回顧2021⑦ ⚽ジュビロ磐田 J1復帰
■圧倒的な強さ チーム支えた力は
3季ぶりのJ1復帰とJ2優勝を決めたジュビロ磐田。ベテランや若手、ベンチが一体となってチーム力を発揮し、ファンを沸かせました。一方、来季のJ1を戦う上で「世代交代」が急務です。昨シーズンのプレーを振り返るとともに、J1復帰後の課題を追います。
※夜の〈知っとこ〉は1月4日まで連日、「回顧2021」をお届けします。2021年の重大ニュースをぎゅっとまとめて振り返ります。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉
水戸戦で昇格決める ベテラン遠藤加入で「負けない集団」に
サッカーJリーグ2部(J2)は14日(※11月)、茨城県のケーズデンキスタジアム水戸などで第39節7試合を行った。首位のジュビロ磐田は、水戸ホーリーホックを3|1で下し、勝ち点を86に伸ばして1部(J1)自動昇格圏の2位以上が確定。2019年以来3季ぶりのJ1復帰を決めた。
磐田はJ1昇格を決めた一戦でも、試合巧者ぶりを発揮した。前半12分、遠藤保仁のコーナーキックから、大井健太郎が先制点を奪うと、15分に大森晃太郎の今季初得点でリードを広げた。後半6分はルキアンが今季22点目で突き放した。その後の相手の反撃をオウンゴールによる1点に抑え、4連勝につなげた。
元日本代表MF遠藤の獲得が、チームを好転させた。昨年10月、J1ガンバ大阪から期限付き移籍で加入後、9勝6分け3敗と追い上げた。1年目のJ1復帰はならなかったが、今季も磐田に残留しチームの再建へ、プレーで引っ張った。
昨秋、16年ぶりに復帰した鈴木政一監督はミーティングで選手に「戦い方やスタイルを貫こう」と言い続けた。ボールを保持しながら、相手を崩して得点を狙う。かつての黄金期のような戦いが果たしてできるのか、開幕から2連敗し、チームに不安が漂った。さらに3月、遠藤が足首の負傷で離脱。暗雲が漂う中、遠藤不在の試練を一丸で乗り越え、4月に4連勝を果たした。
遠藤が先発復帰し、5月15日のザスパクサツ群馬戦で前人未到の24年連続ゴールを決めると波に乗った。盤石の態勢が整い8連勝。東京五輪開催による中断期間でチームはさらに成熟し、8月9日の甲府戦から16戦不敗と「負けない集団」に変わっていった。
ただ、圧倒的な強さを見せてきたわけではない。今季26勝のうち、1点差勝利は18試合。「状況に応じ、いい判断をみんなで共有できるようになった。90分間を通して慌てず、最後に勝っていればいいと思えるようになった」と遠藤。日本代表で152試合、Jリーグで700試合以上と歴代最多出場。百戦錬磨の遠藤の経験を最大限に生かした新生磐田が、名門復活への扉をこじ開けた。
〈2021.11.15 あなたの静岡新聞〉
8連勝! シーズン初首位で折り返し
明治安田J2リーグは3日(※7月)、エコパなどで10試合が行われ、磐田は新潟を3-2で振り切り、8連勝で勝ち点47として今季初の首位に立った。
【評】前半に3点を奪った磐田が新潟の反撃を断ち切った。
前半5分、ルキアンのヘディングはバーをたたいたが、ここから決定機を量産。6分に松本が先制点を決め、18分は左クロスをルキアンが合わせ、32分はFKの流れから森岡が決めた。36分の大津のシュートはポストをたたいた。
後半34分、DFのハンドで与えたPKを決められた。45分にもゴールを許し、新潟に1点差まで詰め寄られたが、しのぎきった。
■攻撃さえ渡るも、終盤に失点
磐田が前半戦の締めくくりで新潟に快勝し、8連勝で首位ターンに成功した。前半6分、左サイドの展開から先制点が生まれた。ドイツ1部シュツットガルトへの期限付き移籍が決まったDF伊藤の縦パスに抜け出したMF松本が右足で狙い澄まして逆サイドのネットを揺らした。
「今季は左サイドで組むことが多かったし、プライベートでも仲が良かった。気持ちよく送り出したかった」と松本。磐田の“ラストマッチ”になった伊藤からのパスに、シュートへの迷いはなく、3月21日の京都戦以来17試合ぶりゴールをはなむけにした。
磐田は先制した後もしっかり守りながら、手数をかけない攻撃がさえ渡った。前半18分、速攻からMF大津の左クロスにFWルキアンが合わせ、5月29日の金沢戦以来5試合ぶりとなる今季11ゴール目。32分はFKから大津のシュートがゴール前に流れ、DF森岡がプロ初得点を決めた。
後半34分にPKで失点し、連続無失点は7試合で途切れた。45分にも失点した。DF大井がけがで欠場し、MF遠藤が途中で退いてからの2失点は課題を浮き彫りにさせた。伊藤が抜けた穴を誰が埋めるかなども含め、磐田は後半戦で逃げ切ることができるか。
〈2021.07.04 あなたの静岡新聞〉
■好調支えるベンチ チームに一体感
J2磐田のJ1昇格が秒読み段階に入った。好調のチームを支えているのはベンチの雰囲気。前回J1昇格を果たした2015年も在籍したGK八田直樹(35)とDF小川大貴(30)がその中心になっている。2度目のJ1復帰への強い思いを胸に秘め、ピッチに立つ選手を鼓舞する。
今季の八田は開幕から5試合に先発出場。だが、その間11失点と守備は乱れ、流れを変えるためチームはGK三浦を抜てきした。それでも八田は練習からムードメーカーとしての役目を忘れず、甲高い声を張り上げる。「ずっとやってきたこと。いまさらやめられない」。ユース時代から磐田一筋20年。どの立場でもチームに貢献する姿勢は、若手の手本となっている。
