大自在(12月10日)またアレか

 本欄も写真やイラストが使えればいいと、たびたび思う。ひと言で伝えるのが難しいモノやコトは少なくない。名前があっても案外知られていない。
 例えば「猫車」。工事現場で見る手押しの一輪車のことである。「手押し車」で分かるだろうか。「一輪車」では、子どもたちが遊ぶ車輪が一つの自転車と誤解されかねない。伝わるよう文脈を工夫しようか、くどくても丁寧に書こうかと悩む。
 猫が通るような細い「猫足場」を通り抜けるからだとか、ひっくり返すと体を丸めた猫のように見えるからとか、猫車の語源は諸説あるようだ。ちなみに、猫の口元の膨らみには「ウィスカーパッド」という名がある。ウィスカー(ひげ)に「肩パッド」のパッド。
 モノやコトに必ずしも名前があるとは限らない。必要だから名が付けられる。日本語学者の金田一秀穂さんはアイヌ語の「ビソイ」を例示する。熊の手の小指わき部分を指し、神に捧げる特別な部分だという(「ふしぎ日本語ゼミナール」)。
 名詞の繰り返しは会話でも文章でも煩わしく、「これ」「それ」「あれ」などをよく使う。プロ野球阪神の「アレ」は今年の新語・流行語大賞に選ばれた。普段親しい間柄で使う「あれ」だが、多くの人が何を指すかを共有し、一気に盛り上がった。
 自民党安倍派の政治資金パーティー疑惑は松野博一官房長官更迭に至り「またアレか」の思いだ。猫はふんをすると脚で砂をかけて知らん顔。自分たちで集めたとはいえ、収支不記載の理由にならない。答弁や発言の歯切れの悪さがいら立たしい。

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