社説(11月9日)性被害相談 男性専用窓口の常設も

 旧ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害問題は、男性の性被害に対する社会の認識を一気に高めた。性被害は女性だけでなく、男性にも癒えない心の傷を負わせることを元所属タレントの告白で多くの人が知ったのではないか。
 政府が、男性や男児と保護者に特化した臨時の電話相談窓口「性暴力被害ホットライン」を開設するきっかけにもなった。臨床心理士など専門的な知識を持つ相談員が対応し、必要に応じて外部の専門機関などにつないでいる。
 各都道府県に設置されている性犯罪相談窓口「ワンストップ支援センター」は、性別に関係なく対応している。ただ、女性からの相談が圧倒的に多いため、被害者支援も女性に重点を置いた体制が組まれている。
 相談窓口に寄せられる性被害は氷山の一角で、多くの被害者が一人で悩み苦しんでいる。特に男性は相談をためらう傾向が強いといわれる。男性被害者の対策強化は一時的な取り組みで終わらせてはならない。専用相談窓口の常設を考えてもいいのではないだろうか。
 内閣府が2020年に打ち出した性犯罪・性暴力対策の強化の中で、男性被害者の相談にも対応できるようワンストップ支援センターでの支援実態調査や研修の実施を盛り込んだ。独自での対応が困難なら、専門機関と連携する仕組み作りも考えなければならない。より相談しやすい体制づくりが求められる。臨時相談窓口は12月下旬までの予定だが、相談状況によっては、延長を検討すべきだ。
 男性が相談になかなか踏み切れないのは、「男は強くなくてはならない」という男性像や、「性被害者は女性」という社会的イメージが背景にあると分析する専門家もいる。さらに、妊娠のリスクがある女性と違い、被害に遭ってから人に打ち明けるまで長い時間がかかるという。男性被害者特有の心理を把握し、適切な心のケアができる人材の育成も必要だ。
 未成年の性被害対策には学校や家庭の理解と協力は欠かせない。政府は、性別を問わず学校現場で被害防止を教える安全教育を全国展開し、保護者向けには被害に遭った子どものサインを見逃さない知識を身に付ける資料の作成を進める方針も決めた。実施に当たっては、教員や男児の保護者が男性性被害について認識を深めてもらう視点も忘れてはならない。
 ワンストップ支援センターは「本人が望んでいない性的な行為はすべて性暴力」と訴えている。この認識を被害者だけでなく社会全体で共有することが、相談しやすい社会づくりの前提になる。

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