スタジアム構想 見えぬ道筋 静岡・清水区 エネオス遊休地開発【ニュースを追う】

 静岡市清水区で最後のまとまった一等地とされるJR清水駅東口にあるENEOS(エネオス)清水製油所跡地(清水油槽所内遊休地)の再開発を巡り水面下の動きが続いている。6~7月に地元の大手物流企業幹部や静岡商工会議所幹部らが相次ぎ、通販大手のジャパネットホールディングスが長崎市に建設中の長崎スタジアムシティを視察した。区民の期待も高い約20ヘクタールの再開発計画。ただ、資金調達の方法などはいまも決まらず、完成への道のりは見えにくい状況もある。

スタジアムの建設構想があるJR清水駅東口のエネオス遊休地。空のタンクが並ぶ=7月下旬、静岡市清水区袖師町(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
スタジアムの建設構想があるJR清水駅東口のエネオス遊休地。空のタンクが並ぶ=7月下旬、静岡市清水区袖師町(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
エネオス遊休地
エネオス遊休地
サッカースタジアム建設の資金調達方法
サッカースタジアム建設の資金調達方法
エネオス遊休地のスタジアム構想を巡る経過
エネオス遊休地のスタジアム構想を巡る経過
スタジアムの建設構想があるJR清水駅東口のエネオス遊休地。空のタンクが並ぶ=7月下旬、静岡市清水区袖師町(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
エネオス遊休地
サッカースタジアム建設の資金調達方法
エネオス遊休地のスタジアム構想を巡る経過

「まだ1~2合目」資金調達未定  日本の重厚長大産業を支えた三菱重工業長崎造船所幸町工場跡地に2024年完成を目指し建設が進む長崎スタジアムシティ(35・0%が完成)。ここに、清水区が地盤の大手物流企業幹部と静岡商工会議所の幹部らが6月中旬と7月中旬、相次いで訪れた。
長崎は全額ジャパネット
 清水エスパルスと同じサッカーJ2所属のV・ファーレン長崎のホームグラウンド(2万席)を核にホテルやオフィス、アリーナなどを併設する総工費約800億円のプロジェクト。訪れた幹部らは、運営会社の折目裕執行役員(43)らの説明を聞き、エネオス遊休地や清水港の将来像に思いをはせた。
 「自前主義」が社是のジャパネットホールディングスは、プロジェクトのお金は全て自己調達。折目執行役員は「自社だけで整備するのは利害関係の調整により自分たちがやりたいことができないということがあるためだ。本業の通販ではコールセンターや物流を自社で行う『自前主義』が評価されているジャパネットのサービスの考え方を注ぎ込む」と力を込める。
 JR清水駅東口のエネオス遊休地で議論されるスタジアム構想。建設主体の一角として特定の企業の名前は浮かぶものの、最終的に「だれがお金を出すか」は未定だ。
 全国には1社で開発を行う長崎以外にも、官民がさまざまな関わり合いを持ちながら作ったスタジアムがある。その中で静岡市が7月にようやく土壌や開発手法の調査などに入った現状に関係者は「まだ1~2合目。ただいったんそこまで行くと早い」とする。
再生エネショーケースに
 エネオスは今春、遊休地内に水素を年間最大80トン生産可能で同社最大の水電解型水素ステーション建設に着手。興津川由来の浄水を利用し、自社の太陽光発電設備で得た電気で二酸化炭素(CO2)を発生させずに「グリーン水素」を作る。大型蓄電池や自営線も設置し周辺の病院やホールに電気を供給する計画だ。
 「生産から利用まで一つの地域で行う、再生可能エネルギーの地産地消の『ショーケース』になる」と話すのは、同社の高萩誠コミュニティ事業開発グループマネージャーだ。水素の一大生産拠点が将来清水に誕生すれば、運送業など地元への経済波及効果を期待する声もある。トルエンと化学反応させることでタンクローリーで輸送が技術的に可能とされる。
 遊休地は戦前に準国策会社として設立された東燃(現エネオス)が自社で埋め立て工事を行った。1980年代にほぼ役目を終えた巨大タンクは清水の玄関口のJR清水駅からよく見える。スタジアム構想は、土地を有効利用したいエネオス側と、清水エスパルスのホームグラウンドとして老朽化した清水日本平運動公園球技場を持つ静岡市や地元経済界、市民の思惑の合致した先にある。新スタジアムは、エネオスの自営線から電力供給を受ける。
使途にこだわりなく
 ただ、地主のエネオスは遊休地の使途をスタジアムにこだわっていないようだ。高萩グループマネージャーは「上物の建設費用を出すことは難しく、地元ににぎわいがもたらされるような方向に進むとありがたい」と話す。行政や地元企業など遊休地の開発主体となりそうな相手と「一対一で話をしている。(だれが地域の窓口かという認識は)あまりない」とする。
 7月29日夜に清水日本平運動公園球技場にファジアーノ岡山を迎えた清水エスパルスのホーム戦は1―0で3試合ぶりに勝利。東京都江戸川区からオレンジ色のユニホーム姿で電動車椅子に乗り1人で観戦に来た男性(39)は、バス停から坂道をファンに助けられながら登ってきた。「新しいスタジアムでは熱心なエスパルスファンが集まるサイド席に車椅子席を作ってほしい」と期待する。
 28日の定例会見で静岡市の難波喬司市長は「市の調査が進めば、使い方をどうするかが少しまとまる。だれがプレーヤーの中で鍵になるかは自然と決まっていく」と述べた。  清水港水揚げ日本一 マグロ倉庫群の移転も浮上  エネオス遊休地内で進むもう一つのプロジェクトが飛島地区にあるマグロの冷凍・冷蔵倉庫群の移転。7月下旬に静岡市が開いた説明会には、同地区の十数社のうち地元5社が参加。移転した場合の土地賃借料の説明を受けた。今年秋口には移転希望とされる東京都内が本社の大手1社以外に、何社が移転するか決まる方向。スタジアム構想より早く具体化する可能性がある。
 水揚げ日本一を誇る清水港のマグロ。ただ、清水漁港振興会によると清水港の生食用冷凍マグロの水揚げ量(コンテナ除く)は2022年度に9万5318トンと20年間で約7割減。冷凍・冷蔵倉庫業界は後継者不足の問題を抱えている。冷凍マグロを裁断する技術を持つ職人の高齢化もある。飛島地区全体での遊休地内への移転は足並みがそろっていないのが現状だ。
 江尻地区の突端・飛島地区は1974年の七夕豪雨で出たがれきを埋め立てて作られた。地権者の県によるとほとんどが2028~29年に土地賃貸借契約の更新時期となる。市がエネオスと冷凍・冷蔵倉庫業界の間に入り遊休地内の移転希望をまとめる。同規模の倉庫の建て替えには各社が十数億円以上の出費が必要。7月下旬の説明会でエネオス側から提示された土地賃借料は現状より高い。
 遊休地内に移転すれば、太陽光由来の環境に優しい電力を使用した持続的な操業が可能。ただ、飛島地区の組合代表を務める静岡中央魚類の大石諭社長(52)も後継者の確保に悩んでいて「清水の冷凍マグロの文化は観光資源となっている一方、移転や事業承継には行政のバックアップも必要だ」とする。
 (清水支局・坂本昌信)

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