佳会長(69)は「UIターンの増加、北遠に人の往来が増えることによる経済活性化など、よい流れを引き寄せていきたい」と言葉に力を込めた。
 〈2020.3.1 静岡新聞朝刊〉
地域再生大賞