「借用書」で閲覧限定 重要資料伏せ対策議論【大井川とリニア 第1章 築けぬ信頼②】

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の大井川直下で「高圧大量湧水の発生が懸念される」と記されたJR東海の非公表資料。従事する作業員の安全を確保する工程管理だけでなく、水の流れの予測にも役立つ。こうした重要資料が表に出ない経過をたどると、JRが静岡県や流域市町と信頼関係を築けない要因の一端が浮かぶ。

JR東海が静岡県に地質などの資料を提出した際に県と交わした借用書のコピー
JR東海が静岡県に地質などの資料を提出した際に県と交わした借用書のコピー

 ▶そもそも「大井川の水問題」ってなに?
 JR東海の金子慎社長が方針を転換し、トンネル坑内に湧き出す水の全量を大井川に戻す方針を初めて表明した直後の2018年10月下旬。段ボール箱10箱に入った膨大なJRの資料が県庁に運び込まれた。非公表の地質調査資料はこの中に含まれていたという。
 資料は、県が大井川の流量予測の根拠をただしたことに答えるためJRが用意した。段ボールの中身は図面や文書で、環境影響評価(アセスメント)で「毎秒2トン減少」とした流量予測のためにJRが用いた地質や河川流量などのデータが記されていた。だが、JRはこの資料の取り扱いについて、県に厳密な条件を付けた。
 「資料は第三者への譲渡および提供はしない」
 JRの意向に従って県が用意した文書にその条件が記されていた。文書のタイトルは資料がJRの物であることを示す「借用書」。県の関係者に“閲覧”は限られ、8カ月間貸与された。
 JRとやりとりした県の稲葉清環境政策課長(当時)は「JRの担当者から、外部に公表しないでもらいたいのでサインがほしい、と求められた」と明かす。稲葉氏は公表すべきだと考えたが「資料の所有者はJRなので、条件をのむしかなかった」と振り返る。
 その後もJRは資料に記した大井川直下の地質や大量湧水の可能性を説明することはなかった。県側は対策の議論で論点が絞られてくれば、JRが資料の内容を説明するだろうと考えていたが、その機会は訪れなかった。
 川勝平太知事は昨年9月の記者会見で「いろいろな専門家、隠れた知識人の意見を聞くためにも公表した方がいい」と述べたが、借用書の条件に沿って資料は既に返却されていて、踏み込んだ対応は取れなかった。
 稲葉氏は県とJRの水問題を巡る協議の難航を「JRが当初から(資料を)オープンにして県民の信頼を勝ち取るつもりで取り組めば、ここまでこじれなかったはずだ」と指摘する。
 JRの担当者は非公表資料について「試算の根拠を県が確認するため(県有識者会議の)関係者に限定して貸し出した」とし、公表しない理由を「説明すべき必要な資料は国や県の有識者会議に出している」と答えた。
 水問題の対策を議論する国土交通省の専門家会議で今年7月、大東憲二委員(大同大教授)は大井川直下でのトンネル工事の影響について、楽観的とも思える見解を示した。
 「よほど断層破砕帯が連なっているか、よほど透水性の良い地層が連なっていない限りは(表流水に)ほとんど影響ない」
 水に関する重要な情報が伏せられたまま「科学的」な議論が進んでいる。

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