五輪経験 仏で指導の女性 教育側面 考える好機に【町道場のいま~かわる柔道界~㊦】

 浜松市出身の橋本壮市選手(32)が男子柔道としては静岡県内初となる代表に選ばれ、活躍が期待されるパリ五輪。開催地のフランスで柔道に携わる県内出身の女性がいることを知り、どうしても聞いてみたいと思った。これからの日本の柔道には何が必要なのだろうかと。

フランスの道場で指導する佐々木光さん(提供写真)
フランスの道場で指導する佐々木光さん(提供写真)

 沼津市出身の佐々木光[ひかり]さん(56)は14歳で柔道を始め、女子柔道が公開競技として実施された1988年のソウル五輪で金メダルを獲得。引退後、2008年にフランスに渡り、週6日、複数の道場で指導にあたる。リモート取材に快く応じてくれた。
 まずフランスでは人によって道場に来る目的が違うという。指導するクラスの中には10歳から91歳までの生徒が通うものもあるが、投げたり投げられたりするのが楽しい10歳の子、試合で勝ちたい高校生、新しい技を覚えたい、黒帯を取りたいという30~40代…。同じクラスでも年代や人によって目標はさまざまだ。
 そんな違いを指導者も生徒も皆が当たり前に受け入れている。白帯の初心者が入ってくれば、分からないところをアドバイスしようと手を差し伸べる。そんな風に道場の中に社会が広がるのだという。
 「もともと日本の町道場でもいろんな年齢層が一緒に練習をしていたはず」。自身が柔道を始めたころを振り返って指摘する。
 一昨年夏の東京五輪で、柔道の創始者嘉納治五郎師範がメディアに取り上げられる機会が増えたが、それも教育者だったからこそ。いま一度、教育としての柔道の良さを考える好機だと、日本柔道界を見つめる。
 1対1で組み合う柔道。自分が強くなるためにはお互いが100%力を出し切る必要があり、そこに自他共栄の精神が芽生える。「お願いします」の礼。お互いの頑張りをたたえて心から言える「ありがとう」。そんな礼法や「精力善用自他共栄」の言葉の意味、それが生活の中でどう生かされているのか。そこまで追求して指導することが必要だと考えている。
 練習自体をただ楽しくすればいい訳ではなく、柔道家として身に付けるものがあることが魅力につながると考えるからこそ、生徒のよくない行動には注意もする。「なぜそれがだめなのか。柔道家はどうあるべきなのか。それを伝えられるのは日本にいるときにそれを教わってきたから」
 諸事情で柔道を離れる人も多いが、「たとえ離れたとしても、振り返って柔道は本当にいいものだったと思ってもらうことができれば」。日々そんな思いを胸に異国の地で畳に立ち続ける。「五輪は目標だったけど目的ではない。自分の柔道の通過点」。道は終わらない。

 

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