伊豆半島の地震対策 観光客の存在も念頭に【東部 記者コラム 湧水】

 予想される南海トラフ地震を見据え、地域ぐるみの“共助”が根底に流れる「地域防災」という単語は社会に定着したように思う。しかし“共助”を構成するのは、地域住民に限らない。一時的に滞在している観光客も被災者となることを忘れてはならない。コロナ禍を越えて、旅行需要が本格的に復活してきた今、改めて考えたい。
 川勝平太知事と伊豆半島5市5町の首長が地域課題を話し合う伊豆半島地域サミットが10月中旬に開かれた。意見交換のテーマの一つは地震対策。伊豆半島が「陸の孤島」になりかねないことに改めて危機感を示す首長もいた。「(有事に南北の動線を確保する)伊豆縦貫道を早めに整備できるかが焦点」との意見も出た。
 伊豆市は同市の土肥温泉旅館協同組合と、災害時などに宿泊施設を要配慮者らの避難場所に活用できるよう協定を結んでいる。ほかの自治体でもこのような動きが進み、さらに観光客にまで裾野が広がれば、「安心安全な伊豆半島」をアピールできる。
 防災と観光を両立させる方策はあり、安心安全を観光地への誘客ツールとして活用できる。市は同市土肥で観光機能を併せ持つ全国初の津波避難タワーを建設中だ。異色の複合施設の建設にあたって菊地豊市長は「南海トラフ地震で死者ゼロを目指す」と強調。「伊豆市から津波に向き合う地域が増えてくれたら」と期待を寄せる。
 複合施設は高さ18メートル。津波発生時には海抜14メートル以上の3、4階に1200人を収容可能だ。さらに、1階は地元農産物の物販スペース、3階をレストラン、屋上部分の4階は展望台になる。市には年間8万人を超える観光客が訪れている。普段は観光客を楽しませ、災害時は命を救うランドマークになり得るだろう。市はあえて、眺望をふさぐ高さ十数メートルの防潮堤よりも、地域の観光と共存する観光複合施設を選んだ。
 マイナス要素として受け取られがちな伊豆半島と南海トラフ地震の関係。地震対策を強化し、安心して過ごせる魅力的な観光地としてアピールするなど、プラス要素に転換していくことも必要ではないか。
 (大仁支局・小西龍也)

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