小川大は開幕から4試合に先発したが、3月21日の京都戦で決勝ゴールを決めた際に右大腿(だいたい)を負傷。7月に復帰後は先発を奪回し、9月11日の千葉戦で得点も奪ったが、最近は途中出場が続く。それでも、「自分も育成(ユース)出身。ジュビロの血を受け継がなければならないし、(先月に)30歳になってさらにそういう役目も意識している。まずはチームのJ1昇格。その後に(個人的に)高みを目指したい」と話す。
19年に2度目のJ2降格が決まった瞬間は、ピッチ上で涙をのんだ両選手。あの悔しさを晴らすために必要なのは、チームの一体感だということを身に染みて感じている。
〈2021.11.06 あなたの静岡新聞〉
優勝の立役者 得点王ルキアン
J2磐田のFWルキアン(30)が、得点王に向かって順調にゴールを重ねている。ここまで33試合20得点のハイペースでゴールを量産。得点ランキング2位に3点差としている。
好調の要因について、MF松本は「練習がすべて。手を抜くことは一切ないし、今季は味方の選手(の特長など)を理解しようとしている」と話す。MF山本康は「昨年はけがをして苦しい思いをしたが、今季は献身的なプレーが感じられる。チームのためにという気持ちが結果につながっているのでは」。そうした姿を見せることで、試合でルキアンにボールが集まる。
次節17日の栃木戦では7試合連続ゴールが懸かる。過去4人が達成したJ2記録と、2002年のFW高原直泰(沖縄SV)のクラブ記録へ。DF伊藤は「まじめな選手。彼なら次も取れると思う」と期待を寄せる。過去2戦4得点と最も得意としている栃木戦で、磐田のエースが偉業に挑む。
〈2021.10.15 あなたの静岡新聞〉
■才能開花 徹底した自己管理
サッカーJリーグ2部(J2)優勝を28日(※11月)に決めたジュビロ磐田。この日はゴールを奪えなかったが、“タイトル”獲得の原動力となったのはリーグ最多22得点を挙げたブラジル人FWルキアン(30)だ。「少年時代は決して裕福ではなかった」。家族を楽にさせようと必死に練習し、プロになった。持ち前のハングリー精神で、来日3年目に点取り屋としての才能を開花させた。
昨年11月、首に違和感を覚えたルキアンは検査の結果、頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアと診断され、手術を受けた。昨季、1年でのJ1昇格を逃したクラブは厳しい財政事情もあり、ルキアンに対し「数カ月の契約延長」(クラブ関係者)を打診。ルキアンに代わるストライカーの獲得も同時に進めた。
回復の見通しが立たず、その条件を受け入れたルキアン。19年夏に磐田に加入したが、チームはJ2降格。昨季もJ2で6位に終わった責任も痛感していた。ブラジルに戻って懸命のリハビリを続け、2月の春季キャンプ中にチームに合流。開幕戦に間に合わせ、3~4月に5戦連発。9~10月は6戦連発とゴールを量産した。
好調を維持するために、自己管理を徹底した。フィジカルコーチや栄養士と契約。ブラジルのクラブ時代のチームメートが営むメンタルトレーニングも取り入れ、毎試合前日にオンラインで講習を受けた。相手のラフプレーや審判の判定に対し、感情の起伏が激しかったかつての姿は見られなくなった。「試合だけでなく、日々の練習への向き合い方など、自分自身に変化を感じている」。チームへの忠誠を誓い、ハードワークに徹した。
〈2021.11.29 あなたの静岡新聞〉
J1定着へ 世代交代、若手奮起が鍵
「強いジュビロを取り戻す」。2002年に第1、2ステージ制覇を成し遂げた鈴木政一氏が昨季終盤、16年ぶりにジュビロ磐田の監督に復帰した。当時のメンバーを参謀に据え、服部年宏ヘッドコーチに守備を、中山雅史氏には攻撃で助言を求めた。主将の大井健太郎は「服部さんや中山さんが発する言葉の重みが違った」と言う。組織が一丸となり、同じ方向を向いた。
経験豊富な選手を中心とした組織の力で勝ち取ったJ2優勝だったが、このままでJ1に生き残ることは難しいだろう。J1は個人の能力の高さがJ2とは歴然として違う。18年8月のヴィッセル神戸戦で、元スペイン代表MFイニエスタの個人技に屈し、来日初ゴールを許したことは記憶に新しい。
鈴木秀人強化部長は「(年俸などが)高い外国人を獲得しても、環境になじめなかったり、性格の問題などでチームに合わなかったりなど不確定要素が多かった」と話す。ここ数年の補強がうまくいかなかったことも踏まえ「日本人を鍛え上げ、それでも足りないところを外国人で補うようにしていかないと」と育成に力を入れる方針だ。さらに「他のチームに出して経験を積ませるケースをもっと増やしたい」と考える。
13年にクラブ史上初めてJ2に降格した。16年に3季ぶりにJ1に復帰したが、わずか4年で再降格した。黄金期の残像を振り払う時期に来ている。現在の首脳陣やフロントの多くは、立場は違えどクラブの隆盛も低迷も味わってきた。J1定着、そして優勝争いへ、その経験をどうチームに還元できるかが問われてくる。
〈2021.12.01 【再生へ ジュビロ磐田 3季ぶりJ1㊥】より〉