大自在(9月17日)リメーク

 「源氏物語」序盤の「夕顔」は中秋の名月ごろが舞台だ。17歳の光源氏は隠れ家に夕顔を連れ出し、覆面を取って「どうだ、いい男だろ」という内容の歌を詠む。夕顔は小声で「近くでみると大したことないわね」と返す。
 夕顔の本心は逆なのだが、当意即妙に光君は心奪われる。恋は夕顔が一枚上手。その夜、光君の枕元に美しい女の姿でもののけが現れ、夕顔が怪死する展開は名場面の一つ。
 作家角田光代さんはこの大作の現代語訳(2017~20年、池沢夏樹編・日本文学全集)に、最初は乗り気でなかったと明かしている。角田源氏が読みやすいのは、潤一郎、寂聴ら先駆者のような「思い入れも愛もない」ことが奏功したようだ。
 後発のプレッシャーは宿命といえる。今月3日に83歳で旅立った浜松市出身の映画監督沢井信一郎さんなら、同郷の木下恵介監督(1912~98年)か。監督第1作「野菊の墓」(81年)は、高校時代に見た同じ原作の木下作品に「近づければいいと思って引き受け」「物まねにならないように気をつかった」(「映画の呼吸」)。
 主演は初めから松田聖子さんと決まっていた。前髪を垂らすヘアスタイルが大流行する中、初顔合わせの時に腹をくくって「おでこは見せますよ」と伝えた。厳しさあってこそ、数々の女性アイドルの魅力を引き出せたのだろう。
 古典の現代語訳や映画のリメークに通じるものが、自民党総裁選にも感じられる。本筋を損なわぬ一方で、どこでどう独自性を打ち出すか。言葉そのまま「大したことないね」とならぬことを。

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