大自在(10月24日)1964年の日本シリーズ

 プロ野球の総決算といえば、セ・パ両リーグ王者が対戦する日本シリーズ。野球好きの作家、故山口瞳さんはかつて「その年の野球がこれですっかり終わる」とスポーツ紙のコラムに書いた。「すっかり」に込められた寂寥[せきりょう]感。例年、10月下旬から11月にかけて開催される。季節の移ろいを感じることもあるだろう。
 1964年は違った。東京五輪が開幕する10月10日までに終わらせるため、前倒しで行われた。阪神がセ・リーグ優勝を決めたのが9月30日。南海との決戦は翌10月1日に慌ただしく始まった。
 だが、雨天順延もあり、最終第7戦が五輪開幕日と重なってしまった。「ライター、評論家、選手、監督が一堂に会する野球関係の祭典だが、オリンピックとぶつかって帰京した人もある」と山口さんは残念な思いをつづった。「昭和プロ野球徹底観戦記」(河出書房新社)に再録されている。観客動員も五輪の影響だろうか。土曜ナイターにかかわらず1万5千人ほど。甲子園に秋風が吹いた。
 当時の南海の主砲は故野村克也さん。選手で出場した6回のシリーズのうち、巨人以外との対戦はこの年だけ。野村さんがライバル視した王貞治さん、長嶋茂雄さんは、スポーツ紙の企画で東京五輪を観戦していた。
 野村さんは、シリーズ第6戦まで21打数2安打と不振にあえいだ。だが、五輪開会式後の夜は2安打1打点で日本一に貢献。興味をそがれた最終戦で見せたのは「月見草」の意地か。
 阪神対オリックス。64年以来の関西シリーズが今週開幕する。さて、どんなドラマが。

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