大自在(7月9日)大井川鉄道の動態保存

 鉄道の技術革新に伴って姿を消した蒸気機関車(SL)の動態保存を、大井川鉄道が全国に先駆けて始めたのは47年前のきょう、1976年7月9日のこと。
 SL復活のため、運転・整備の知識と経験を持つ旧国鉄OBを招き入れたと同社ホームページにある。その技術は引き継いでいるが、現代では再現の難しい技術や入手困難な部品もあるといい苦労がしのばれる。
 動態保存の開始を機に同社の名は一躍全国区になり、SLの運行も各地に広がっていった。先見の明があったと言うべきだろう。郷愁を誘うSLの旅は鉄道ファンならずとも十分に魅力的だ。SLは大井川流域の風景にもよくマッチする。
 ただ、昨秋の台風15号で沿線に甚大な被害が出て、家山-千頭間の運休が続いているのが気がかりだ。コロナ禍の収束で国内観光が活発化し、訪日客も回復しつつある。地域を挙げて知恵を絞り、何とか全線運行再開につなげてほしい。
 地方鉄道の経営環境が厳しい中、地域公共交通の再編関連法が10月に施行される。複数の都道府県にまたがる線区について、自治体や事業者の協議会を設けて国主導で存廃を協議する制度の導入が柱だ。背景に少子高齢化と首都圏への一極集中で多くの地方鉄道の乗客減少が続いている実情がある。
 一方、6月に三重県で開かれたG7交通相会合は、人口減少地域を含め、誰もが利用できる移動手段の提供が重要だとする閣僚宣言を採択した。どのようなアイデアで宣言に実効性を持たせるのか、まさに今、先見の明が必要とされているといえよう。

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